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■『ピアノの森』
小島正幸&岡田こずえ
インタビュー

■前編
■後編

 
『ピアノの森』小島正幸&岡田こずえインタビュー
後編 このピアノは、劇場で聴いてほしい



── 演奏は基本的にホールで録音されたそうですが、各場面のシチュエーションによっては、当然、聴こえ方は変わってくるわけですよね。森の中、教室、コンサートホールではそれぞれ音が違うし。それは後から音響で変えられたんですか?
岡田 もちろん全て変えてます。音響に関しては、日本でもトップクラスのサウンドプランナーだらけの状態で(笑)、1個ずつ全部工夫しながら、もの凄い手間ひまをかけて作っています。多分、同じピアノだったとは思えないように仕上がっているとは思うんですけど。
── 使っているピアノは同じなんですか。
岡田 そこで変えられれば、もっと(音響処理も)簡単だったんですけどね……。あんまりコンディションの悪いピアノは弾けないんですよ。アシュケナージさんくらいのクラスになると。
── ああ、そうでしょうねえ。
岡田 ピアノというのは不思議な打楽器で、1台ずつ全部違うスイートスポットというのがあるんです。そこに最も効果的な力で指が当たった時、最も鳴るようにできてるわけ。フェザータッチでポンと触っただけでも、本当にスイートスポットに入れば、これ以上ないくらい楽器全体が響く。そういう訓練を50年、60年となさっているアシュケナージさんみたいな方が、音楽室のピアノを弾く場面で、本当に学校の音楽室に行って録りゃいいかっていうと、ね。そこで録れる音は実際に求める音にはならない。そのあたりには、実は嘘がいっぱいあるんです。
小島 アップライトピアノとかね。
岡田 アップライトは実際に弾いてくださいましたよ。
小島 弾いた事ない、って言ってたよね。
岡田 あっても弾かないよ! アシュケナージがアップライトで、「子犬のワルツ」を弾いているんですよ(笑)。
── それは画期的ですね(笑)。
岡田 あり得ない、アンビリーバブルな事です。やっぱり、ホールで鳴っている響きを聞きながら弾く人なので、(スタジオで)ヘッドフォンをして弾くわけじゃないのでね。今弾いている音と、ホールに反響して戻ってきた音を聞きながら、次の音を出す。彼はそういうコンディションでしかピアノを弾けないし、そういう状況で録音せざるを得ない。だから、基本的にクラシックCDのような音で録音されてきているんですね。
── その音質を、各シーンの状況に合わせて変えていく、と。
岡田 そうです。音楽・音響まわりのスタッフは、1人1人がトッププロなんですよ、実は。一国一城の主ばかりが集まっちゃっているので、それを調整しなきゃいけなかった私は、気が狂いそうになったんですけど(苦笑)。僭越ながら私は映画側の音楽プロデューサーという事で、彼らに「監督がこうしたいと言っているので、ここからここまでよろしくね」とお願いするじゃないですか。で、やっぱりもの凄いプロの仕事をしてくれるから、出てきた音については何の心配もなかったです。
 元々の、素材としてある録音物自体、とてつもなくいい音なんですよ。ピアノにしても、チェコフィル(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)の音にしてもね。録音を手がけたオクタヴィアレコードの江崎(友淑)さんは、世界有数のレコーディングエンジニアで、今クラシック界のスーパースター達が「エザキに録音してほしい」と指名がくるほど、日本が世界に誇れるチームなんです。
── チェコフィルといえば、オーケストラ指揮を担当されたマリオ・クレメンスの名前も、最近では映画音楽ファンの間ではおなじみですよね。
岡田 マリオさんなんかも、スコア(総譜)を読み込む能力はトップクラスなんでね。クラシックの人達は「楽譜を解釈する」という言い方をするんですけど、行間をどうやって膨らませるかというのが、演奏家の力量なんです。そういう意味からすると、本当にもの凄いですよ。「この譜面がこういう風になるんだ」っていう。
── ホール以外で、スタジオで録られた部分もあるんですか?
岡田 アディショナルで録ったものは、レコーディングスタジオで演奏しています。海が弾く音階練習だとか、海が修平の家でピアノをメチャクチャに弾くところとか。
小島 音を録りながら、同時に画も撮っていく。
岡田 そう。演奏家が弾いている映像がないと、アニメーターさんが画を描けないから。
小島 だから、アシュケナージさんの演奏をホールで録音する時も、周りから4カメくらいで、鍵盤のアップとか、フルサイズとかを撮ってました。
岡田 それもあり得ない事なの。要するに、ミック・ジャガーがボーカルダビングしているところをビデオで撮ってるようなものなんだから。コンサートならまだしも「絶対にミスがないよう弾かなきゃいけない」という緊張感でレコーディングをしているところに、見慣れないカメラが何台もあるわ、日本人スタッフが山ほどいるわってところで、よくキレもせずにやってくださったな、って(笑)。
小島 本当は、カメラで回り込みたかったんだけどね(笑)。
── 4日間のレコーディングで、アシュケナージさんは延べ何時間ぐらい?
岡田 毎回、ほとんど1日がかりですよ。大変な重労働を引き受けてくださった。彼も神様じゃなくて人間だから、1回弾いて全部OK! ってわけでもない。普通に聴いてたらミスタッチとは思えないんだけど、本人は「左手の小指が降りるスピードが一瞬遅かった」みたいな、もの凄いこだわりを持って弾かれているんです。
小島 凄いテイク数でしたね。
岡田 うん。だから、本当によく付き合って下さったんですよ。ちょっと普通じゃ考えられない。
── 本当に映画作りに協力する気持ちがないと、そこまでは……。
岡田 できないです。単なるビジネスじゃ取り組めないですよ。
── カメラで演奏を撮影する事も含めて、ですよね。しかもムービーとして使うわけではない、作画の参考材料ですし。
岡田 やっぱり映像がなかったら、音だけ聴いて画は描けないわけだし。特にアニメーターの方達って、ピアノ自体を見た事も触った事もない方なんてたくさんいるでしょ。その方達に監督が「こういうアングルの画が欲しい」と言った時、指がどうやって動いているのかなんて、さっぱり見当がつかないじゃない? ちゃんと弾いていないといけないし、当然タイミングが合っていなければ……。
小島 うん。それがいちばんネックですからね。
── 今回の画と音のマッチングは、どういうシステムで作られたんですか。
小島 最初に録音物があって、それをコンテ撮映像に貼り込んだ段階で、そのワンカット内でどこからどこまでのフレーズを使うか、分かるじゃないですか。それを楽譜で仕切っていく。そこからカットごとに仕切った部分を割り出して、まず3Dで鍵盤だけ動かしちゃうんです。その映像が音とシンクロしているかどうかをチェックする。合ってたら、それを1フレームずつプリントアウトして、それに合わせて2Dの画をはめ込んでいく。
── 3DCGで作った鍵盤の動きに合わせて、指を描いているんですか。
小島 そうです。
岡田 どっちかしかないでしょ? 鍵盤の動きに合わせるか。指にセンサーをつけてモーションキャプチャーで指の動きを取り込むか。でも、アシュケナージさんの指にそれはできないから(笑)。
── それはさすがに無理ですよね。
岡田 弾けなくなっちゃうしね。そんな訓練を受けているわけでもないし。だから鍵盤を動かすしかないんだけど、どこを使うか分からないからって1曲まるまる動かしてたら、いつまで経っても終わらない。それで、まず使う場所を決めて、MIDI(注1)で演奏情報をそのままコンピュータに取り込んで、覚えさせた音のタイミングを3DCGで描いて、吐き出したものの上に指を描いていく。なおかつ(ピアノに)映り込みがあるから、ダブルで描いてるところもあるんだよね。
── ああ、ピアノ本体の黒いところにも手が映ってるわけですね。
岡田 そう。あれを全部描いてるんですよ。
小島 そういう部分を含めて、岡田さんがいてくれたんでね。はっきり言って作画スタッフには、あまりピアノに精通している人はいなかった。だから、どうやって音と合わせていくかという部分をひもときながら、自分らで地道に作っていくようなやり方をしてくれた。忍耐ですよね。本当によくやってくれたと思いますよ。
── 指の方を3Dにしているカットはないんですね。
小島 ないです。
岡田 できないですよね。だから、彼らは凄く難しい事に挑戦してくれてるんです。やっぱりこれだけピアノが出てくる映画で、弾いている指が音と違ってたら、もう洒落にならないじゃないですか。しかも、ピアノを弾いている人達にとっては、非常にポピュラーな曲を弾いているわけですよ。そこに出鱈目があると、それは時代劇にGパンを穿いて出てくるようなもので、成立しなくなっちゃう。
 もし、監督もピアノを弾くのが凄くお上手だとか、スタッフにもピアノの上手な人達が揃っていたら、逆にここまでやらなかったろうな、と。ピアノなんか弾いた事がない絵描きさん達に、どうやって分業でやらせるかとなった時、やっぱり真面目に1個ずつ潰していくしか方法はないんです。それをスタッフの方達は、凄く丁寧にやってくださったの。
小島 最初は、演奏シーンは2コマでいいんじゃないか、っていう話をしてたんですけどね。実際にアシュケナージさんの弾いてる画を2コマで出したら、とても演奏している風には見えないんです。鍵盤の動きが省略されちゃうんですよ。
── なるほど。
小島 だからこれは、フルでやるしかないな、と。
岡田 フィルムは1秒で24コマありますよね。だけど、もの凄く速いフレーズになった場合、10本の指がいくつの音を動かしているか。24分の1どころの騒ぎじゃないわけですよ、1秒って長いですから。それを間引いちゃうと、指の動きが省略されちゃう。だから全部やらざるを得なかったんですけど……みなさん、よくやってくれましたよね。最初の6秒間が上がってきた時は……。
小島 うわあ〜! って思っちゃったよ。
岡田 弾いてる弾いてる! みたいな(笑)。
小島 合ってるじゃん、って。
岡田 結構、感動しましたね。だから本当、ピアノをどう見せるかという事では、最後の最後まで……。
小島 岡田さんにはV編(ビデオ編集)まで付き合っていただいてね。
岡田 そうそう。V編からこのインタビューまで、なぜかずっと付き合っているという(笑)。
── 岡田さんも、こんなに端々まで関わったのは初めてじゃないですか? アニメでは。
岡田 音楽もののアニメーションというのは、もちろん初めてです。実写でも、台本で何気に演奏シーンが書いてあったり、主人公が楽器を演奏する設定とか書いてあったりすると、見た瞬間に「降りる!」って言いたくなるわけ(笑)。最終的にあり得ない切り取り方や、つなぎ方をされちゃった時には、お客さんが「金返せ!」って状態になるわけですよ。そんなみっともないものには関わりたくない。私自身、20代の頃に何度も実写作品でそういう痛い目に遭ってきているので……だからやりたくなかったんですけどね。
小島 でも、できたじゃないですか(笑)。
岡田 ……うん、できましたね。だから、もうやると決めてからは、最後まで付き合わざるを得ないだろう、と。やるんだったら本当に、音楽を録って渡して「ハイ終わり」というわけにはいかん、と。
小島 最後の方は助監督みたいだったよね。
岡田 ええ。もうほとんど記録のおばさんか助監督かっていう状態で(笑)、いつも監督の横に座ってました。
── 今回、オリジナル音楽は篠原敬介さんが手がけられていますが、いかがでしたか。
岡田 篠原さんという方はNHKのお仕事を結構されていて、N響の演奏曲とかも書いてらしたりしてるんです。それでアシュケナージさんが「シノハラだったらいいんじゃないか」と。あちら側からお名前が出てきた、というのが本当のところですね。そもそも、アシュケナージ・クラスの人が日本人作曲家の書いたオリジナル曲を弾くという事自体、アンビリーバブルなんですよ。
── しかも書き下ろしの新曲を。
岡田 それって、私の書いた曲をミック・ジャガーが歌ってくれるみたいなもので(笑)。全然違う国の作曲家が書いた、まだ評価もされていない楽曲を、クラシック界のスーパースターであるアシュケナージさんが弾く。その大きなハードルを越えるために篠原さんの名前が出てきたんです。で、彼が書いたテーマ曲「Forest of the Piano」を、アシュケナージさんは「素敵な曲だ。喜んで弾くよ」と言って弾いてくれた。そういう幸せなコミュニケーションから、篠原さんは登場しているんですね。彼が音楽をやるんだったら、僕は関わっていて恥ずかしい思いはしないだろう、と。非常に安心感があったみたいですよ。
 で、篠原さんは映画のメインテーマを書いたわけだから、それをモチーフにした部分を含めた劇伴のサウンドトラックも、そのまま引き受けてもらいました。
── どんなオーダーをなさったんですか?
岡田 基本的には、演奏シーンに使うピアノの録音も済んで、コンテもできて、(録音した素材を)こう使おうというプランニングまで全部できている。そうすると、あとは演奏シーンのクラシック曲以外の、映画のメインテーマなどの音楽を効果的にどう使うか、ですよね。多分、Mナンバーでいうと普通の映画よりは極端に少ないと思うんです。ピアノ演奏シーン以外で音楽がついてる部分って、少ないよね?
小島 うん。最初に、どこに(オリジナル曲を)入れようか、という打ち合わせの時から、「少ないね」という話はしていた。
岡田 そこは監督の嗜好でもあるんだけど。ハリウッドスタイルで、最初っから最後までベッタリ音楽がついてるのは、監督がわりと嫌いなのね(笑)。そういうのが好きな方だったら、多分もっとオーケストラの曲が終始ダーッと鳴ってて、ピアノがボンボン出てくるようなものになったと思うんだけど、彼はあんまりそういうのがタイプじゃなかった。だから逆に、どうBGMをつけるかを工夫しました。
── 演奏シーンの現実音と、背景音楽の境目がなくなる恐れもあるし。
岡田 そう。やっぱり伝えるべきは、ピアノの演奏がとっても素敵なんだ、という事。ピアノの音を聴いたら感動するんだ、という事。それをどう表現するか。音楽を「見せなきゃ」いけない。その効果を出すために、普通BGMとして使うような場所には、あんまり(劇伴を)使ってないんです。そこに音楽がつく意味が、ちゃんとある場所だけを選んでつけている。そこで篠原さんの書いたメインテーマが流れたりする。
小島 しかも、あのテーマはどんな状況でも使えそうな気がしたんですよ。
岡田 いい曲よね。明るくも聴こえ、暗くも聴こえる。映画音楽のメインテーマとしては非常によくできている。
── 理想的ですね。
小島 結構、何度も使いましたね。
岡田 実際の曲数はそんなに多くないけど、チェコフィルが弾いてるテイクだとか、ピアノで弾いてるテイクだとか、いろんな(バリエーションの)メインテーマがいっぱい出てくるので、観終わった時には音楽がたくさん流れていた気にはなっていると思う。
── 音楽の話ばかりになってしまったので、内容に関していいですか? 原作の事を考えると、この1本で全てが終わりにはならないじゃないですか。その点に関しては?
小島 うーん、まあ全てが終わりじゃないけれども、元々意図していたテーマ性みたいな部分は、1本の映画として表現できたとは思ってますね。修平君の視点で見るという集約のさせ方をした時点で、まとまりはできたんじゃないかな、というふうに思ってます。
── 劇場長編を監督されて、手応えはいかがですか。
小島 いやあ、もうねえ……劇場が病みつきになるというのは、よく分かりますよね。時間のかけ方とかも含めて。もちろん、TVはTVで面白いんですけれど、やっぱり違う楽しさがありますよね。監督という立場で関わった仕事としては、TV以上にいろんな事が僕の中で勉強になりました。音楽絡みの事も含めて。僕個人としては今回やれなかった部分もあるので、やっぱり今後も映画をやっていきたいな、という気が凄くしています。
── これだけ仕込みが多い作品だと、達成感も違うでしょうし。
小島 そうなんですよね。もう始まる前から何かしらのハードルがあって(笑)。それを倒さずにどうクリアしていくか……今回はそれが、並のTV作品のようなハードルの多さじゃなかったんですよ。
岡田 だってこれは、特別な障害物競走だもん(笑)。
小島 ホントにね。まあ、どうにか倒れずに、最後まで完走できた。それは僕としてはいちばん嬉しいです。
── 期せずして、クラシックや音楽を主題にしたドラマやアニメが、同時期に集中して登場した感があります。もちろんこの映画の企画段階では、まだそういう気配はなかったと思うんですが、最近そういうブームが到来している事について、お2人はどうお考えですか?
小島 全っ然、意識してなかったですね。まあ、意識してもしょうがないですから。ある意味「追い風」としてね、ブームに乗って観てくれる人が1人でも増えてくれれば、非常にありがたいなと思うし、そうなってほしいとは思います。ただ、作っている最中は全く意識しなかった。
岡田 私の場合は、「映画」にするためのスタッフとして投入されているので、企画段階でのスタッフではないんですけどね。まあ当然こういった業界なので、1本ヒットが出れば、同種の企画というのがたくさん出てくる。で、私は『ピアノの森』は後発だと思ったんですよ。ほとんど最後に近いだろう、と。そんな状況で、しかも劇場でやるとなれば、クラシックファンの観客が観た時に「本物である」と納得できるだけのクオリティで作れなかったら、絶対失敗すると思っていた。だから演奏シーンへのこだわりももちろんですし、パフォーマンスする人達の音の扱いにしても、メチャクチャ気を遣いましたよ。演奏もほとんど切らなかったし。そこで強いられた制限という意味でいうと、3時間語っても語り尽くせないくらいです。でも、それくらい音楽の人達に対するリスペクトを持って作った。だから普通にクラシック愛好家の方が「アシュケがピアノを弾いてるんだって?」と観に来た時、ちゃんと納得できるものにはしたつもりです。
小島 やっぱり、いい音響の劇場で観てほしいよね。
岡田 うん、劇場で観ていただきたい。音楽・音響チームは、とにかく劇場作品としてのクオリティを目標にして作ってるので。これが家庭用のDVDとかになった時には、この効果は出ないだろう、という事も全部分かっているんです。だから劇場でしか表現できない事……クラシックのCDとも、ライブDVDとも違う。劇場用映画の音として、我々が考えられるベストコンディションに挑戦した作品であるので、ぜひ劇場で体感していただきたい。それは切望してますね。
── サラウンド効果や、音場の再現性なども含めて。
岡田 もちろん。例えば演奏シーンのピアノの響きだけではなくて、その場で聴こえる台詞や効果音についても、音場特有の立体感を出すようにしています。私達がやっているのは3次元の音響デザインなので、奥行きとかを全部計算して作ってるんです。それがスモールルームになっちゃうと、効果が出ないんですね。興行用の劇場のスペースで観た時に最も効果が出るであろう、というのを計算してやっているので。
── このピアノは、映画館でしか聴けないよ、と。
岡田 劇場っていうのは、お客様を暗いところに閉じこめて、最初から最後まで無理やり映画を見せるわけじゃない?(笑) その空間の中で、ピアノの音というのはとっても素敵なものなんだ、と100分間お客様に認識させる。いい音なんだ、感動するんだ、というふうに誘導しなかったら……。
 それは音楽の力だけではできない。だから音響のスタッフとは綿密に打ち合わせしましたよ。このピアノはこれだけ音を拡げたい、だから効果はその邪魔をしないように、こういうふうに仕掛けよう、台詞のリバーブ(残響)はこうつけよう、とか。そういうのを何度もシミュレーションして。凄く真面目に、計画性を持ってやりました(笑)。
小島 というか、計画性を持たないとできないですよね、基本的に。
岡田 うん、できないね。だから最後のコンクールの場面で、海がカデンツァという、クラシックでいうところのアドリブで演奏するんです。ピアノの「駆け上がり」っていうんですけど(注2)、ジャカジャカと指が鍵盤の上を動くところを、とても画期的な事が起こったように感じてもらわなければならない。ここが映画の中でもいちばんのピークだ、と。そのためのプランニングを全部逆算して、綿密に組み上げていきました。大変でしたよね、監督?
小島 初めから分かっていた事です。
岡田 (笑)


●公式サイト
http://www.piano-movie.jp/

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音楽が導く感動の物語『ピアノの森』


(注1)MIDI
音程や強弱などの演奏情報を、鍵盤─音源(シンセ等)─PC間でやりとりするための統一規格。音楽制作の現場のみならず、通信カラオケや携帯電話の着メロ等で幅広く利用されている。

(注2)ピアノの「駆け上がり」
高速で上昇するフレーズ。ピアノ協奏曲等のフィナーレでの、いわばお約束。


(07.08.15)

 
 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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