色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第4回 昔々あるところに……(3) 初めての色指定は「合作」でしたね

先週末、知り合いのツテで「デジタルシネマにおける色空間」というセミナーを受講してきました。内容は、デジタル映像における「色」の表現域が、映画上映のデジタル化やテレビのHD化に伴う映像作品の高画質化によってどう変わっていくか等々、かなり専門的なお話。映像系の大学行ってた身ではあるので(中退ですが……)一応基礎の知識は持ってるんですが、さすがは最新の技術系な講座、大まかに理解するのがやっと(苦笑)。 でも、僕らのこれからの仕事の根幹に関わるお話なので、いろいろ考えさせられましたね。僕らアニメの「色屋」は、もっとデジタルの知識持たなきゃだめですな。 ああ、もっと勉強しないと(泣)。

さてさて。

『オーディーン 光子帆船スターライト』の仕事と並行して、もうひとつ仕事をもらいました。『ROBOTEX』という全5話のTV版ミニシリーズの色指定です。『ROBOTEX』——なんか聞き覚えのないタイトルでしょ? 実はこれ、アメリカ国内向けの作品で、日本では放送されていない作品なのです。

これは当時「合作」と呼ばれてたアメリカの制作会社の下請け作品です。この頃の東映動画は多数の「合作」作品を製作していました。『G.I.JOE』『TRANSFORMER』『MUPPET BABIES』『JEM』などのTVシリーズをはじめ(僕が入る前には、『Dungeon&Dragons』や『Spider-Man』なんてのも作ってました)、『Roger Rabbit』などの劇場用作品も請け負ってました。細かいモノはもうタイトルが思い出せないくらいいっぱいありました。そんな「細かいモノ」の1本が『ROBOTEX』でした。

「合作」は、まずアメリカの制作会社から絵コンテ、キャラクター設定、美術ボード、カラーモデルなどの「材料」が送られてきます。作品のメインの部分はすでにアメリカ側で決められていて、それらを基に僕ら日本側は作画作業を行うのです。よって、演出、作画監督、美術監督は、あくまでもそれら「材料」に従って組み立てていく作業になります。

色についても同じで、メインのキャラクターのカラーモデルは当然のこと、各話のゲストキャラクターや小物たちも、ほぼすべてカラーモデルが送られてくるのです。それと、例えばとってもアメリカ的なモノが画面に登場するエピソードなど、「あ、コレは日本人じゃニュアンス分かんないだろうな」的なものも、だいたいにおいて細かくカラーモデルが送られてきてました。

また、「合作」作品は日本のアニメと違ってプレスコ方式で、まだ画面のない状態で先にアフレコ、っていうか、台詞収録しちゃうのです。で、収録されたその役者の台詞に口パクを合わせます。

日本のアニメでは通常「開け口」「中口」「閉じ口」の3パターンだったりしますが、「合作」のそれは母音の発音に合わせて実に7パターンの口の形がありました。なんかそれだけで「あ〜、アメリカなんだなぁ」とヘンな感動をした記憶が(笑)。

そのために絵コンテなどと一緒に、口パク合わせ用のコマ割り指示の入ったタイムシートも送られてきます。なんせ各話全カットについて送られてくるわけですから、その量たるや膨大なものです。それを日本の作画用のタイムシートに貼り替えるのですね。なので当時、1日中コピー機と格闘しつつひたすらタイムシートの張り替えだけをやる「シート貼り」というアルバイトが発生してました。

で、『ROBOTEX』。

とにもかくにも、まだちゃんと色指定とかやったことのない僕です。仕上としては素人ではないけれど、色指定、ましてや小さいながらもシリーズをまとめて担当するなんて、「えっ? ウソでしょ?」みたいな(苦笑)。他の[検査](色指定)の先輩たちは「できるでしょ?」的な感じで、当然(!)何にも教えてくれません(笑)。

ううむ……。ま、やるしかないよねぇ。

スタジオの裏の駐車場に急遽建てられた小さなプレハブの2階が『ROBOTEX』のスタッフルームでした。まだ作画机もなんにもないがら〜んとした部屋。「暑くてサ、まいっちゃうんだよね」日本側のチーフ・ディレクターの佐々木勝利氏と顔合わせしたのは、梅雨明け後の暑い夏の日のことでした。

■第5回へ続く

(07.01.30)