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『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』
細田守インタビュー(3)


小黒 じゃあ、ちょっと違う話をすると。
細田 面白い取材だなあ。こんなに面白くていいのかなあ(笑)。
小黒 細田守さんと、演出家の橋本カツヨさんは同一人物なんですか。
細田 何を言ってるんですか、別人ですよ(笑)。
小黒 ああ、別人ですか。でも、かなり付き合いの深い人ではあるんだよね。
細田 うん。付き合いはいまだにね。最近引っ越ししたんですけど、彼はその引っ越しの手伝いをしてくれたりしましたよ。
小黒 2人は作風も似ているんだけど、今回の作品は、細田守が作っているのに、ちょっとカツヨ風になっていたよね。
細田 だいぶね。
小黒 細田守が冷静に物事を処理していく理性的な監督だとすると、橋本カツヨは情念の人じゃない。
細田 それは多分、逆なんじゃないの? 作品に表れるのはそうだけど、現実的には逆なんじゃないかっていう気がしますけどね。……自分で何を言ってんだか(笑)。
小黒 終盤が橋本カツヨっぽいというかですね、もっと言っちゃうと、彼がやった『ウテナ』の最終回っぽいよね。「人の憎悪に光る百万本の剣」が、そのまま出てきて。
細田 あ、なるほど、そういう事か。確かに「百万本の剣」だったね。
小黒 そのルーツのキセニアンの花も出てきたし。
細田 シナリオの時から、ラスボスが花だったんですよ。で、「敵が花ってアニメフェアでよくあるネタなんだよね、『(劇場版)セーラームーンR』とかさ」なんて話はしてたけど。
小黒 敵と味方が、同じ心の痛みを持っているところでも同じかな。
細田 あ、そうなんだ。劇場『R』って1回しか観てないからさ。詳しくは覚えていないんだけど。
小黒 キセニアンの花に操られている宇宙人フィオレというのが、友達のいない子で……。
細田 あ、そういえばセーラー戦士達も、実は友達がいないっていう話だったよね。
小黒 そうそう。で、友達がいない者同士で戦って……。ほぼ同じじゃない(笑)。
細田 じゃあ、幾原さんをパクリました、みたいな?(笑) 期せずして先輩の真似をしてしまった、とみたわけですね? なんだかイヤな分析だなあ(笑)。
小黒 ごめんなさい(笑)。それから『オマツリ男爵』は、『ルパン三世』で言うと『マモー編(劇場1作目)』ですかね。
細田 あっ! そうそう。そもそも、スタッフみんなで『マモー』を観たもの。
小黒 (笑)。
細田 「『マモー』みたいにしようぜ」と言ってたの。影なしでやる事とか、アクションのトリッキーさみたいなところも含めて。『マモー編』を理想としてやろう、という事を言ってた。
小黒 金魚すくい対決の時に、ゾロが刀を抜く時のカット割りって……。
細田 そうそう!!(笑) まさにそれ!
小黒 (笑)。『マモー編』の五右衛門だよね。
細田 あのカット割りは、はっきりと意図してパクった(笑)。もう、さすがだね! アニメ様、さすがですよ!
小黒 当たり前ですよ!(笑)
細田 ホント、そのまんま。アハハハ。あれ、かっこいいよなあ。今観てもメチャクチャかっこいいもん。
小黒 チョビ髭が出てきた時のドタバタとかも、ちょっと意識してるよね。
細田 うーん。ねえー。参っちゃうよね、ホント(苦笑)。今も続いてる漫画やシリーズがあるという前提と制約の中で、どんな映画が成立するのか、という思考のプロセスにおいても参考にしていますよ。
小黒 なるほど。じゃあ、作画の話に入ろうか。作画監督はどういう役割分担だったの? 今回はすしお君、久保田君、山下さんが三枚看板で……。
細田 メチャメチャ豪華だよね(笑)。すしおさんは元々「ONE PIECE」が好きだって知ってたので、すしおさんが作監をやるといいんじゃないかと漠然と思って、製作部にお伺いを立てたんだ。そしたら、今までの『ONE PIECE』の劇場にもすしおさんは参加してたんだけど、TVと絵柄が違い過ぎるという事で、劇場のメインスタッフともめたことがあったらしいんだ。僕はそれを聞いて、どんなことがあっても絶対にすしおさんを作監にしようと決めた。すしおさんの絵の方が原作に似ていると思ったし、スタッフともめるくらい原作に愛情を持っていると思ったから。僕はどうしてもすしおさんの『ONE PIECE』を観たかったんだよね。
小黒 じゃあ、メインはすしお君なんだ。
細田 そうです。はっきりと、そうですね。
小黒 メインキャラクターのキャラ設定は、すしお君?
細田 服装は久保田君や山下さんのアイデアが入ってるけど、メインキャラクターのラインをまとめたのは、すしおさんですよ。すしおさんがいなきゃ、あんな画面になってない。
小黒 作監のパート分けはどうなってるの?
細田 作監のパートは、カット数的には同じ分量になってると思う。でも、尺で言うと、山下さんが一番長いんじゃないかな。レイアウトで見せるシーンが多いから。
小黒 という事は、Aパートが山下さんなのね。
細田 山下さんとすしおさん。で、Bパートから久保田君が入ってきた。
小黒 パート分けじゃないんだ。どうやってるの?
細田 シーン分けですよ。レイアウトとか、美術設定が必要なシーンは山下さんがやって、アクションで見せるところはすしおさんがやって、女を見せるところは久保田君がやったという(笑)。
小黒 じゃあ、ロビンは久保田君なんだ。
細田 ロビンとナミは、主に久保田君の仕事です。
小黒 ロビン、よかったね!
細田 いいでしょ? あの難しい女性キャラたちを描き切るんだから、大変なものです。山下さんのロビンもいいけどね。
小黒 今回のロビンは、画もよかったけどね。台詞がたっぷりしてたのがよかったね。
細田 ハハハハ、そうですか。ありがとうございます。
小黒 ロビンには、作り手の愛情を感じたなあ。
細田 いや、みんなに愛情持ってますよ(笑)。特に僕個人は、ウソップに愛情を持ってると思うけど。ウソップをどうしてもかっこよく見せたかったんですよね。(『ひみつのアッコちゃん』の)チカちゃんを可愛い子にしたいというのと、同じような意味で。
小黒 ナミの見せ場は、ムチゴロウと呑むところが見せ場ですかねえ。
細田 ええ。
小黒 あの雰囲気が、ナミの年相応かどうかは分からないけど。
細田 (苦笑)。でもナミってああいう自立した女なんじゃないかな。
小黒 ロビンも呑むところがあったけど。
細田 やっぱり、ロピンの見せ場は、男爵と話す場面かな。男爵と対等に話ができるのは、やっぱりロビンぐらいだよ。
小黒 あとあれね、金魚すくいで決着をつける時の余裕ね(笑)。
細田 ハハハ、そうそう。「付き合ってやるわ」って感じのね(笑)。ああいうお姉さん、なんかよくない?
小黒 分かる分かる。
細田 なかなか現実にはいないけどね。
小黒 ファン的に残念なのは、ライフル部隊なんかに、サンジ達が次々にやられてしまうところですね。
細田 いや、申し訳ない。尺の関係でサクッとまとめたから、リアリティが足りなかったかな(苦笑)。
小黒 DVDで観ると、みんながリリーに取り込まれてからの重さは、さすがに軽減されるね。劇場で観た時は、どうしようかと思ったけど(笑)。

●『ONE PIECE ―オマツリ男爵と秘密の島―』 
 細田守インタビュー(4)に続く



●DVD情報
「ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島」
DSTD02437/カラー/91分/ドルビーデジタル5.1ch/片面2層/16:9
価格:4725円 (税込)
発売日:2005年7月21日
映像特典:初日舞台挨拶、劇場予告、TVスポット
発売元:東映
販売元:東映ビデオ
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(05.08.17)

 
 
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