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渡辺歩・小西賢一が語る『のび太の恐竜2006』
(2)「やっぱり画である事を大事にしたいんです」


―― 小西さんが参加する事が決まった後は、コンテを描いて、キャラデザインをして、という普通の段取りで作っていたんですか。
渡辺 そうですね。小西さんにやってもらえるという前提でコンテに入りました。そのために「内容が大変すぎる」という意見をいただくようなものになってしまって(苦笑)。今回は自分で作画監督をやるわけではないですよね。他の方にお願いできる喜びもあるんですが、やってもらう人達に自分のやりたい事を伝えていかなくてはならない。だから、最後の別れのシーンとか、心情の部分はコンテ段階で固めたいというのがありました。そこを描くのが今回の目的のひとつでしたから。他は普通の感じですよ。
小西 やっぱり、聞いてた予定よりも、かなり遅れてましたよね(笑)。
渡辺 (笑)。
―― 遅れてましたよね。だって、去年の秋ぐらいまでコンテ描いていたんでしょう。
渡辺 描いてましたね。
小西 僕の方も、他の仕事が色々ありまして。最初の頃は、なかなかどっぷり入れなくて、じっくりキャラの練習をするような時間はなかったんですよ。キャラ表も、描く練習をしている途中のものをキャラ表にしてしまったようなものだったんです。
―― 今回のキャラクター設定は、渡辺監督のTV版のために描いた設定とも違うんですね。
小西 最初はそれでいいんじゃないかって言ったんだけど、リファインしてほしいみたいな事をおっしゃったんで、「うーん、まあ、じゃあ」という事で(笑)。それも踏まえつつ、原作も踏まえつつ。コンテの前半も参考にしつつ、まあ自分自身の練習も兼ねて、描いてみるかという事で描いたものですけど。
―― 今回、やっぱり見所はスネ夫のこれ(と言って、頭の上で手で山のかたちを作る。スネ夫の前髪が、真上を向いた画の事)ですか。
渡辺・小西 (笑)。
小西 あれは渡辺さんのアイデアですよね。
渡辺 どうなんですかねえ。あんな画を描いたかなあ。
―― 印象的ですよね。上向いた時は髪の毛はこうなるのか、と思いましたよ。
小西 そうそう。「ああ、こうしていいんだ」と思いました。
渡辺 「やっちゃえ!」みたいなね。
小西 でも、原作にもあの画はあるんですよ。あんまり出てこないだけで。
―― あれはちょっとアオった画なの?
渡辺 アオってますよね。せっかく原作にあるものなら、使った方がいいですよ(笑)。動きやすくするために形を変えちゃうのは、ちょっとつまんないんで、なるべくそのまんまで。「うそーん」と思われるようなものを(笑)。
小西 どうしても原作の画だけだと立体として動かすには足りない感じだし、渡辺さんがコンテでどう描いているのかなというのを参考にしつつ、自分なりに動かす事を前提にした消化の仕方を探ってみたんですけどね。
―― 今回、作画のコンセプトとしては、どんなようなものだったんでしょう。
小西 コンセプトですか。最初に、今までにない感じにしたいなというのはあったんですよ。はっきり違う感じにしようと。で、いちばん違いが出せるのは、ちゃんとキャラに重みがある事ではないか。バタバタと動かすのは今までもやってきているというのがあったし、キャラクターにもう一歩踏み込んだ存在感を出したい。
―― 近年のシンエイ動画のアニメーションは、大塚康生さんを源流にして、芝山努さん達を経由してきている、一種の洗練されたスタイルがありますよね。
小西 そうですね。ただ渡辺さんが作監をしてた『風使い』とか『ワンニャン』は、何でもありになってきていたじゃないですか。そういう流れも意識していました。
 ただ実際やってみると時間もないし、今まで『ドラえもん』をやってきた原画マンさんにまるで違うものを描いてもらうわけにもいかない。全部を直す事も無理なんですよ。だから、そういう中にできるだけやりたい事を織り込むと。そういう感じですかね。
―― 今回、キャラクターをあまりパキッと描かないで、形をちょっと緩くして動かすところがあったじゃないですか。特にミドルサイズとかロングのショットで。あれが新鮮でした。
渡辺 ロングとかで緩くていいとこは、緩くしたみたいなところはありましたね。ほんとに、大まかな感じにしてしまう。本当は大きく描いて小さく張り込む作業をすれば、それなりに細かく描けるんだけど、それはほとんどやっていないんですよ。
小西 ドラえもんのキャラを、立体だからといって人形のようにはしたくないんですよ。やっぱり2次元と3次元の間のものにしておきたい。究極的には『(ホーホケキョ)となりの山田くん』みたいに、画としては図形的に平面だけど、アニメートで存在感を出したいな、とは思ってたんですが、結果的には中途半端になっちゃいましたね。
―― 今言われた「人形みたいなもの」というのは、立体なんですね。
小西 人形になってくると、形を保たなきゃいけないじゃないですか。
―― 確かに。今回は形を整えてないところが新しかった。
小西 そうですか。そういう風に見てくれると嬉しいです。
―― 大塚康生さんに始まる美意識を捨てている。それとは違う理想型を求めてますよね。
渡辺 (笑)。
小西 だから、あまり立体的な形を保つ必要はないかもしれないと思うんですよ。ドラえもんみたいなキャラクターでそれをやると、固い印象になってしまうんです。パースなんて多少間違っていてもオッケーにして(笑)、動きとか芝居とかで何かを伝えたい。そういう部分ですね。やっぱり画である事を大事にしたいんです。線に関してもそうですけど。
―― ちょっと誘導尋問的になっちゃいましたけど、あまり形を整えないという事も、作画に関するテーマのひとつだったんですか。
小西 テーマというのは大げさですが、意識はしました。
―― 形を整える事よりも、動きを優先したという事なんですね。
小西 そうですね。例を挙げると、原画さんが描いた原画と原画の間に画を足す時も、前後の原画と違う僕の画を入れてしまう事がありました。同じ1カットで原画さんが描いた原画も使って、僕の原画も使う。原画さんの画と僕の画が中割りで繋がれて、逆に柔らかめの動きになる。そういう計算でやっていました。そういう事をやってよいところと、よくないところがあるんですけどね。それを、イイカゲン、手抜きと呼ぶ人もいます……(笑)。
―― のび太たちが2度目に原始時代に行ったシーンが、相当かっとんでいましたよね。たぶん宮澤(康紀)さんの原画だろうと思うんですけど。
小西 そのとおりです(笑)。
渡辺 ピンポーン!
―― あのかっとびかたは、OKなんですね。
小西 いや微妙でした(笑)。作監としては、ですけど。
―― 微妙ですか(笑)。あれはかっとび過ぎですか。
小西 だって、いちばん目立ってたでしょ。
―― 凄く目立っていましたよ。
小西 橋本晋治さんより目立ってたでしょ(笑)。
渡辺 (笑)。
―― 橋本晋治さんは、ダイナミックに動き回っていたから目立たなかったのでは?
小西 橋本さんは橋本さんなりに意図したものがあって、成立しているから納得なんですけど、宮澤さんは意図が読めないところがあるんで。
―― 自由奔放ですものね。
小西 ただ、宮澤さんに頼んでるというのは、どういう事かという事です。原画を直して宮澤さんの個性を消してしまうのか、それとも生かすのかとの二択じゃないですか。そう思うと、宮澤さんにやってもらったからには、やっぱり生かそうという事になるんですよ。微妙、とか言っちゃいましたけど、やっぱり発想は凄いし、上がりがくるたびに、思わずほおが緩んでしまう、という感じで楽しかったです。
渡辺 そうですよね。
―― 宮澤さんの担当って、原始時代に着いた瞬間からですか。それとも着く前から?
渡辺 タイムマシンに乗っているところもそうです。(のび太達の)「うわあっ」てところから。
―― 時間移動のシーンの最後で、何か作画でグニャグニャしているところが宮澤さんですね。
小西 そうです。
渡辺 「離して、離してー」もそうですよ。
―― なるほどなるほど。
渡辺 楽しいでしょ(笑)。
―― 楽しかったですよ。ドラがタイムマシンを直しているところも?
渡辺 そうですね。僕、個人的にあのあたりは大好きですね。
―― 今回の作画の面白さを代表しているシーンだと思いましたよ。
渡辺 確かに重要なシーンでした。あれが、我々スタッフが最初に登った天王山だったかもしれません。やっぱり、まとめちゃうとつまらないんですよね。折角頼んだんだし、これだけ描いてもらったんだし、キャラもこのままでいい。そう思ってOKを出しました。
―― なるほど、宮澤さんの原画が、作画の方向性を決めたのかもしれないわけですね。
小西 宮澤さんはレイアウト段階で、ラフをいっぱい描いてくれて「キャラを載っけてください」というオーダーも出されたんですよ。だから、できるだけ(ラフにキャラ修正を)載せて返しました。そういうやりとりも、面白かったなぁ。
渡辺 宮澤さんも色々と悩んでいてね。色々お手紙を書いてくれたんだけれど、基本的に「OK!」と答えていました。
―― 原画に、監督や小西さんへの手紙がついていたんですか。
渡辺 原画とかレイアウトに書いてあるんですよ。「ここはこんな感じでよいでしょうか」とか。
小西 色んなアイデアを出してくれるんですよ。
―― そういえば、砂浜からのび太たちが出てくる時に、不思議な現象が起きていましたよね。最初に観た時は何が起こっているのか、全く分からなかった(笑)。
渡辺 (笑)。
―― あれは、なぜか砂が、その下にいるキャラクターの顔の形になっているんですね。
小西 そうそう。なぜか同じになっている(笑)。
―― あれは別に『ドラえもん』のひみつ道具の力とかじゃないんですね。
渡辺 違います。我々スタッフ間では、あれは「宮澤ワールド」と呼ばれていました。
―― 『(劇場版)xxxHOLiC(真夏ノ夜ノ夢)』に続き、またも宮澤ワールドが炸裂(笑)。
渡辺 そうなんですよ。これは楽しまない手はないと。当たり前の画の羅列を観ていくよりは、何かあったほうがいい。「やり過ぎじゃないか」とか、「おいおい」と思われる方もいるかもしれないけれど、そういうものをあまり淘汰したくないんですよ。アニメは、コンテを切った時点で、ほとんど内容が決まっているじゃないですか。エクストラカットもなければ、アドリブも利かない。宮澤さんのあの仕事は、アニメのアドリブの部分なんですよ。
小西 あそこまでできる人はなかなかいないですよね。

●渡辺歩・小西賢一が語る『のび太の恐竜2006』(3)に続く


(06.04.18)

 
 
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