色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第64回 昔々……(41) 劇場版『DRAGON BALL Z 激突!!100億パワーの戦士たち』

気がつけば9月です。

あ゛〜、9月ですよ!

まだかろうじてセミが鳴いてたりしてますけど、涼しくなった夜には秋の虫たちの声が聞こえてきちゃってます。気がつけば、夕方暗くなるのが早くなりました。朝も明るくなるのは4時半以降ですものね。

どこに行っちゃったんでしょう? 今年の8月……。

歳をとってくると、年々夏が短くなってるように感じます。今も昔も当然月日時間の長さは同じなんだけど、体感速度は年々速くなっていくようで、今年の8月は僕史上最高速度で過ぎ去っていきました。ああ、さらば! 45歳の夏よ(号泣)。

ああ、来年はもっと早く過ぎちゃうんでしょうか……。

やりたいこと、行きたいとこ、山ほどあるのに……。

来年とか、8月まるっとひと月夏休みもらいたくなったりしてます。無理ですかねえ……。

そんな切ない9月であります(泣)。

さてさて。

1992年3月公開作品、劇場版『DRAGON BALL Z 激突!!100億パワーの戦士たち』。監督/西尾大介、作画監督/前田実、美術監督/谷口淳一。

TVシリーズの方は鳥山明の原作に沿ったアニメ化ですが、劇場作品の方はといえば、基本、番外編であります。この『100億パワーの戦士たち』もそんな1本。メタルクウラという敵がやってきて、悟空とバリバリに闘うというお話。あ、まあ、だいたいそんなです。

もうね、さすがにちょっといろいろ忘れちゃってまして、内容は(苦笑)。僕自身、手元に完成版のビデオもなにも持ってないのですね。当時使った絵コンテはまだどこかに死蔵されてる気もするんですが……。

で、その絵コンテ。最後の闘いの盛り上がりのあたりを西尾監督が悩まれてしまってて、その部分の絵コンテがスパッ! と途切れちゃったままだったのでありました。ただ、その完成を待ってから作業イン、ってワケにも当然いかないので、そのクライマックス部分を除いた状態で、もろもろ作業を進めていきました。

ちなみにそのコンテ、完成したのが2月あたま。この作品の編集が2月の第2週の週末あたりだったので、ちょうどその1週間ほど前でありました。で、その部分をたしかアニメーターの井出さんが1週間でレイアウト〜ラフ原画まで描き上げて、なんとか編集〜アフレコを乗り切ったのでありました。

そうそう、この頃の3月公開作品は「春休み合わせ」で20日前後の公開だったので、編集が2月だったのですね。いまでは3月頭公開に繰り上がっちゃってるので、その分編集〜アフレコも1月末までには終わらせてます。

さて、色のお話。

TV作品の劇場用作品は「TVを観てくれてる人たちが観にきてくれる」というのが原則にありまして、なのでTVと違ったモノになっちゃうとNGだったりします。作画はともかく、見た目の色が違うのはまずいのです。TVで赤だったモノは劇場版でも赤、青だったモノは青。それは変えちゃいけないというお約束でありました。

ただ、やはり劇場版は自ずとTV版とはボリューム感が違ってきます。劇場版の画面の中にTV版そのまんまの色のキャラがポン! と置かれちゃうと、やはりどうにも軽く浮いてしまうんですね。なので劇場版専用に、メインのキャラクターの色味の設計から始めていきました。

と言っても、今のようにデジタル彩色でいくらでも微妙なことができるワケではなく、あくまでもセル絵の具の色数の中での微調整です。ですから、ノーマルの色味はほとんどTVの色指定のまんまで、影色の深さとかを中心にバランスの見直しをしていきました。TVよりも多少濃いめに影色を設定しなおしました。で、これにはもう一つ大きな理由があったのです。

それはまたしても太陽色彩絵の具問題であります。

これまでも書いてきましたが、業界ほとんどの制作会社の作品が太陽色彩のセル絵の具だった中にあって、ほぼ東映動画のみがSTACのセル絵の具でありました。十分なスケジュールで制作できるのであれば、当然すべてマニラのスタジオや国内の東映動画の仕事を受けてくれている仕上プロダクションに発注して、全部STAC絵の具で彩色してもらえるのですが、こうもスケジュールがないとそうもいきません。全体のうちかなりの割合を韓国のプロダクションに作業をお願いすることになり、となれば当然絵の具は太陽色彩のセル絵の具、ということになっちゃうのです。

基本の色指定はSTAC色で設計して、それを太陽色彩色に「変換」していきます。しかし、当然STAC色と太陽色では同じ色はありません。STAC色で作った色指定に「ほとんど同じ」色味の絵の具に当てはめて「変換」していきます。「ほとんど同じ」は「ちょっと違う」だったりするわけで、そうなるとその「ちょっと違う」色どうしの組み合わせによっては、「だいぶ違う」になっちゃったりすることもあるわけです。

ノーマルの色味とその影色、という関係でありがちなのは、ノーマル色の変換色が元のSTAC色よりちょっと暗くて、影色の変換色が元のSTAC色よりちょっと明るい、といった場合、往々にしてヌリ上がったセルのノーマルと影がほとんど差のないものになってしまうんですね。

なので、あらかじめ、元のSTAC色での設計の際に、少し影色を濃く設計して差を作っておけば、太陽色に変換しても、オリジナルと大きな印象の差は出ないだろう、とそう考えたのでした。

そんなこんなで1992年の年明け早々、あたふたと「変換」の準備。そしていよいよ太陽色彩絵の具に変換しての色指定が始まったのでした。

■第65回へ続く

(08.09.10)