色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第99回 昔々……(61) 『Coo』そして彼方へ……

つい先日まで、夜になってもうるさく鳴きまくってた蝉ですが、昨夜、ふと気づいたら、蝉の声は消え、いつの間にか秋の虫たちの声に変わってしまっておりました。ずいぶん夜は涼しくなってきた東京です。

それでも昼間はまだまだ暑い。そんな暑かった先の日曜日に『極上! めちゃモテ委員長』のスタッフたちで原宿〜渋谷に「おしゃれロケハン」に出かけてきました。小坂監督を筆頭にプロデューサー、キャラデのお2人、美術監督などなどと総勢9名でゾロゾロと。日頃雑誌とかは買いまくってるんですけれど、やっぱり実際に出かけて「ナマの見本(笑)」に触れるのは重要です。

折しも、夏物売りつくしのセールのまっただ中。「めちゃモテ」ならぬ「めちゃ混み(泣)」の竹下通りとか、渋谷109とか、精力的にまわって参りました。やっぱり女性が一緒だとオシャレなお店も入りやすいです(笑)。もうね、「109」とか絶対自分1人じゃ無理(苦笑)。

でもね、混んでて正解だったかも。というのも、お店や品物を見るのも目的だったんですが、なんといっても、その街に集まってきてるお客さんたちがイチバンのサンプルです。イケてる人もいればそうじゃない人もいますが、そのどちらもまさに「ナマの見本」でありました。

だから僕は、お客さんや店員さんたちをかなりガン見しまくってきましたよ。店員さんはたいていその店の服着てますから、その着こなしもお勉強。で、目が合っちゃったらニッコリ微笑んで(笑)。←ああ、怪しい……。

いやはや……(汗)。

こういう「おしゃれロケハン」は季節ごとに行かないと。次はいつ? 10月の終わりくらいでしょうか?

しっかしまあ、とにかく人の多さにやられまくりではありましたね(苦笑)。

さてさて。

『Coo 遠い海から来たクー』の制作は2度目の夏を迎えておりました。1993年のことであります。本編の作業はほぼひととおり目鼻がついて、並行してリテイクの作業に入っておりました。公開もこの年の暮れ、12月に正式に決定。納品のスケジュールも秋に決定。いよいよ最終局面です。

そんな夏の終わりのある日、とんでもない事件が起きてしまってたのでした。角川春樹、逮捕! 麻薬取締法違反その他で、事もあろうに映画製作のトップが逮捕されちゃったのでありました。

「どうなっちゃうの? 『Coo』は?」僕ら現場スタッフの間になんともいやあ〜な感じが渦巻いておりました。「まさか公開延期とか、ないよねえ?」

まぁ、別に直接的に『Coo』が悪いわけではないので、そういうことにはならないだろうとは思いながらも、それでも盛り上がってきたムードや宣伝に水をさされた、というか水をぶっかけられた感じで、非常にモヤモヤしちゃってたのを憶えています。

そうそう、その前の年の春、角川春樹に『Coo』のスタッフの顔見せみたいなのを急遽やることになって、大泉スタジオ3階の大会議室に僕らメインスタッフらが集められました。そこへ角川春樹登場。なんかね、圧倒的な存在感があって、部屋がパァ〜ッと明るくなるような、そんな強烈なオーラを放っておりました。で、彼から僕らスタッフ、檄を受けまして、その時も結構感動しちゃってた僕だったのでありました。

そんな状況であっても、製作は進んでいきます。

もうさすがに詳しい日付とか忘れちゃいましたが、音関係の作業が終わったところで、一度ひととおり通して見てみよう、という事になりました。通称「音つき」。ラッシュが上がるたびに細かくリテイク出しはしているのですが、全部頭から通して見てみると思わぬところにリテイクが潜んでいたりするものです。ですので、いわば最終のリテイク出し、みたいなところもあるのです。僕らは結構緊張して「音つき」に臨んでおりました。

あ、いや、それ以上にワクワクでありました。

「あの画面にセリフが入り音が付いて、どんな風になってるんだろう?」

その日は朝から、なんかヘンにテンションが高くなってた僕でした。

東映動画大泉スタジオ3階の試写室にスタッフみんなで集まりまして、ロールごとに(1巻十数分くらい)順番に映写していきます。本編約2時間。なんだかんだで4時間くらい試写室にいました。画面の方はまだリテイク作業中のものが残っていますが、ひととおり色がついたそれは、ほぼ完成形であります。

もうね、なんともプチ感動でありました!

2時間の長編映画は僕にとって初めての体験でありました。それなりに辛いこともいろいろあっての1年とちょっと。その成果がここにありました。ああ、よかった。監督をはじめ、他のスタッフはいろいろ追加のリテイクの話とかしてますが、なんか1人、感動の嵐でありました。

そして10月。調布の東映化工の試写室で『Coo 遠い海から来たクー』の0号試写が行われました。たしか、ずいぶん朝早い時間だったのを憶えてます。試写室の最前列中央に座って(いつも僕はこの席で0号を見るのです)0号フィルムをチェックしました。密かに、いくつかリテイクが残っちゃってて「あちゃ〜」っていう個所もありましたが(苦笑)、それでも素晴らしい出来でありました。エンディングロールに「色彩設計 辻田邦夫」の文字があるのを見届けると、感慨はなお大きくふくれたのでありました。なんかね、やり遂げた、って感じが押し寄せてきたのでした。

その数日後、大泉の東映撮影所の試写室で完成初号が執り行われました。さすがに角川春樹氏は来られませんでしたが(苦笑)、でも、原作者の景山民夫さんがお見えになりました。

試写のあと、撮影所の食堂で開かれた打ち上げパーティーで、なんと、景山さんとお話しする事ができました! 「景山さん、僕、この『Coo』が発表された時にちゃんと本買ってて読んでて、で、このお話の大ファンで、そんな僕がこの映画に関われて……」みたいな。すっげえ舞い上がっちゃってました(爆)。そんな僕の話を嬉しそうに聴いていてくれた景山さんでありました。で、その時になって気づいたんですよ。

「あっ! 僕が持ってる初版本にサインしてもらえばよかった!」

ああ、一生の不覚。

そんな話を景山さんにしたら「じゃ、事務所に送ってください。サインしますから(笑)」と、事務所の名刺いただいちゃいました。でも、さすがにそこまで図々しくサインをお願いする事はできずじまい。それもひとつのいい思い出になりました。

そんな『Coo 遠い海から来たクー』は、その年の暮れ、全国公開となりました。残念ながら大ヒットには到らず、今にいたってDVDにもなってません(苦笑)。

それでも僕にとっては、たぶん大きな大きな財産となった作品でありました。

余談でありますが、その制作中にスタッフに配られた宣伝用グッズの中にメモパッドがあったのですが、実は僕、未だに大事に使ってます。使ってる、というかもったいなくて使えなくって(笑)。大泉スタジオの机の上に、しっかりといまだに置いてあるのでありました。もうお守りみたいなモンでしょうかね?(笑)

■第100回へ続く

(09.08.25)