色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第98回 昔々……(60) 『Coo』軍艦という舞台

「夏!」とか言ってたら、早いモノで旧暦の七夕も過ぎ、もう「立秋」も越えちゃいました。

みなさん、残暑お見舞い申し上げます。

……でも、思ったほどそんなに暑くなってないこの夏の東京であります。冷夏傾向? やはりエルニーニョの影響?

それでも今週はお盆ということで、日本全国一斉に社会人もそれぞれ「お盆休み」という短い夏休みの週となってます。

しかしながら、残念ながら、僕はお休みナシでずっと仕事の今週です。毎週放送のTVの仕事は当然待ってはくれないし、劇場版のお仕事の方も、今月末の編集、そして来月頭のアフレコへ向けて、みんなお盆休み返上で作業作業であります。

この時期のそんな僕の楽しみは夏の甲子園、高校野球の中継です。

高校野球の応援のブラスバンドって毎年すごいなあって思います。「狙い撃ち」や「サウスポー」なんかの昔の歌謡曲たちに混じって、アニメの主題歌が結構がんばってるんですよね。『海のトリトン』だったり『宇宙戦艦ヤマト』だったり、『ルパン三世』のテーマなんかも。『ガンダム』もやってましたね。『トリトン』なんて何年前の作品? もう30年ですかね?(笑)

昔のアニメの主題曲って、テーマがハッキリしてて勢いがあって、「応援」って感じありますよね。楽曲的にも難しくなく、ブラバンに向いてたのもあるんでしょうけど。

毎年必ずどこかの高校が応援に使って、それが綿々と受け継がれてる。音楽でもなんでも、やっぱり、いいものは残るんですよね!

さてさて。

『Coo 遠い海から来たクー』、いよいよラストへ向かってお話は急展開です。拉致されたクーを追って、お話の舞台はタヒチ、パペーテへと移ります。ほのぼのとした孤島の情景から、「都会」へとお話は動いてきました。

お話の最初から絵コンテの順番どおりにジックリと作ってきた『Coo』、スタートしてちょうど1年くらいかけてここまで来ました。

たしかこのあたりを作ってたのは、1993年の春あたりだったように思います。あ〜、海上自衛隊に取材に行ったのが1992年の暮れだから、もうちょっとあとだったかな? そろそろ山本二三さんの作業が終わりに近づきつつあって、そのこともあって盛大な呑み会やったのを憶えてます。

監督だった廣嶋さんと制作進行だった境くん、そして僕の3人が二三さんに連れられて、大泉でぐでんぐでんに酔っぱらったあげく、狭山市の駅前でさらに飲んで、そのまま当時狭山市にあった二三さんのスタジオ「絵映舎」に転がり込んで、でもさらに強かった二三さんにそこでもビール飲まされて(笑)。本人も大酔っぱらいなんだけど、そんな状況でももりやすじさんの画集だかを引っ張り出してきて僕らに解説してくれましたっけ(笑)。……そんな思い出もありました(苦笑)。

で、翌朝、酒臭いまんま、電車に揺られて帰ったのですよ。ちょうどその電車から見た光景が、桜がキレイに咲きそろってた、とそんな記憶です。だから、春、4月の始めかな?(笑)

最近ではもう、こんなに時間をかけて劇場作品を作るなんてのはなかなかなくなっちゃいましたが、この『Coo』は、結果的に実作業に約1年半以上をかけて作りました。当初、現場では1993年夏の公開、って話で作業を進めておりましたが、その後半年うしろに下がって1993年の冬、12月の公開に決まりました。公開が延びれば自然とスケジュールもズルズルいくわけで(笑)、最終的に完成したのは10月だったと思います。

なので、このパペーテの街からラストの核実験の阻止〜クーとの別れのくだりは、なんだかんだで半年くらいかけて作ってたんですね。

で、そのパペーテからのお話。

さすがに人がいっぱいのパペーテで、下着っぽいTシャツ&短パンにサンダル履きってわけにはいきません。徹郎親子もちょっとは「都会向き」な格好で登場となります(結局徹郎は、「ちょっといい短パン」になりました(笑))。

洋助は少年らしくTシャツ+短パンですが、徹郎は大人らしくちゃんと襟のあるシャツを着せようということになりました。キャシーも白いワンピース。洋助はともかく、普段着慣れない襟つきのシャツを着せられた徹郎は、始終首もとを気にしてる、とそんな感じです。日焼けしてる面々には白っぽい服装をさせて、日焼け感を際だたせました。現地の人たちは色つきのシャツを多めにしてます。ちなみに、空港のシーン、大挙して到着した日本人観光客の若い女性たちの一団、まだ焼けてない肌の白さとの対比がいい感じです。

そんな白い服もこのパペーテでだけ。すぐに次の服に着せ替えです。一同はクーが捕らえられている軍艦を追ってマンガレバ島へ。ここからはクルーザーと軍艦が舞台になっていきます。なので、だいぶ画面のフンイキは硬い感じになっていきます。

先のロケハン、海上自衛隊の護衛艦の取材が大変役に立ちました。やっぱり実物を見て、その感覚が自分の中にあると全然違います。今沢監督のコンテと山本さんの美術できっちりと舞台が作り上げられました。密度の高い閉鎖空間、艦内のフンイキは、やはり若干色味を抑えて明度も下げる、という方向になります。島での夜の室内の色味と作り方の基本は同じ。ただし、囲まれてる空間の色あいも加味されて、キャラを含めた画面、自体若干硬い感じに見えてます。

このあたりは、芝居上、キャラの表情もシャープに描き分けられていたりしますので、そういう点でも軍艦の持つ場の緊張感みたいなモノがうまく画面全体に出せてたかな、と思います。

この軍艦、艦内や甲板上の寄りサイズは背景描きでありましたが、多少引いたサイズや軍艦全体を見せるようなカットではすべて作画でありました。ただし、セルでいくらキッチリ塗り上げて特殊効果で作り込んでも、微妙に軍艦の大きさが出せません。で、どうしたか、というと、いったんセルで彩色したものを、美術で絵の具使ってレタッチしてもらいました。いわゆるBOOKですね。結構な数があったんですが、緻密な作画+背景の質感、で、軍艦の持つ大きさや冷たさがうまく表現できたのでした。

そんな軍艦からなんとかクーを救い出した洋助たちですが、人間に発砲されたことでクーは洋助らからも離れて、海中へと去ってしまいます。そして、クーの一族が棲んでいると思われる海域での核実験の阻止へと洋助たちは抗議行動を展開していくのです。お話はいよいよラストへ向かうのでした。

■第99回へ続く

(09.08.11)