色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第82回 DVD&Blu-Ray発売記念!『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき(その3)

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、盛り上がってますねえ! 僕も野球大好き人間なので、試合の行方がもう気になって気になって仕方ありません。やっぱりスポーツは生中継で堪能したいもの。あとから結果だけ知るってのは、どうにも我慢できません。

でも残念ながら予選の試合時間は、スタジオ間の移動とか、TV・ラジオのない環境で作業中だったり、とか。打ち合わせとかなら仕方ないですが、移動中とか、どうにかならないかなあ? と。携帯電話でニュースサイトの試合経過追っかけるのもイマイチだし……。

で、投入しました!トランジスタ・ラジオ!

ちっちゃいAMラジオをポケットに入れて、イヤフォンで中継聴きながら移動です。いやはや、これがなかなか! もうね、ラジオらぶ、であります。

でもまあ、なんともヴィジュアル的には、いかにもなオヤジ感が漂ってます……(苦笑)。

あ、そうそう、ワンセグでテレビ中継見ながらラジオで音声聞くってやってみたんですが、ワンセグってすっげぇ遅れて届いてるんですね? それこそ、ワンプレー分、投球1球分くらい遅いのです。

「そうか! ラジオ聞いてる方がワンセグで見てるヤツよりも『先取り』なのね!」

なんかちょっと優越感であります(笑)。

さてさて。

後半戦に入る前に、今日はオープニングと2本のエンディングの謎に迫ります。

まずはエンディングのお話。

■エンディング1(歌:KANA「reason」)

絵コンテ・演出:木村延景 原画:奥田佳子 美術:梶山成代 色彩設計・色指定:小日置知子

■エンディング2(歌:クノシンジ「光と影」)

絵コンテ・演出:中山奈緒美 原画:とみながまり 美術:行信三 色彩設計・色指定:秋元由紀

前半と後半でエンディング曲が変わるということは前々から聞いておりまして、だったらメインで色指定をお願いする小日置さん、秋元さんのお2人にそれぞれ全部やってもらおう、とはじめから決めておりました。

ですので、エンディングについては基本僕はノータッチ。それぞれ演出さんと打ち合わせてどんどん進めてもらいました。で、でき上がりを楽しみに待つ、という感じ(笑)。なので、エンディングについては僕からはそんなに語れないのであります。

一応12本&12本ずつのオンエアのつもりでいたのですが、某プロモーションの関係と本編の都合で、2の方のオンエアが少なくなってしまいました。

1の方では「ガラスのペンダント」が登場します。本編でリンゴがリューズにあげたヤツですね。あんまり深く考えてなかったのですが、本編でのペンダントの回、うまいこと小日置さん担当回に当たりました(笑)。

2の方ではフレンダーが画面にいません。で、演出の中山さんに訊いてみました。「ねえ、フレンダーは?」

「あっ!(滝汗)」

「……こ、これってフレンダー目線のエンディング、って解釈でいいのかな?」

「……え、ええ。そうですっ!」

……ということだそうです。

そして、オープニングのお話。

■オープニング(歌:カラーボトル「青い花」)

絵コンテ・演出:山内重保 原画:馬越嘉彦 美術:河野羚 色指定・彩色:國音邦生

「そうなんだよね、オープニング作んないといけないんだよね」と監督。去年の夏の終わり、わりと放送開始が見えてきた頃のお言葉です。でもそのあと、あんまりオープニングの話を突っ込んで聞いてなかったのです。というのも、僕自身、ジャンプ・ツアーズの『DRAGON BALL Z』やら劇場版『真救世主伝説 北斗の拳 ケンシロウ伝』の追い込みやらでそれどころぢゃなくて、あんまりその話に触れないようにしてたのでした(苦笑)。

で、ある晩、制作から電話が。「オープニング、打ち合わせやります」。

美術さんの都合もあって、打ち合わせは深夜1時から、となりました。僕はちょっとへろへろだったのですが、コーヒーがぶ飲みしつつ打ち合わせ。

「基本、みんな止め絵で見せようと思います」

本編の方はめちゃめちゃ濃く動かしている分、オープニングはシッカリと止め絵の積み上げで構成しようということなのでした。もちろん作画は馬越嘉彦であります。アクセントとして動きのあるカットも混ぜるのですが、基本はすべては骨太の線の馬越作画の1枚絵であります。

「問題はね、この作画の線をちゃんと生かす方法なのね」と監督。

「あ……」と僕。

「ポスターみたくできない?」

馬越作画最大の魅力は、あの線の「ざっくり感」だと僕は思ってます。彼の描く線の力強さが僕は大好きで、彼が描いたのポスターとかスチールは、線の「ざっくり感」、そのかすれ具合を生かせるように試みているのです。

ほら、まだセル画で作ってた昔のアニメーションだと、エンピツの線のかすれとかがカーボントレースでそのままセル画に出てましたよね? あのフンイキをなんとか出したい、そう考えて、線画をあえてざっくりと二値化して、線の補正もそこそこに荒々しく粗く乱暴な感じの線を再現していたのでありました。

で、まあ、ということで、結局僕が全部塗ることに(苦笑)。

「動いてるとこは、そんなにきっちりじゃなくても大丈夫だから」

僕の作業量的にもちょっとキツそうだったので、動きのあるカットは、仕上げ会社に彩色発注してもらったのですが、それ以外は僕が塗り上げていくことに。

美術さんとの打ち合わせは、カットごとの色味の方向性が中心でした。「このカットまでは青っぽく。次からはダン! ダン! ダン! とオレンジに」みたいな。背景の描き方のスタイルは本編の美術ボードをある程度参考にしてもらって、あとは「任せます(笑)」と監督。

で、翌日から夜中じゅう、僕は彩色作業でありました。

サイズは小さいですが、ある意味版権スチール塗ってるようなものなのと、そもそも僕は彩色バリバリやってるワケではないので手が遅いのです(苦笑)。

デジタル彩色にはPaintManという専用ソフトがあって、通常本編はみんなそのPaintManで彩色してくるんですが、僕はそのPaintManがイマイチ使いこなせてない(苦笑)。なので、Photoshop使って塗り上げていきました。ポスターとか雑誌用のスチールとか、僕はいつもPhotoshopで塗ってます。

そして、線との格闘。かすれた線に区切られた部分をいちいち正攻法で塗ってると大変で死んじゃうので(笑)、線の部分をレイヤー分けして1枚上にかぶせるように置いて保存しておいて、その下の元絵を「消しゴム」ツールを使ってグイグイと線ごと消し込むように塗っていきました。こうすればチマチマ塗らずに一気に塗れちゃいますし、線自体はレイヤーで保存されてるので大丈夫。で、塗り終わったら、上のレイヤーの線と統合してでき上がり。

本編以上にカットの色味の流れが重要なのがオープニングです。打ち合わせで決めた色味の流れを基に、曲調に合わせて、そして絵柄に合わせて、1カット1カット、色を決め込んでいきます。例えば、曲の盛り上がりに乗せて、たたみ込むようにだんだんと色味が強くなるようにしていったり、ひとつのカットの中でオーバーラップしてゆったりと色を変化させたり。

という具合にオープニングは作りました。残念ながら時間が足りなくて、最初の何話分かはタイトルカットの「青い花」が止め絵になっちゃってましたが、あとは瞳のカットの色味の微調整をしたくらいかな?

そんなオープニングでありました。いろんな作品でオープニングやってきたましたが、この『キャシャーンSins』のオープニングはかなりのお気に入りです。

■第83回へ続く

(09.03.10)