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■『ストレンヂア』
安藤真裕監督
インタビュー

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『ストレンヂア』安藤真裕監督インタビュー
第3回 いろんな人の血を入れたいと思った


小黒 結果的に今回の『ストレンヂア』は、BONESの人物アクションの集大成のような仕上がりになっていると思うんですが。
安藤 そう言われると、BONESでやった甲斐があったなと思いますね。BONES作品としてちゃんと定着できたというか、認めていただけたのは最高の褒め言葉とさせていただきます。
小黒 作画的にはどういう作りだったんですか。監督自身がまず原画に相当手を入れたりとか。
安藤 いや、そうでもないですよ。どちらかというと逆かなあ。キャラ芝居のポイントは注意してチェックしましたが、動物関係とかはもうお手上げ(笑)。作監の伊藤さんが凄く動物を得意とするアニメーターですので、もうお任せ状態でしたね。「すみません、よろしく!」って。アクションに関しては、「最初にまとめて振りたいな」というのがあったんですよ。20カットとかの単位じゃなくて、巧い人にシーン丸ごとみたいな感じで任せてしまって、その人の中でクオリティコントロールをしていただきたいな、と。それにやっぱり、劇場アニメーターのクラスともなれば、ただ暴走するだけじゃなくて、ちゃんと作品に合わせながら自分の個性を滲ませる事ができますから。そういう人にきちんと任せて、そこから先は俺の方からどうこうしないようにしました。だからアクションシーンに関しては、振ったら後はお任せみたいな感じですね。レイアウトチェックの時、どうしても(修正したい箇所が)ある時は入れるけれど、基本的にはコンテをもとに描いてくれたものを、なるべくそのまま活かす感じにしました。アクションアニメーターとしての性格上、そこに手を入れてしまうと、どうしてもその人の個性がなくなるような気がしたんです。『ビバップ』の劇場とかをやった時に思ったんですけれど、やっぱりひとつのシークエンスに、ふたつの個性あるアクションアニメータ−が参加すると、どっちかが潰されちゃうんですよね。それって凄く勿体ないな、という気がして。だったらそれぞれ分散して、俺がある程度大まかに見ていた方が、フィルムとして面白いものができる、個性的なフィルムになるのかな、と。
小黒 劇場版『ビバップ』の時は、相殺しちゃったんですか?(笑)
安藤 うーん、多分そうだと思うんですよ。中村さんも気を遣ってしまったし、俺もそう。やっぱりそうなってしまった部分はあるんじゃないのかな。
小黒 中村さんは「安藤さんのところには、ほとんど手を入れなかった」とおっしゃってましたが。
安藤 いやいや、そんな事ないですよ。スパイクのアクションにあれだけまとまりがあるのは、中村さんがちゃんとコントロールしたから。だからフィルムとして『ビバップ』の集大成みたいな仕上がりになったわけで。それはリップサービスで、ちゃんと見ていますよ。
小黒 今回の主力アニメーターの方達は、1人ワンシーンとか、そんな感じで担当されてるんですか?
安藤 そうですね。オープニングに名前が出ていた人達には、まとまった部分をやってもらってます。
小黒 伊藤(秀次)さんとか?
安藤 佐藤(雅弘)君とか、富岡(隆司)さんとか、中村(豊)さんはアクションシーンを、水畑(健二)さんには重要なキャラ芝居のシーンを、児山(昌弘)さんには犬や動物関係のシーンを……この人達は、1年ちょっとの間、80〜90カット近くやっていただいています。あと火矢が跳んだり、寺や櫓が崩れたりのエフェクト関係は金子(秀一)さん、村木(靖)さんに、仔太郎の芝居は矢崎(優子)さんら女性アニメーターの方に多くお願いしてやっていただいたりしましたね。他にもちょこちょこ、外の巧い人にもお願いしてやっていただいた部分はあります。
小黒 じゃあ、その4人でアクションシーンの半分ぐらいを描いている?
安藤 ですね。アバンは伊藤秀次さんですし、佐藤君は橋の上で初めて羅狼と名無しが戦うシーンと、後半の将監と羅狼が槍で戦うところ。それ以外にも、ちょこちょことつまんでもらったんですけれどね。富岡さんは、荒れ寺での鞭を使った金核のアクションシーンと、後半で名無しが剣を抜くところを、ある程度まとめてやってもらったりしました。中村さんはやっぱりクライマックスしかないでしょうって感じで、最初からあの対決シーンをやってもらうつもりでした。
小黒 中村さんの担当パートのカット割りって、安藤さんのコンテ通りなんですか。
安藤 いや、違いますよ。特にDパートは、佐藤君の担当した槍のところもそうなんですけれど、俺的にもネタが尽きていたところがあるんですよ。A、B、Cとやってきて、Dパートは時間がない事もあったんで。佐藤君に、「槍のアクションってさ、なかなか描く機会がないと思うんだよね。もっとやりたいと思わない?」とかなんとか言ってノセた感じで(笑)、「10カット以内でいいから、ちょっと考えてみて。俺が一応チェックするから」って、ちょっと増やしてもらったんです。
小黒 うわー(笑)。じゃあ、あそこは元々、監督の描いたコンテはないんですか。
安藤 ないない、ないですね。佐藤君に増やしてもらって、それを僕がチェックして「よし、じゃあこれで。ただし、自分で原画やってね」と(笑)。中村さんのパートに関しては、羅狼と名無しの対決シーンは一応50カットぐらいを想定してコンテを描いて、作打ちの時もその数でさらっと打ち合わせたんですけど、その時に中村さんに「アクションのポイントさえ押さえていただければ、この通りやってもいいですし、その間で膨らませてもいいですよ」と。「ただし、自分でやってね」って(笑)。そしたら最終的には、50が80ぐらいになりましたかね。
小黒 中村さんのパートは、もの凄く細かいカット割りになっていたんですけれど、あれは中村さんのセンスなんですか?
安藤 そうですね。
小黒 なんか、あそこで映画のリズムが変わるというか(笑)。
安藤 いや、でも最終的には、ポイントをちゃんと押さえていただいたので、クライマックスのテンションに合っていたと思いますよ。中村さんの場合は、コンテというより、レイアウト用紙の4分の1ぐらいのサイズで描いた画を自分で撮って、繋げたムービーを2回ぐらいに分けて、大体のタイミングを見せてくれたんです。そこで「何かあります?」みたいな感じで。基本的には中村さんにお任せしているんで、俺は親指だけ上げとけばいいんですが(笑)、一応、監督ぽく一言二言ぐらい言って、調整していくという感じでした。
小黒 ああ、コンテよりも先にムービーのかたちで、ラフムービーみたいなものを作ったんですか。
安藤 そうそう。一応、いろいろなセクションに配らなくちゃいけないんで、そのラフムービーの静止画を貼り付けてコンテみたいなかたちにはしましたけれど、厳密にはコンテでチェックはしてないです。
小黒 じゃあ、あのシーンのカットナンバーって、例えば「1200のA、B、C、D……」とかそんな感じなんですか。
安藤 そうですね。増えたところは「G、H」ぐらいまでありましたね。でも、これは誰でもやれたわけではなくて、中村さんだったから。僕の知っている中村さんなら大丈夫だろう、という信頼のもとに振ったわけです。上がりに関しては1対1の対決をアニメのクライマックスとしてちゃんと魅せてて、本当に凄いなあ、って思いました。圧倒されましたよ、画面から膨らんでくる“アニメ”力に。やっぱり今回、中村さんにはある程度まとまった部分をやってほしかったところもあるんですよ。TVでたまに10〜15カットじゃつまらないですよ、中村ファンとしては(笑)。
小黒 逆にそれだけやってもらわないと、あれだけのアクションにはならない。
安藤 そうなんです。僕がアニメータ−の時は、そういう振り方の方が仕事をしやすかったというか、やりやすい部分が多分あったと思うんですよね。
小黒 話は戻りますが、『ストレンヂア』の制作期間は、実質1年ちょっとですか。
安藤 うん、多分そうです。最初に作打ちしたのが、2006年の2月ぐらい。で、とりあえず全部に色がついて、完パケしたのは2007年の5月なので、作画期間は1年ちょっとぐらいですね。
小黒 作画を進めながら、コンテも進めていた?
安藤 そうですね。でも、最初の作打ちをした時に、コンテは半分ぐらいは上がっていましたね。そこからちょっと遅れたんですけれど、3ヶ月後ぐらいには一応Dパートまで全部できていました。
小黒 3〜4年前に東京国際アニメフェアでパイロットフィルムが流れたじゃないですか。ひょっとしてその後ずーっと作画してたのかと思っていましたよ。
安藤 いやいや、そんなわけないじゃないですか(笑)。その間、みんな違う仕事してますよ。パイロットができて、一応スポンサーもついて「やる事になりそうだよ」って話になった後は、みんなとりあえずそれぞれの仕事について。俺は俺で『鋼(の錬金術師)』のTVシリーズをやったりとか。やり始めたらもういっぱいいっぱいで(笑)。その間は全然『ストレンヂア』はやっていないです。
小黒 なるほど。
安藤 だからもう、完璧な凍結期間があって、ある時期から「ここからGO!」って感じで。
小黒 アニメフェアで観たパイロットフィルムは、ほぼチャンバラだけという印象だったんですが、あれは安藤さんの原画なんですか。
安藤 えーと、俺と中村さんですね。まあ、人もいなかったんで自分でやるしかなくて、中村さんに手伝っていただいて助かりましたね。ただ、キャラクターも描かなくちゃいけなかったんだ。それがいちばんつらかったな。原画はよかったんですけどね、パイロットフィルムで何がいちばんつらかったって……。
小黒 キャラ表ですか(笑)。
安藤 そう。でもお話もきちんとできていないのに、誰かに振るわけにもいかなくて、時間もなかったし。ホントに「キャラ表ってどうやって描くのかな? 後ろ姿もいるのかな?」みたいな感じで。
小黒 あ、今までキャラクターデザインはやられた事がないんですね。
安藤 ええ。やった事もないし、やるつもりもなかったんですけれど、やらざるを得なくて。俺は自分の画が好きじゃないから、他人のキャラで仕事できる原画を描くのが性に合ってたんだな、と再確認できました(笑)。
小黒 いえいえ。じゃあ、完成した『ストレンヂア』本編のキャラクターデザインは……。
安藤 あれはもう、斎藤(恒徳)君がゼロから起こしてくれていますね。僕は全然タッチしてません。
小黒 監督が描いたパイロットフィルムのキャラ表は?
安藤 もう全然。というか「参考にしないで」って言いました。よく、絵描き出身の監督が「好きにやっていいよ」って言いながら、もの凄く緻密なラフを描いてきて、「これってトレスするだけでいいんじゃないの?」的なものをキャラクターデザインの人に渡す事があるじゃないですか。
小黒 ありますねえ。
安藤 ああいうのが好きじゃなかったんですよね。「自分のキャラクターじゃない感じでやりたいんだよね」と言っているけど、それ、あんたのキャラクターじゃん! っていう。僕も自分の限界を知っているんで、「なるべくいろんな人の血を入れたい」というのがあって。斎藤君にはニュアンスとか、自分の好きな方向性だけを伝えたぐらいです。あとは彼がそれを踏まえて、自分の中でのせめぎ合いを通して出してきたものを見て、「なるほど、これが斎藤君の中で消化した結果なんだな」と。そこはなるべく活かす感じで作りましたね。
小黒 なるほど。
安藤 だから、キャラに関しては斎藤君のオリジナルですよ。逢坂さん、川元さんが築いたBONESの血をしっかりと受け継いでいるデザインです。
小黒 そうですね。BONESの血が脈々と流れているキャラクターデザインでしたね。
安藤 俺だったらこうはいかない。おかげで一方向だけじゃなく、違う人達の血もいろんなところから入ってきたので、フィルムとして厚みが出たと思いますね。

●『ストレンヂア』安藤真裕監督インタビュー 第4回につづく

●『ストレンヂア』公式サイト
http://www.stranja.jp/

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(07.10.01)

 
 
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