色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第87回 昔々……(51)色を作る!『Coo』専用特別新色絵の具、見参!

先週末から友人が海外旅行中、なんとニューヨークへ出かけてます。その出発前、旅行の手配とか、カメラのこととか、マンハッタンのいろいろとか、彼女の相談に乗ってあげてたのですが、いやぁ、便利! インターネット万歳!

「じゃ、ちょっと見てみようか?」

繋いだのはGoogleMap。リアルにニューヨーク、マンハッタンの街並みが衛星写真で見られちゃう。

「ここがタイムズ・スクエアで、これがブロードウェイ。ずーっと下ってくると、ほらここがウォール街で、これが『グランド・ゼロ』。で、ちょい沖に出るとほら、『自由の女神』だよ」と、まぁ、こんな感じ。

さらには例の「ストリート・ビュー」ですよ! マンハッタンはほぼ全域がカバーされてて、道沿いにクリックして進んでいくと、まるでそこに居るみたいですよ。

僕はニューヨークへは3回ほど行ってるんですが、それももう10年以上も昔の話。その当時はようやくインターネットが普及し始めたくらいの頃で、電話回線でホテルの部屋で電話回線使ってやっとこさネット接続、そんな時代でありました。

そうそう、当時タイムズ・スクエアに定点カメラがあって、リアルタイムにタイムズ・スクエアを映し出してて、その映像を眺めては喜んでたモノでありました(笑)。

もう今や、ニューヨークのちょっとしたホテルだったら、各部屋にブロードバンドの回線が入ってるし、無線LANとかも。いやぁ、十年ひと昔。そろそろ僕も写真撮りに行ってきたいなぁ、と、遠い目……。

さてさて。

長らく中断しておりました『Coo 遠い海から来たクー』の昔話、再開です(笑)。

絵コンテ作業も進み、並行してキャラクターも続々決定稿が出てきました。となれば、いよいよ「色」であります。前にも書きましたが、僕はそもそも原作の小説の大ファンでありまして、主人公の洋助・徹郎親子をはじめ、キャシーもトニーも、自分の中に自分なりのイメージがありました。「頭の中」にぼんやりと形を持たないで在るイメージを、大倉さんが描いたキャラクターの乗せていきました。

それがもう、ピッタリ!

原作ファンとして勝手に思っていたことは、「子供っぽい画だったらイヤだな」ということ。でも、大倉さんの描いた洋助は「子供」ではなく「少年」でありました。徹郎やキャシーもシッカリとした線の、ちゃんとした「大人」のキャラクターでありました。

「これだよね!」嬉々として最初の色見本用の色指定をしたのを憶えています。

人間キャラたちは割とスムーズに形に(色に)して行けそうだったんですが、真の主人公である「クー」の色が決まりません。というか「そもそもプレシオサウルスの子供ってどんな色なのか?」その大きなところに立ち至ってしまいました。

で、登場するのがいわゆる「恐竜図鑑」。そこには素晴らしい筆致で恐竜の姿が生き生きと描かれてはいるのですが、言っちゃ何ですが、これだって想像上の色にしか過ぎません。なのであんまり参考にはなりません。「ま、とにかく、なんか塗ってみよう」そう決めて、何種類か僕なりに考えて色見本を作っていくことにしました。

しかしながら、ここにひとつ問題が。そう、絵の具の問題です。

前にも何度か書きましたが、当時の東映動画(現・東映アニメーション)はSTACの絵の具を使って作品を作っていて、しかも非常に少ない色数でありました。『Coo』は劇場用作品なので、TVシリーズ用の絵の具(約120色)に加えて劇場用の「X(エックス)絵の具」(約70色)が使えることになっていましたが、正直それでは全然足りません。

それで会社と交渉してもらって、「特例」として、アメリカとの合作作品用に作った「『あ』番号絵の具」(約80色)も使って良い、ということにしてもらいました。

しかし、この「X」の絵の具も「あ」の絵の具も実は微妙で、『ヤマト』の頃の劇場作品や合作当時に場当たり的に増やしていった絵の具のため、ちゃんとした色相のグラデーションになってるわけではないのです。でも、無い袖は振れません。とにかくカラーチャートと格闘して、なんとかイメージに近い色味を組み立てて行きました。

人間キャラは配色のバランスでなんとか乗り切り、フンイキのあるものになっていったのですが、やはり「クー」が難しく、壁にぶち当たりました。

「どうなんだろうね? 僕の印象だとね、もうちょっと明るくて、でもここまで白っぽくなくって、灰色でもなくって、もう少しヌルッとした感じなんだよね」と今沢監督。もう何度目の色見本なのかわからないくらい、あらゆる微妙な組み合わせで色見本を作ってみたのですが、ああ、やっぱり監督の印象とは少し違う。自分としても、当然しっくりいかないものになってる。でも、もはや絵の具が、色がありません。

「それなら、作っちゃいましょ」

それは製作担当であった蕪木氏のひと言でありました。

「どうしても無いのなら作ってもらいましょう、絵の具会社に。これだけ大きな作品なんですから、作ってもらいましょう」

袖が無いならまずその袖を作ってしまおう。かくして、『Coo』専用の特別新色絵の具をSTACに発注する、という画期的な展開を迎えたのでありました。

■第88回へ続く

(09.04.14)