色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第83回 DVD&Blu-Ray発売記念!『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき(その4)

先週金曜日に『キャシャーンSins』なんとか完成させました。思えば約1年半、終わってみればあっという間だったような……。そんな達成感の感慨と、追い込みほぼ3日3晩徹夜の身体的ダメージで、先週末からまだいくぶん「ぼ〜〜〜」っとしてたりしています。

あ〜、そろそろ社会復帰しないと次の仕事が……。

とか言いつつWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)祭り全開の僕です(笑)。

16日早朝(日本時間)から始まったサンディエゴ・ラウンドの日本VSキューバ戦、確定申告徹夜で終わらせたその勢いで自宅でTV観戦いたしました。いやあ、日本完勝! すばらしい! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ひゅ〜ッ! ぱふぱふ!(←笛と太鼓らしい)

でね、中継観てたら、試合してる球場の客席スタンド、ガ〜ラガラなんですよ。あら? 現地行けばひょっとして試合観られるのかな?

「今から行っちゃおうか? サンディエゴまで。次の日本の試合に間に合うんじゃないのか?」

一瞬頭をよぎりましたが、あ〜さすがに仕事が……。

ま、いずれにしても、WBC終わるまで、僕はダメ人間です(苦笑)>関係各位

さてさて。

『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき、今週は本編第13話から18話まで。あ、全5回になりました、連載。最初の予定だと今回で最終回まで行っちゃうんですよ。それだと、地域によってはまだ最終回放映されてないわけで……。なので、前回にOP&ED編やりまして、全5回。

ということで、もうちょっとおつきあいください。

■第13話「過去は目の前に満ちる」

脚本:小林靖子 絵コンテ・演出:木村延景 作画監督:奥田佳子 色指定:小日置知子

後半戦最初の1本は年末最後の放送でありました。ふらりとブライキングボスが現れて、あろう事かキャシャーンたちにいきなりいろんなネタばらしして去っていく。で、残された連中みんな愕然! というお話。いきなりの急展開&年末年始で次回放送までずいぶん空いちゃうという、ずっと本放送でごらんになってた方々にはずいぶん気をもたせちゃったお話でありました。

このお話の色作り的には洞窟の中のシーンがポイント。ただでさえ暗くなりがちな『キャシャーンSins』画面なので、気持ち心がけて明るめに色を作ってきたここ数話だったのですが、やっぱりこの13話では洞窟の暗がりの、とりわけブライキングボスが語るたき火周りは暗くしたい。それがやっぱりフンイキっていうもの。なので「つぶれちゃっても、見えなくってもいいや!」という気持ちで暗めに作ってます。

僕たち色彩設計はキャラクターの色設計をする際、自分のモニター周りを照明落としたり遮光したりして暗くして、モニターの発色が正しく見えるようにして作業します。特に暗いシーンの色味を作る際には暗くないとダメです。明るい環境光のある状況では、モニターが、というより自分の目が周りの明るさに負けてしまって、深い色の部分が見えなくなってしまいます。

そうやって作ってる画面ですので、実は視聴される際にもTVの周囲の照明を消して暗い環境で見てもらえると、ある程度ちゃんと、暗い部分の中の色が見えてくるのですね。よく「TVを見る時には部屋を明るくし……」とかTV放映時には流れてたりしますが、『キャシャーンSins』に関して言えばそれは禁止です(笑)。

そうそう、この13話限定でエンディングがイレギュラーで変わりました。劇中挿入歌で使われてました『蒼い影』、このCDの販売プロモーションの一環でありました。そういえばこの時期、やたらTVで『キャシャーン』を熱く語っていらっしゃいましたね、世良さん。

この曲、世良さんが肝いりで作られた曲らしいんですが……ここだけの話、あくまでも僕個人の感想としてはですね、なんかね『キャシャーンSins』のフンイキではなかったなあ、と。たぶん、むしろ旧作の『キャシャーン』のイメージから作られてるんですよね。そもそもギターが合わないんですよ、『キャシャーンSins』には(苦笑)。……あ、余計なお話でした(苦笑)。

■第14話「真実は闇を照らし」

脚本:上代務 絵コンテ:宮下新平 演出:伊藤達文 作画監督:伊藤達文 色指定:秋元由紀

ルナの癒しを求めてルナの街を目指す一般のロボットや人間の集団と、やはりルナを求めて動いているディオの軍団。一方、記憶の一部を取り戻し、で、また悩んじゃってるキャシャーン。だが、小さな子供たちを守るためにならと闘うことを決意するキャシャーン。で、ディオと再戦。

新婚の伊藤さんの演出・作監回でありました。作監の追い込みギリギリ過ぎまで、ご夫妻で(!)スタッフルームで徹夜作業されてましたっけ。実はこの頃からそろそろ作画スケジュールが怪しくなってきてまして……。

このあたりのお話から群衆がたくさん登場してますが、ほとんど色指定さんお任せで作業してもらっちゃいました。この群衆の色味がいい感じを醸し出してます。色指定さんに本編カットでフンイキ作って仮塗りしてサンプル作ってもらい、それをチェックさせてもらいました。で、ほぼ一発OK。『キャシャーンSins』の色の世界感ちゃんと分かってくれてて素晴らしいです。

■第15話「死神ドゥーン」

脚本:高橋ナツコ 絵コンテ・演出:山内重保 作画監督:馬越嘉彦 色指定:國音邦生

ルナの守人だったドゥーン、再登場です。キャシャーンVSドゥーンの闘い。

で、僕らも2008年年末最後の闘いでありました。年末年始進行で、この12月は実に5本納品というスケジュール。とりわけ先の14話が23日、この15話は年末ギリギリ29日納品で動いてまして、で、まあ、終わらず(爆)、結局のところ年またいじゃったんですが(苦笑)。徹夜明けの大晦日の朝、スタッフルームから呆然と朝陽を拝んじゃいました。

この15話、美術はゆきゆきえさんでありました。

ちょっとアニメーションの現場から遠ざかっていらっしゃったんですが、山内監督のラブコールで久々に絵筆をとってくれました。ほぼ『明日のナージャ』以来、かな? 美術ボードはもとより、実際の背景もほぼ全カットゆきえさんの描いたものです。

ゆきえさんはの背景はパソコン上で描くデジタルの背景ではなく、実際に水彩用紙に絵の具で描き上げたもの。それをスキャン屋さんで取り込んでデジタル化してもらいました。ゆきえさんの絵の独特のその水彩のにじみ具合が撮影処理のにじみと実に相性がよくて、空(雲)の微妙な色の混ざり合い具合や、ガラスタイルの背景の青が特に美しく、色が画面にじんわりと出てくる感じが絶妙です。

作画も馬越作監だし、美術も素晴らしいし、徹夜続きの作業だったんだけど、なんかすごく嬉しくて終始ニンマリにこにこしちゃってました。

後日届いたゆきえさんからの年賀状に「4年ぶりのアニメは堪えました(笑)」とひと言。でも楽しそうでありましたよ(笑)。

■第16話「信じる力のために」

脚本:山田隆司 絵コンテ・演出:木村延景 作画監督:山室直義、渡辺奈月 色指定:小日置知子

ちょうど年末年始をまたいで作画のピークだった16話です。

そもそもずいぶん絵コンテで時間使っちゃってまして、で、さらにさすがに年末年始、とにかく作画が上がってこない。よってほぼ年明けから色指定、という話数でありました。本放送が1月第3週。なのでほんと、力でねじ伏せた感じでやりきった1本でありました。

毎回予告編は、その前の話数の原板のスケジュールに合わせて作り、その話数本編と一緒に納品するんですが、さすがにここまで絵が上がってこないと予告編が組めません。実はそれまでの話数でも、予告用カットの作業が間に合わず、本編では使ってない「ノーマル」な色で仮彩色したカットだったり、ってこともあったんですが、それでも作画自体は本編使用のものではあったんですね。でも、この16話はそれすらムリで、結局演出の木村氏が美術ボードやらキャラの色見本やらを使って組み上げました(苦笑)。

7話以降、毎回別々の美術デザイナーが美術ボードを担当する、という体勢でやってきてるのですが、この16話では『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』でお世話になりました本間禎章氏にお願いしました。実は僕が『鬼太郎』の打ち上げの席で口説き落としたのでありました(笑)。

■第17話「ガラスのゆりかご」

脚本:高橋ナツコ 絵コンテ・演出:伊藤尚往 作画監督:羽山淳一、濱田邦彦、北尾勝、馬越嘉彦 色指定:秋元由紀

16話よりも早く作画インしたハズなのに、なぜか16話以上にスケジュールがなくなっちゃった17話であります(苦笑)。

マタニティ・レダの衝撃的アヴァンタイトルで始まる17話。ルナが作られた研究所が登場し、そこはまたレダの記憶の場所でもあった。で、その場所には3体の子供型ロボットが何かを守って暮らしていた……というお話。レダがメインのお話。レダの「女」の部分が色濃く出始めた回であります。

ホート、ホーティー、ホールター。ルナの姉弟であるらしいロボット。そんなところから、色を作る時「ちょっと柔らかい、実体感の薄い感じ」にしようと考えてました。なので髪を色トレスにしてみました。

通常のキャラクターの髪は実線の輪郭で、撮影時の処理で実線の周りににじんだ影ができるのですが、色トレスならばその実線のにじみ影が出ないので柔らかく見えるのでは、と考えました。ホントはまゆ毛も色トレスに、とか考えてたんですが、表情が溶けて見えにくくなるのでは、という意見もあって断念。でも、それでちょうどよかったみたいです。

クライマックス、ホールターの胸から取り出される何か、ですが、当初のコンテではあんな風な感じではなく、もっとSFちっくなモノだったのを、監督がいたずら描きのように描いたメモ程度の絵を、その場で見てた馬越くんが「あ、いいんじゃないですかね、それで」ってことで設定に。で、それをもとに色を考えて、サンプル作って特殊効果さんに作ってもってもらったのですが……、う〜む、なんか思いの外ハデになっちゃって、ちょっと失敗でありました(ゴメンナサイ)。

この17話からエンディング2の「完全版」がつきました(14〜16話は暫定版でありました)。

■第18話「生きた時これからの時間」

脚本:大和屋暁 絵コンテ・演出:山内重保 作画監督:丸加奈子 色指定:國音邦生

13話からずっと、ストーリーの本筋をなぞってお話は進んできまして、17話で当面の明確な向かう先がはっきりとしたキャシャーン御一行。で、そこでモヤモヤしてるリューズの内面のお話であります。

姉リーザを滅びに陥れた張本人のキャシャーン、そのキャシャーンを殺すことを目標にキャシャーンを追ってきたリューズですが、あろうことかキャシャーンを好きになってしまい、ジレンマに陥ってしまったリューズ。しかも自分にも滅びが忍び寄ってきていて、その恐怖もリューズを苦しめます。

ほぼ全編リューズの夢の中のお話で構成されている18話。その最後に、夢の中? に現れたリーザによってリューズの気持ちが解き放たれるのでした。

作画監督の丸さんのひとり原画で、割と余裕を持って作画が進んでいた回でありました。なので、割とじっくり作業ができた気がします。登場人物も少なかったし(笑)。

ところで、18話と言えば「実写パート」がいろんなところで話題になりましたね(笑)。

あのパートは当初CGで人形を動かす、とかなんとかいろんな案があったのですが、最終的に「人間で撮っちゃおう」ってことになったのでした。監督の一眼デジカメEOS-1Dの連写機能を使ってキャラ(モデルさん)の演技を連続撮影して、それをアフターエフェクトに取り込んで加工したのでした。

撮影は納品の前日の早朝、スタジオからそんなに遠くない善福寺公園で行いました。本編カットの撮影入れが終わったあとの午前6時、参加したのは山内監督と監督助手の中山さん、演出の木村くん、そして僕。夜明け直後のイチバン冷え込んでる時間に、超薄着の衣装で撮影会です。木村くんがスクリプター、僕が雑用係です。公園の池の周りをジョギングしてるオバサンたちが「あらまあ、寒いのにねえ、大変ねえ」と通り過ぎていきます。

絵コンテを基に尺に合わせてリハーサルして即本番。約1時間で撮りきって、近所のファミレスで約1時間半、暖をとりました(笑)。で、スタジオに戻って撮影さんにデータ渡して打ち合わせ。

で、あんな感じになりました(笑)。

あそこまでぼかしちゃうとは思ってなかったので、でき上がり見てちょいビックリ。ま、そうだよね、素で顔出しはマズイだろうし。あ〜、傍らにあった木の切り株がどうにも「井戸」に見えるよなあ(苦笑)。

というわけで、あの映像に写ってたのが誰だったのか、もうおわかりですね?(笑)

■第84回へ続く

(09.03.18)