色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第131回 昔々……75 1994年その9 劇場版『セーラームーンS』BANKカットの憂鬱

そうそう、夏休みですね、小中高の生徒さんたちは。まあ、受験生はともかく、そうじゃない子供たちは、ひと夏、小豚のように遊び回っていろんな体験してほしいと思います。あ、悪いことはダメですが!(笑)
ところで知らなかったんですが、最近は東京の小学校でも、夏休みって8月の25日くらいまでなんだそうです。なんでも、土曜日を休みにしちゃってるため、授業時間数が足りなくなっちゃうためだとか。
う〜む、どうなんでしょうね?
うちは子供がいないので迂闊なことは言えませんが、土曜日休みにするメリットって、果たしてどこにあったんでしょうかねえ? あ、でも、そのおかげで、土曜朝のアニメの番組が成り立ってるワケですよね? お休みじゃなかったら、土曜朝なんてアニメやっても観てもらえないモノなあ。……と、土曜朝放送の『極上! めちゃモテ委員長』のスタッフの1人としては、ひとり、自問自答だったりしてます。
ともあれ、やっぱり夏休みって、区切り的には8月31日まで休みであってほしいなあ。そんな気がしませんか? ねえ?

さてさて。
TVシリーズ作品の劇場版のお仕事で必ずついてまわるのが、TV本編で使用してるBANKカットの劇場版対応修正です。『セーラームーン』なんかは必ずTV本編で使用している変身BANKカットやら、必殺技BANKカットを劇場版でも使用します。実はこれがそこそこ厄介だったりしてました。
当時のTVはまだバリバリにアナログ放送ですから、アスペクト比は3:4。一方劇場用作品は基本ビスタフレームですから9:16。この違いがね、厄介なのですね。
TVの3:4フレームの横幅に合わせてトリミングする形で劇場用の撮影フレームを設定できれば、基本セル素材はそのまんまTVのモノを利用できます。ところがこれがうまくいかない。横幅合わせでトリミングしちゃうと、往々にしてセルの上下が切れちゃうわけで、例えばフレーム上下にフルサイズで上手く収まってた作画が、上下トリミングされちゃうとキャラの頭や足が切れちゃったり、酷いときには首から上がない、なんてことにもなっちゃいます。さすがにこれはちょっと使えませんよね。ですので、基本フレームの修正は上下に合わせて横を拡げる、という方法が主になります。
その時に、例えば色から全部修正とか、あるいは動き自体に修正を、ってな理由のある場合には、「しょうがないよね!」ってことで、大きなセル(ビスタセル)で最初からセルを新作しちゃえばよいのですが、一番ビミョウなのは、演出が気を利かせて、現状のTV用のセルの余白ギリギリにまで修正フレームを再設定して、現状のセルに描き足し、塗り足し、という指示が来ちゃったりするのです。それに合わせてセルも横幅いっぱい余白セルのある限り絵の具を塗る、っていう修正になっちゃいます。
もうね、これが最悪に面倒くさい!
余計なことするな! と言いたい(笑)。
すでに何度となく撮影に使ったりしてるセルなので、傷がついてたり、多少なりとも劣化しちゃってたりするのですね。そこへ新しく線を足して塗るわけナンですが、以前にも書きましたが、同じ色番号の絵の具であっても生産された時期によって多少色味や明暗に差があったりしちゃうんですね。なので不用意に塗り足しをやっちゃうと、塗り足した部分がビミョウに色が違う、ってなことがあったりしちゃうのです。
まあ、正直フレームの際(きわ)、端っこですから、ガンガン動いてるカットではそんなに気にならなかったりするんですけどね。ただもう、その修正作業自体が面倒でイヤで(苦笑)。セル修正上がりをチェックするのもイヤ。で、まあ大丈夫だろう、とか思ってサラッとだけチェックして撮入れしちゃうと、演出助手から「あのお、塗りのセルとマスクがあってないのですが……」とかリテイクに(苦笑)。そうなんですよ。BANKカットって、やたらメチャクチャ撮影用にマスクがあったりして、で、当然こいつらもみんな、フレーム修正で塗り足しになってる。塗ってあるセルに描き足しだから当然ハンドトレスなワケで、これがまたズレる。やれやれです(苦笑)。
しかも!
そのBANKカットの数が多いんですよ。っていうか、増えてる。何せセーラー戦士に新顔が登場すると、その人数分だけ、変身BANKと必殺技BANKが……。
もうね、劇場版作るの決まってるんだから、新しくBANKカット作るなら、最初から大きく9:16対応でフレームが取れるように作画+仕上げしてくれればいいのにサ! ……と、いちいちTVスタッフを恨むのでありました。
デジタル化された昨今の場合は、彩色データ(セル)自体デジタルですから、この手の塗り足しはまだ比較的楽だったりします。マスクもバッチ処理でコンピュータが間違いなくズレなく正確に造ってくれるし。HD対応番組であれば、間違いなくアスペクト比は劇場版とおんなじ9:16になってるので、そもそもフレームの修正自体がなかったりしてますし。
だから、いまの『プリキュア』のシリーズなんかまだ楽なんだろうなあ(笑)。ま、いまはいまなりに、大変なんだろうけどね(苦笑)。

第132回へつづく

(10.07.27)