色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第30回 昔々……(22) 『聖闘士星矢』その9 劇場版『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』絵コンテの絵と打ち合わせ伝説

先日おっきなテレビを買いました。37インチのフルスペックハイビジョン液晶。「世界の亀山モデル」ってヤツですよ。MLBの中継観たり、ケーブルテレビで海外ドラマ観まくったり、DVDなんかで映画観たり。いやあ、こういうの長いこと憬れてたのですね(笑)。

ゆったりソファに座ってまったりと。このソファってのが特に映画観るにはいいですね。まるで「ぷち映画館」な感じ。

あ、アニメは観てません、まだ(苦笑)。

最近はHD対応規格での画面作りに移行しつつあるアニメ制作の現場なので、秋の新番中心に、いろんな番組をいろいろ気をつけて観ていこうかと思ってる10月です。

でもまあ、イチバンのお気に入りは、なんと言ってもPS2の「塊魂」(笑)。奥さんと2人、おっきな画面に多少酔いつつぐるんぐるん格闘中。今月はX-BOX360版も発売されるしなあ。楽しみです!(笑)

さてさて。

長らくご無沙汰の『星矢』話、再開です(笑)。

1988年春休み公開だった劇場版『聖闘士星矢 神々の熱き戦い』が終わって、同年夏休み8月公開の劇場版『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』まで約4ヶ月。

すでに絵コンテ作業には入ってるにしても、70分の尺の映画作るにはちょっと(かなり?)厳しいスケジュールではありました。でもまあ、監督以下、僕らスタッフは『神々の熱き戦い』で手応えみたいなものをシッカリ掴んでいたこともあって、気持ち的には気合い充分でありました。

『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』は、大泉スタジオ新館2階にありました。つぎはぎ建て増しで構成されている大泉スタジオの当時イチバン新しかった棟が「新館」で、ここは1階に「合作」作品のスタッフルーム、2階には『湘南爆走族』や『Crying フリーマン』などのビデオ作品のスタッフルームがいくつも並んでいました。その中にこぢんまりと、我が『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』も収まっていました(ちなみに現在は、新館2階のそのあたりは、撮影の部屋と僕がいる色彩設計部屋になってます)。

スタッフルームには、一番奥に監督の山内さんがどっかりと陣取り、その隣には演出助手の席。背中合わせに制作進行のAさん(女性)の席。あと予備の席がふたつほど。それだけの小さな部屋です。作画監督の荒木さんは荒木プロの方で作業されるので、スタッフルーム内に席はナシ。美術も僕もそれぞれスタジオ内の自分の席での作業ですので、スタッフルームに席はナシ。

山内監督は、休みの日は自宅でコンテ作業でしたが、それ以外はずっとスタッフルームでコンテ作業ともろもろのチェックです。なので、忙しくなるまでのかなりの時間を、僕はそのスタッフルームに入り浸って過ごしていたことを覚えてます。なんかね、楽しかったんですよ、この部屋にいることが。

ある日のこと、作画打ち合わせが終わった監督と荒木さんが入ってきて、荒木さん、監督の机の上の書きかけの絵コンテを眺めてます。で、一言。「画がみんな山内くんだねえ」。

「え? そんなことないですよ。ほら、ちゃんと星矢でしょ?」と監督。「いやいや……」。監督の描いた絵を指しながら、荒木さん「ほら、人間って、いちばんたくさん見る顔って、鏡の中の自分の顔なんですよ。だから、絵を描くとどうしてもイチバン自分に似てくるモンなんです」。そういえば、山内監督の描く絵コンテのキャラは、確かに顔も体型も山内監督に……。「おおっ、なるほど!」と、深く頷く一同。1人、監督だけは納得いかないご様子でしたが(笑)。

さて、やがて絵コンテも終わり、総カットが出たところで、全編通しての美術と色指定の打ち合わせとなりました。今回は窪田さんは美術設定と美術ボードのみを担当し、美術監督は内川氏が担当。それほど『星矢』に精通されてない内川文広氏が美術ということもあって、入念な打ち合わせになることは必至でした。

打ち合わせはスタッフルームのはす向かい、通称「ビデオルーム」という会議室で行われました。開始時間は午前11時。気合いタップリ、さあスタートです。

本編の導入部は、この本作の大事なフンイキ作りのシーンです。監督がメモ用紙代わりの修正用紙に、ざくっざくっと説明の絵を描きながら、1カット1カット、細かい説明が続きます。時計の針はあっさり正午を越え、昼休みになりました。が、やっと調子が出てきた打ち合わせです。みんな暗黙の了解、とばかりに昼休みヌキで打ち合わせが続きます。

やがて内容の方は、星矢たちがサンクチュアリに乗り込んで、アベルの手下の聖闘士たちとの闘いが始まります。「ワザ」のカットの一連は、作画と美術、色指定、そして撮影のワザとアイデアの結集です。まず監督の頭の中にあるイメージの説明があって、それに対して、「それならば、じゃあこんな風にしませんか?」と美術や僕からの提案があって、その具体的な方法やそのために必要なマスクの指定の話、などなど。アイデアを出し合って形になって、カットのイメージが膨らむにつれ、その打ち合わせ時間も当然ながらどんどん膨らんでいきました。

時計の針はさらに進み、3時休みのチャイムが鳴り、やがて、夕方の終業のチャイムが……。窓の外の景色は、だんだん夜へと移っていきます。打ち合わせは、トイレ休憩を2〜3回挟んだだけで食事をとることもなく延々と続いていました。しかも、内容的にはその時点でまだ、星矢がやっとアベルの神殿にたどり着いたところでありました(笑)。

結局、全編の打ち合わせが終了したのは午後9時少し前のことでした。実に約9時間に渡るノンストップの打ち合わせ。劇場作品の打ち合わせだしと、ある程度の覚悟はしてましたが、まさかここまで長くなるなんて。でも、みんな最後まで集中力が途切れることなく打ち合わせをやりきったのはスゴイです。ま、正直言って、終わった後、僕も美術のお2人も、どどーっと一気に疲れが吹き出したのは言うまでもありません(苦笑)。

「あれ? 結局ご飯抜いちゃったね」と監督。「言ってくれれば、途中でご飯にしたのに、だ〜れも言い出さないんだもの」。

最初から最後まで、変わらずマイペースで元気だったのは山内監督ただ1人でありました。

■第31回へ続く

(07.10.02)