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赤根監督に訊く「メイキング・オブ・ノエイン」
第1回 企画の成り立ちと2人の主人公


 放映中の『ノエイン もうひとりの君へ』は、並行宇宙をモチーフにした意欲的な内容のSFアクションだ。主人公は、函館に暮らす12歳の上乃木ハルカと後藤ユウ。ハルカは時空と次元に影響を与える“龍のトルク”の力を持っており、それを手に入れるためにラクリマ時空界から、竜騎兵のカラスがやってきた。だが、カラスはユウの15年後の姿だった……。
 『ノエイン』は映像的にも大変力が入っており、作画的に見応えのあるエピソードも多い。WEBアニメスタイルの読者にも、注目している方が多いはずだ。今回は、原作とシリーズ構成も務めている赤根和樹監督に、企画経緯から作画スタッフの活躍まで、色々な話をうかがってきた。




●プロフィール
赤根和樹(AKANE KAZUKI)
1962年3月24日生まれ。大阪府生まれ、奈良県育ち。O型。サンライズの制作進行、演出を経て、現在フリー。初演出は『鎧伝 サムライトルーパー』。他の監督作品に『天空のエスカフローネ』『ヒートガイジェイ』などがある。

2005年12月5日
取材場所/東京・サテライト東京スタジオ
取材・構成/小黒祐一郎

●関連サイト
『ノエイン もうひとりの君へ』公式
http://www.noein.jp/

バンダイチャンネル『ノエイン もうひとりの君へ』特設サイト
http://www.b-ch.com/cgi-bin/contents/ttl/det.cgi?ttl_c=425

―― 『ノエイン』では、毎回のようにOVAのような仕上がりになっていますよね。きっと前倒しで制作を進めていたんだろうと思っていたんですが、実は、そんな事はないそうですね。
赤根 ハハハハ!(笑) でも、企画はそこそこ前から動き始めていますよ。1、2年前かな。
―― 確か、去年(2004年)東京国際アニメフェアで、告知していませんでしたっけ。
赤根 そうです。企画を始めたのは『ヒートガイジェイ』が終わってからでした。『ヒートガイ』の時に、岸田(隆宏)さんに重要なカットを手伝ってもらってたんですよ。それもあって、岸田さんとぜひやりたいと思いました。『ヒートガイ』が終わってすぐに、岸田さんに「企画を一緒にやってくれないか」と言ったんです。
―― 企画の成り立ちから、岸田さんが関わっているんですね。
赤根 岸田さんありきで始まりました。「岸田さん、何をやりたい?」と訊いたら、「今の流行りから外れた物をやりたいよね」と言われたんです(笑)。もちろん、“萌えアニメ”のようなジャンルも、あるべきだと思うんですよ。日本が誇る文化だから(笑)。でも「俺達がこの業界に入ってきた時は、もっと違うものを目指していたような気がするよね」と2人で話したんです。僕らって『(宇宙戦艦)ヤマト』や『(機動戦士)ガンダム』を観てきた世代じゃないですか。ああいった毎週毎週、次の回が楽しみになる内容で、それでいてアニメーションとしてパワフルに動くようなものが観たい。総作監が全話の画をコントロールして、綺麗に仕上げる作品もありだけど、原画マンのパワーがぶつかり合っているようなシリーズをやりたいと思ったんです。それで、岸田さんが俺に注文したのは「画だけの作品だったら嫌だ。お話もちゃんと作ってくれ」という事だったんです(笑)。「じゃあ、俺が話をやるから、岸田さんは画をやってくれ」という事で始めた感じなんですよ。
―― どんなところから企画を進めていったんですか。物語先行ですか?
赤根 話については、岸田さんは割と任せてくれたんですよ。流行に乗ったものを作るのも、営業的には目指さないといけないところなんだけれど、やっぱり人の心に残るようなものがやりたい。自分がアニメにはまりこんだのが、10代後半じゃないですか。それと同じくらいの年齢の人達に観てもらえるようなもので、なおかつ、俺達の世代が観ても楽しめるようなものにしたい。そういったところから、企画に入ったんですよ。岸田さんは「ビジュアル的に違うものをやりたい。今までの流れじゃないものをやりたい」と言っていました。俺達はそろそろ、そういう事にチャレンジしてもいい時期なんじゃないか、そういった気持ちもスタートした頃からありました。

●『ノエイン もうひとりの君へ』の映像は、リアルタッチのキャラクターとアニメならではの奔放さの共存も面白い

―― 仕上がってる映像を観ると、日常描写はリアルに芝居させて、アクションになるともの凄いケレン味があったりしますよね。これは最初からの狙いなんでしょうか。
赤根 そうですね。岸田さん自身がアクションもできる人で、日常芝居も好きでリアルに描きますから。その辺が自分と相性のいいところでもあるんです。「女の子だからって、ブリブリーみたいなポーズはないだろう」「もう少し考えていこう」なんて話しました。で、今回は主人公達が小学6年生なので、「じゃあ、リアリティのある小学6年生をやってみようじゃないか」「今の子は手足が長くて、余計な贅肉がついていない。細いカモシカみたいな感じで、身体が軽いから動作も早いよね」。2人でそういった事を話し合いながら、デザインや動きとかができていきました。
 アニメーションについては、基本的に岸田さんに任せています。1話でもコンテにない芝居を追加してくれていて、それがとても魅力的なんです。アクションについても、どんな感じにやりたいかと訊くと「もっとデフォルメを利かせたい。そんな感じのコンテにしてくれないかなあ」「赤根さんのコンテはよく荒っぽいタッチで描いてあって、それが白土三平っぽいから、白土三平みたいなアニメーションにしてみようか」とか。最初にそんなミーティングもしました。
――現在の後藤ユウと、その15年後の姿であるカラスの2人がメインキャラクターとして登場していますが、どうしてこういったかたちになったんですか。
赤根 それが企画のきっかけでもあるんです。アニメーションって、まず子供が観るものという前提があるじゃないですか。だから、子供を主人公にしよう。でも、最近のアニメは大人も観るから、同時に主人公の大人の姿も登場させれば、両方の世代の視聴者が感情移入できるんじゃないかな。そういう仕掛けをしようと思ったんです。
―― カラスは、DVDを買うような人の年齢に近いわけですね。
赤根 そうです。やっぱり自分としてはアニメは、主に子供に観てほしいんですよ。実際に12歳の子が観るかどうかは別として、中学生ぐらいが観ても感情移入できるようなものにしよう。で、そういう子達が、10年後に『ノエイン』を観返した時に、中学生の時に観て分からなかった部分が理解できて、「ああ、そうかあ」と思ってくれると嬉しいな、と思っています。大人もカラスの側から観るだけではなくて、子供時代の事を、リフレインしながら観てくれるんじゃないかな。
―― 赤根さんはお子さんはいらっしゃるんでしょうか。
赤根 いやいや、独身ですよ(笑)。
―― そうですか。今回、親子関係にポイントが置かれているようなので、親の目線からドラマを見ているのかなと思ったんですけれど。
赤根 同じ世代の人間に親になっている人は、大勢いますからね。それから、自分の思春期の頃の、親に対しての印象を反映させているんですよ。大人になってから「ああ、そういう事だったのかな」と思う時があるじゃないですか。
―― 「親はこういう気持ちだったのかな」みたいな。
赤根 子供にとって、親というのは絶対的なものですよね。親はちゃんと人間として完成していて、間違いを犯さないものだと思うじゃないですか。でも、自分がその親の年齢になっちゃうと、「あ、結構ガキだよな」「人間として全然未熟じゃん」と気づくわけです。それで改めて、自分と同じくらい未熟な存在だった人達が、よく子供を育てたなあと思う。自分が子供を持ってないから、そういった事を余計に客観的に見られるのかもしれませんね。
―― なるほど。
赤根 子供の頃に親に対して不満を持っていたり、恨んだりしていたのが、自分が大人になると許せたりするじゃないですか。親だって人間として未熟なところがあるんだから、無茶を言ったり、感情で子供を叱ったりもする。だけど、完成されていない人間が頑張って子供を育てようとしているんだ。子供もそれを、ちょっと分かってあげるといいかもしれないよ。そういった事が、子供時代に分かると、その子は親に対する不満から解放されて、楽になるかもしれない。それはなかなか難しい事だと思うけれど。あるいは、俺に近い年齢の人達には「お前は自分が子供だった時に、親についてどう思ってたか、もう一回思い出せよ」と。「子供を感情で叱っちゃ駄目だよ」とか「自分のできなかった夢を、ただ単に押しつけるのはよくないんじゃないの」とか、そういう部分が出るといいかなと思っていますね。
―― 他に、物語の構成に関して重きを置いているところはどこになりますか。
赤根 それはね、人が人を好きになる事です。それは男女についてもそうだし、男同士でもそうだし、「どこで人間は人間を好きになるのかな」を大事にして、物語を構成しています。それは人間の根本的なところだし、一番美しい感情じゃないですか。答えは出ないだろうけど、それについての色々なパターンを見せていけるんじゃないかと思っています。特に異性の場合だと、今はすぐに性絡みの話になってしまって、気持ちだけを描くのが難しいじゃないですか。でも、12歳の男の子と女の子の話にすれば、性を切り離したところで、純粋に男が女を好きになる時、女が男を好きになる時を表現できるんじゃないかな。それで、主人公を子供にしたいというのはありましたよね。企画段階に周りから、主人公は中学生以上にしてくれよ、という話をよくされていたんですよ。俺はそれは嫌だった。現在で中学生以上の男女関係を描けば、それ(性)を無視して進める事はできないでしょう。そうなると、ちょっとテーマが狂ってくるんじゃないかなと思ったんです。そういった関係を前提にして作る場合もありますけど、今回はもっとピュアなところでやっても面白いかなあと。
―― 僕は、つい先日まで『ノエイン』は全13話だと思って観ていたんです。ああ、クライマックスになってきたかとか思っていたんですけど、全24話なんですね。まだ前半も終わってないわけですね(この取材が行われた時点で、第8話までが放映されていた)。
赤根 そうですね。
―― じゃあ、お話的には、まだ序盤。
赤根 序盤です。まだ、キャラクター紹介です。
―― 向こうの世界に行って、それで話が終わるわけではなくて。
赤根 まだ肝心のシャングリラが出てきてないですからね。それが出てきて、本格的に。
―― 竜騎兵の人達もみんな、活躍するんですね。
赤根 していきますね。時間ものなので、今現在の自分と過去。過去がどんなかたちに現在に影響するか。それは、トラウマとかそういったものになるんですけど。そういうものを折り混ぜて、ドラマを作っていければなあと思ってます。

●赤根監督に訊く「メイキング・オブ・『ノエイン』」第2回 量子論と岸田隆宏の活躍 に続く


●TV放送情報
ちばテレビ/毎週火曜25:30〜
テレビ埼玉/毎週金曜26:00〜
テレビ神奈川/毎週木曜25:15〜
テレビ愛知/毎週火曜27:58〜
サンテレビジョン/毎週木曜26:05〜
キッズステーション/毎週金曜24:00〜
         (再放送)毎週金曜28:30〜、毎週日曜24:00〜

●DVD情報
「ノエイン もうひとりの君へ」第1巻(全8巻)
ZMBZ-2441/カラー/約90分(本編73分+特典映像約17分)/ステレオ(リニアPCM)/片面2層/16:9スクイーズ映像(一部映像特典4:3)
価格:6300円(税込)
現在発売中(第2巻 2月24日発売)
収録内容:第1話「アオイユキ」、第2話「イエデ」、第3話「オワレテ・・・」
特典映像:「函館紀行 vol.1」 (出演:工藤晴香)
初回特典:岸田隆宏描き下ろし収納BOX(4巻収納)
発売元:東芝エンタテインメント
販売元:メディアファクトリー
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(06.02.13)

 
 
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