色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第65回 昔々……(42) 「R—2」は紫色、というワナ(苦笑)

気がつけば10月ですよ(汗)。

先だっての週末、お気に入りの絵画に会いに行ってきました。上野の東京都美術館で絶賛開催中の「フェルメール展」であります。

その生涯で三十数点しか遺さなかった天才画家ヨハネス・フェルメール。全世界に散らばってる彼の作品たちのうち7点が集められて公開されています。僕の大好きな作品「恋文」は、残念ながら来日しませんでしたが、それでも大満足のフェルメール展でありました。

ああ、やっぱり、ホンモノをナマで見ると凄いです! 画集や図録などで見てもすごいんだけど、写真撮っちゃうと、で、それを印刷しちゃうと、やっぱりどうしても違っちゃうんですよ。繊細で柔らかな光と、それによって表現されてる空気感、奥行き感は、やっぱり肉眼で実物をナマで見てこそ、その本来のすばらしさを堪能できるのですね。

もうね、鳥肌立ちっぱなしでありました。

というわけで、オランダですよ!

ここ数年、ず〜っと思ってたんですが、やっぱりアムステルダムに絵画見に行ってこようと。レンブラントもオランダだしね! これはもう行かなきゃ! ホンモノ見にオランダ行き決定であります。

……で、まあ、その前に目下格闘中の仕事たちを組み伏せてしまわないとなあ。で、終わったときには、まず温泉行く! って思うんだろうなあ……(苦笑)。

さてさて。

劇場版『DRAGON BALL Z 激突!100億パワーの戦士たち』の色指定作業が本格化したのは、年が明けた1992年1月でありました。

まずは東映動画(当時)のスタジオのあるフィリピン・マニラ向けにSTAC色で普通に色指定していくんですが、そのうちに制作が「そろそろ出したいんですが、韓国に」と言ってきました。で、そこから太陽色彩色での色指定もスタートになります。マニラへは業者に委託する形で連日便が出てました。夕方にスタジオから便が出るのでその時間まではマニラのスタジオ向けSTAC色指定。そのあと深夜までの時間帯は韓国向け太陽色彩色指定です。それが連日続いていきます。

大抵の場合、作品ごとに「色指定書」として1冊に綴じた冊子を作り、それを仕上げ発注先に渡して作業してもらうのですが、韓国にお願いする場合は完全に動仕(原画に色指定を入れて、動画→仕上げと作業して送り返してもらう)発注ということもあって、必要なキャラクターの色指定コピーをカットごとに全部入れていく(タイムシートに挟んでいく)という方法をとっていきました。そのカットに必要なモノは、すべてそのカットに一緒に入っていれば、無駄に探したり、間違った色指定を使って塗ったり、ということも少ないかなあ、とか考えていたのです。

カットに入れ込んでいくコピーは、当然太陽色彩色に変換して作った色指定書です。当初「STAC→太陽色彩絵の具換算表」を先方に渡しておいて、STACで色指定したものを先方で換算して塗ってもらっちゃおうか? とかも考えたのですが、それは作業する方にとっては大変な手間だし、煩雑になればそれだけ間違いも起きやすいし。以前にも書いたかもですが、STAC色と太陽色彩色、色味は全く違うけど番号は同じ、という極めて危険な色が多いのですね。なので、最初から太陽色彩で指定しちゃった方が確実かと、そう考えました。

でも、それでもやはり人間のする作業です。やっぱり間違いは少なからずあるのです。で、まあ、そういう間違いは往々にして色指定側のミスが多いモノ。

そうです。時たまSTACと太陽色彩を混ぜて指定しちゃったりするのです。カットに入れ込むコピーは間違いのないものなのですが、問題は僕が原画に直接絵の具の番号を書き込んで色指定する場合です。この時についつい間違っちゃって書き込んじゃうのですよ、番号を(苦笑)。

例えば、よく肌色の影に使う絵の具に「R—2」という色があって、これを太陽色では「R—70M」という色に換算して使っていました。ところが、ついついやっちゃうワケですよ「R—2」と。太陽色彩カットで。

で、どうなるか? というと……肌色の影が紫色にヌリ上がってきちゃうのです。それがまた、間違うときはまとめて間違ってたりするわけで、上がってくるセルがいくつものカット、紫色の肌で上がってきちゃうわけで……。

そのたびに頭抱えつつ、リテイク作業をお願いしてる彩色班に謝りながら持って行くのでした。

■第66回へ続く

(08.10.01)