色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第3回 昔々あるところに……(2)

先日お仕事用に新しいパソコンを買いました。MacPro。僕もとうとうintel-macです。メモリを5GBに増設して早速お仕事に投入。ぬぉっ、速っ! PhotoshopもTraceManもPaintManも自分史上未体験の速さでサクサク動いてますよ! あとは僕自身の手が早くなればいいんですけどね(……遠い目)。

さてさて。

いきなり前回の訂正(笑)。1985年でしたね、僕が東映動画に入ったのは。さっき、どうも年数が合わないんで、指折り数え直してみました(苦笑)。そんな1985年のお話から。

東映動画での僕の最初のお仕事は仕上課の[仕上進行]でした。そう、色指定じゃなく、まずは進行業務からだったのです。まずは制作の仕組みをちゃんと理解したかったので、割と慣れてるはずの進行業務から始めたかったのが理由で、敢えてお願いしたのでした。

東映動画では仕上と美術にそれぞれ進行が配置されていて、制作進行と連携を取りつつ、それぞれの作品の仕上発注やセル上がり(美術は背景発注と上がり、ですね)を管理していました(コレは今も同じです)。通常、作品単位で制作進行がすべて管理していくというのが一般的ですが、東映動画の作品制作は、作品単位ではなく、ある意味「工場」的にいくつもの作品を一括・並行して作っていくシステムなので、こういった課ごとの管理態勢が有効になるのです。

まず担当したのが『夢戦士 ウイングマン』。この作品の最後の何話分かをお手伝い。っていうか、まだこの時は見習いって感じで、仕事のノウハウを先輩について習っていました。ほどなくして新番組『コンポラキッド』の担当に。この番組の立ち上げから1クール分ほどまでかかわった後、いよいよ[検査]に異動になりました。

前回も書きましたが、東映動画社内の色指定さんは当時[検査]と呼ばれてました(というか、社内の部署名的にはいまだに[検査]だったりしてます)。当時東映作品は、背景美術のみならず、キャラクターの基本の色も、すべて美術デザイナーが決定していました。キャラクターデザイナーが描いたキャラの線画を美術デザイナーに渡して、それにセル絵の具の色指定を入れてもらってセルにします。小道具や劇中の背景色合わせもすべて美術に線画を渡して指定してもらうのです。なので仕上がちゃんと塗れてるかどうかの「検査」をする、そういうことだったようです。ですから、あくまでも[色指定]と[検査]が仕事で、まだ今のような[色彩設計]という考え方は東映動画にはありませんでした。
実際に[検査]と言っても、すでにその当時、TVシリーズ作品の塗り上がりのチェックは各担当プロダクションの仕事で、実際にセルの上がりチェックをするのは劇場用作品やTVスペシャル作品、それと「合作」と呼ばれていたアメリカのアニメーション制作会社の下請け作品でした。

さて、いよいよ[検査]に入った僕の最初の作品は『オーディーン 光子帆船スターライト』。この作品の仕上検査の手伝いに投入されました。この作品は『宇宙戦艦ヤマト』の西崎義展氏が製作・プロデュースした劇場用作品で、この年の8月に公開された作品です。僕が投入されたのが確か5月後半で、その時点でまだほとんどでき上がってませんでした(笑)。とにかくスケジュール的にも、内容的にも、そのほかいろいろスペシャルに大変な状況だったのを憶えています(最終追い込みの頃、社内のありとあらゆる空きスペースが撮出し部屋〔[撮出し]は、セルと背景を合わせて、撮影の指示をする作業〕と化し、最大瞬間値でなんと17人の演出さんが撮出しを手伝う、という非常事態でした)。

で、僕は毎日、来る日も来る日も、韓国から塗り上がってきたセルを、1カット1カット検査し続けてたのです。

セル検査というのがどういう作業か、と言うと、まずセルと動画を「タップ」と呼ばれる道具で固定します。タイムシートでセルの動きや重ねの順番を確認しつつ、文字どおり1枚1枚ペラペラと繰り返しめくりながら、トレス線の補正から、塗り間違いや絵の具のはみ出し、セル表面の傷などのチェック・修正までしていく、そういう地道な(笑)作業です。はみ出しを削る竹べらや、補正用のペン、小さな塗り間違いをセルの表から修正するための溶液など、なかなか「ワザ」「職人」な世界です(笑)。

で、毎日、昼から夜、時には明け方までその作業。

毎晩深夜、韓国から手荷物でセル上がりが運ばれてきます。ある日、その手荷物に一緒におみやげとおぼしきキムチの壺が入ってました。ところがそのキムチ、どうやら密封の状態がダメダメだったようで、なんとセル上がりにキムチの汁がじょわぁ〜っと染み込んでしまってたのです。当然、カット袋、タイムシート、そして動画用紙がしっかり吸い込んで、開けるカット開けるカット、すべてキムチ漬け。それらを乾かしてセル検査するのですが、もう、1枚1枚ペラペラするたんびに「これでもか!」というキムチ臭が……(笑)。

そんな苦労をしつつ、なんとかギリギリ完成にこぎ着けた『オーディーン』。結局社内でのスタッフ試写は行われず、たまたま朝帰りとなった公開日初日に、新宿の映画館で早朝第1回目の上映を見たのでした。

■第4回へ続く

(07.01.23)