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名コンビが手がける日常的ファンタジー『絶対少年』
伊藤和典×望月智充インタビュー(後編)


―― ちょっと話は変わるんですけど、『絶対少年』って、今のアニメの文脈に上手く収まっているなあというか、今風のアニメだなあ、というのがこちらの感想なんですよ。
望月 えー、逆に凄く違和感があるんじゃない?
伊藤 俺は他のアニメほとんど観ないんで、今の質問については何ともコメントのしようがないけど、『絶対少年』をやる時に、自分で目指したのは、昔のNHKの「少年ドラマシリーズ」風の良質のジュブナイルだったんですよ。田舎で過ごすひと夏の体験ってさあ、結構“王道”じゃない。
―― そうですね。ただ、この夏始まった作品には、「田舎」「美少女」「まったり」というテイストのものが同時に出てるんですよ。
伊藤 それは、みんなが忘れてた事を、もう1回やってみようかなって、今一斉にやり直し始めてるというか。そういう事なのかなっていう気もちょっとするね。
望月 でも、巷のギャルものと比較されると……。
―― 心外ですか。
望月 いや、心外って言うか(苦笑)。……単純に意外。髪の毛の色が違う女の子が5人出てくるような、そういう作品とは違うはずだっていう思いがある。
一同 (笑)。
―― そうですか。「田舎」「美少女」「まったり」の話は別にしても、女の子の可愛らしさや魅力が、ちゃんと作品の「売り」になっているという意味では、今風なんじゃないですか。
望月 いや、それは人として当然の事でしょう。女の子を可愛く描くのは、時代とかじゃなくて……。
―― 普遍的なものである、と。
伊藤 まあ、そうなんじゃない。ヒロインは可愛く描かなくっちゃ。
望月 うん。それは時代と関係ない。ジャンルとも関係ない。
―― これは失礼しました。先ほどロケハンの話が出てましたけど、丹那を舞台のモデルにしたのはどうしてなんですか。
伊藤 単純に1回ご当地ものがやってみたかったんですよ。今、熱海に住んでるんで、熱海を舞台にというのも小説版のプロットの時に考えたんだけれども、ちょっと観光地然としすぎちゃっているんですね。あと、海に向かって開いているんで、妖精が出てくるという場所としては(開放感があって)つらいな、と。で、それまで車で横を通りすぎるだけで降りた事がなかった、丹那に降りてみたら、いいあんばいの盆地で、真ん中に森があって。それで、ここでできそうだな、と思ったんです。
―― 小説版を書こうっていう時に、もうモデルとして考えられていた。
伊藤 そう。だから、小説版を書き出す前にもロケハンやってるんですよ。
―― 望月さんは、アニメにする時に、ロケハンされているんですね。
望月 しました。
伊藤 だから、望月君は、森が森であるところは観てないんだよね。
望月 いや、一昨年はまだ森でしたね。それは去年ですよ。
―― え、何の話ですか。
伊藤 頭屋の森のモデルになったところが、今はもう伐採されちゃって、森じゃなくなっちゃったんです。
望月 アニメで使われた場所なら、もう少し残す努力をしてほしいよね。
一同 (笑)。
―― 「猫おどり」というのも、丹那にあるんですか。
伊藤 2、3年前までは、丹那の小学校の校庭でやってたんですよ。今は場所が変わって、狩野川べりでやるようになったんです。
―― 猫おどり自体は取材なさったんですか。
伊藤 いや、取材はしてないんです。ビデオを1本もらって見たんですよ。
望月 「猫おどり」って聞いても、どんな祭りか何のイメージも沸かないよね。盆踊りみたいなのかなと思うだろうけど。実際に、アニメに出てくるように、主に女の子のチームが猫のコスプレというか化粧をして1組ずつ1曲ずつ躍るんですよ。
―― ああ! 番組のとおりなんですか。
望月 うん、そのビデオを見て驚いて。これはアニメとして面白い、と思っちゃった。
伊藤 俺としては、「猫おどり」っていう名称だけでもOKだったんだけどね。
望月 美紀が、布買ってきて今年の衣装作るのに5、6回分を費やしてるんだよね。なんというテンポか、と我ながら思うよ。
伊藤 いやいや、『赤毛のアン』だって、最初の1日で何話も使ってるじゃない。
一同 (笑)。
望月 ああ、『赤毛のアン』で思い出したけど、伊藤さんがさっき「少年ドラマシリーズ」って喩えていたけど、アニメで似てるものを挙げるなら、自分はこれは「カルピス劇場」かなってずっと思ってた。というのは、作中で流れる時間をなるべく省略しない、というのをやろうと思ったのね。普通に人間が話していると、10秒ぐらい間が空いちゃったりするものだけど、アニメって大体畳みかけるようなテンポでやりがちでしょう。その10秒間を空けてもいいんじゃないか、と。そうすると、次に何を言うのか、10秒後に何が起こるのか分からないという――来週何が起こるか分からないという事より、うんと小さな事だけど――そういう雰囲気が出せるんじゃないかなあという事には頭を遣いましたね。
―― なるほどなるほど。キャストも非常にいい感じですよね。歩役の豊永(利行)さんとか。
望月 うん、キャストは全体的に凄くよかったですね。横浜編から主人公が代わるんですよ。豊永君も、あの芝居一発で作品の雰囲気を決めるぐらいの、よさがあったと思うんだけど、それを引き継いで、横浜編の希紗っていう主人公の女の子がまた凄いんですよ(編注:小林晃子が担当)。だから、今回、キャスティングには凄く助けられた。というか、声が入ってはじめて、このテンポは成り立つんだなって分かったかな。それは非常に上手くいったと思ってる。

 ▼第3話「名物アナウンサーがやってきた」より

―― で、2部はどういう話になるんでしょうか。
望月 続きです。主人公は代わるんだけど、物語はちゃんと続きます。
伊藤 1部の最後を見てもらえば分かると思うけど、最後に、もう舞台は横浜に行ってるんです。だから、田菜編は田菜編として完結しているんだけど、いろいろ少しずつ引きずってはいます。
―― 些末な事になりますけど、後藤真砂子さんが画を描かれている予告編、ちょっと変わったかたちですけど、どうしてああなったんですか。
望月 どうしてああなったのかは、もう忘れちゃったけど(笑)。予告で歩がまた出てきて、「猫おどりが近づいてきた」とか来週の説明をしても、この作品では面白くないだろうと思ったんだよね。むしろ、次にどうなるか言わない方がいいんじゃないかと。それなら予告編もいらないじゃないか、という話にもなるんだろうけど、もうひとつ現場の話をしちゃうと、NHKってもともと(他局に比べて)フォーマットが長いんです。だから予告をつけないと本編がかなり長くなって、現場的に大変になるんだよね。それでああなった。後藤さんにお願いしたのも、本編スタッフに負担をかけないためですね。
―― もうひとつ細かい事を。非常に渋い色遣いで、かなり心を砕いていると思うんですが。
望月 アニメ雑誌を見ると、なんてアニメの色はギラギラしてるんだろう、と思う事が多いんですよ。こんなにいろんな色を使う必要があるんだろうか、と。それで、赤と緑を画面から抜こうと思った。……まあ、最初からそんなに確信的にやったわけでもなくて、最初は、キャラクターデザイン・総作監の関根(昌之)君に、色数を減らしたイメージボードを描いてもらって。それで結果的にああなった。
―― でも、ヒロインの髪の毛は緑色ですよね。
望月 ああ、緑と赤を抜いたと言っても、原色に近い色を使ってないっていう意味で、別に緑色は出てくるわけだけど。
―― 思わずファンサービスなのかなあ、って。
望月 なんのファンサービスなの?(苦笑)
伊藤 たぶん、望月君もそうだと思うんだけども、「『(クリィミー)マミ』でファンだった人たちに、もう一度」とかって思いは全然ないよ(笑)。
望月 うん。そこで、「『クリィミーマミ』観てた大きなお友達をつかまえるために、髪の毛はこれだあ!」とかって、考えるわけないじゃない(笑)。
―― そう言われれば、そうですよね(苦笑)。
望月 あれは戸部(淑)さんのキャラ原案の色をわりと踏襲してるんですよ。だから、作品の雰囲気からいったら、全部髪の毛黒でもいいなと、と思ってたぐらい。例えば今(敏)さんの『PERFECT BLUE』だっけ、あれなんかもキャラクターの髪は、みんな黒でしょう。あれは出てくる人がみんな日本人だからだよね。そういう意味では黒でもいいんだけど、ただ、デザイン的にちょっと美紀なんかは髪の毛の量が多いんで、黒にしちゃうのはためらいがあった。だから、もっとショートでリアルな髪型だったら、黒にしていたかもしれない。
―― さっき、女の子を可愛く描く事についての話が出ましたが、『絶対少年』って、フェティッシュですよね。美紀の太股が画面にバンと映ると、凄くドキドキしますよ。
望月 まあ、それに関してちょっと真面目な話すれば、キャラクターをリアルに描くという時に、線を多くすればリアルになるという方向性もあるよね。で、『絶対少年』では、影も入っていないし、細かい描き込みもタッチも入ってないんだけど、輪郭はほんとにリアルな、肉の線なのね。それは関根君が考えるリアルな描き方なんだけど、それは非常にいいなと思ってる。そうすると、太股がそこにあるだけで、何かが違うんですよ。だから、太股見せただけでみんなドキドキするでしょ。ネットの感想でも、足の指が開いてるとか、そんな事で結構食いついてくるじゃない。
―― ああ、足の指を開くシーンは、エロティックでしたね。キャラクターが肉感的と言うべきなのかな。
望月 うーん、肉感的と言ってもね、じゃあ巨乳にすればいい、みたいな発想もあるだろうけど、そうじゃなくてね。潮音なんか胸は全然ないんだけど肉感的でしょ。それは関根君の功績が凄く大きいね。


▲横浜編のメインキャラクターとマテリアルフェアリー

―― なるほど。これから2部が始まるわけですが、最後に2部へ向けて、視聴者へのメッセージをいただけますか。
望月 自分が完成したものを観ての印象で言えば、田菜編よりも横浜編の方がより面白いと思っているんですよ。
伊藤 そうなんだ。
望月 うん。人間関係も、主人公達が高校生という事もあって、よりシビアというか、身につまされる部分もあって、横浜編を観てから田菜編を思い返すと、潮音がジタバタしてたりしてたのも、のどかなもんだったなあみたいな(笑)。
一同 (笑)。
望月 ただ、そうは言っても、田菜編あってこその横浜編ではある、2部構成になっている事に、ちゃんと意味はあるんですよ。だから、横浜編になって「ああ、知らないキャラだなあ」と思って観るのを止めないでほしいですね。最後まで観てもらえると、2部構成になっている意味も含めて、分かってもらえる何かがあるんじゃないかな、と。マテリアルフェアリーの存在の意味も含めてね。毎週ちゃんと観てると、面白いんじゃないかなあ、と思ってはいるんだけど……。最終回も全部投げ出しておしまいみたいな事にはしてなくて、その解釈というか印象は様々かもしれないけど、作り手としてはちゃんと最終回として作ったつもりです。
伊藤 望月君は横浜編の方が面白いって言ってたけども、実は――つまらないわけじゃないんだけど――結構つらい話も多々あるんですよ、横浜編は。だから、そのいちばんつらい部分を観て田菜の事を思い出すと、「あの頃は、みんな無邪気だったよねえ」って思うかも(笑)。
―― わりとシリアスな話なんですね。
伊藤 うん、そういうところがあって。ただ、そこを抜け出した後は、奇跡的な着地を決める最終回まで、わりとパタンパタンと進むんですよ。だから、田菜編でさえ、わりと観る人を選ぶアニメという部分はあったけれども、横浜編になると、もっとそうなるのかなっていう危惧は多少あったり(苦笑)。でも、ちゃんと終わるから! 放り出さないから! 着いてきて!
望月 ファンタジーと言っても、少年の心を持っていればどこかで現実とつながっている話、と思ってるんで。だから、何が面白いとは言いづらいんだけど、観ていれば面白いという、そういう不思議なシリーズかなと思うんだよね。
―― なるほど、自信作なんですね。
望月 いや、自信はないんだけど(苦笑)。ただ、自分でオンエア観てて、結構来週が気になる作品ではあるんだよ。自分で精神的に観返せない作品もたまにあるので。だから、オンエア観返せるだけ、ましかなと(笑)。
―― 今の発言載せちゃって大丈夫ですか?
望月 いいですよ。だって、作るたびに自信満々で、ぜひ観てくれっていうのは嘘でしょう。
―― じゃあ、自分に厳しい望月監督からすると、凄い好評価だ、という感じでどうでしょうか?
一同 (笑)。

●関連サイト
絶対少年
http://www.zettai-shonen.com/

●TV放送情報
NHK―BS2/毎週土曜日08:05〜


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(05.08.23)

 
 
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