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アニメの作画を語ろう
シナリオえーだば創作術――だれでもできる脚本家[首藤剛志]

第128回 「LIPS the Agent」暴走するおしゃべり

 「LIPS the Agent」は、以前書いたCDドラマ「黄龍の耳」もそうだったが、声優の才能と演技力を痛感させられた作品だった。
 脚本の台詞と声優の演技や個性がマッチすると、どこまでも声優さんと台詞が暴走していきたくなる。
 これは僕に限ってかもしれないが、脚本家にとって一種の快感である。
 ストーリーとは関係のない事まで言わせたくなる。
 例えば……

愛「(クールに)わたし、むかし、日本の湘南でレディスの頭やってた。21世紀の湘南はかなりあれてた。3日間で、60台のバイクがおしゃかになり、390人が病院入りしたあの江ノ島一周キャノンボールラリーで勝ったのはわたしだった」
遊「(ふっと、遠くを見る感じで)わたし、むかし、流しの曲馬団で、高所恐怖症のシロクマの背中に乗って空中ブランコやってた。ネットなしでね。ピサの斜塔からバンジージャンプをしたときはアラスカのひぐまさんを背負ってた」
愛「けっこうあぶないね」
遊「おたがいあぶないよ」
 ……とか。
 彼女達の日常の一幕を書いてみるとか……。愛と遊がのんびりしているシーンである。カトウ役の織方賢一氏が、まず二人の生活状況を説明して……

カトウ「愛さんと遊さんは、お仕事のない日は、ちょうどこの日のような雨の日は……(雨の音)。イギリスはロンドン……。昔は賑わっておりましたが、今はすっかりさびれ、ふるびて、くちはてた劇場、キングアーサー劇場の最上階。その倉庫を、無断で借用改装して住んでおります。電話は、街角から引きずってきた公衆電話ボックス……もちろん、これも無断借用。おや? おふたりさん、電話がなっておりますですよ。時間ははそろそろ、お昼前。しかしながらお2人は夜更かし大好き、当然、寝起きの悪い女性でありまして……」
 (電話が鳴る)
愛「雨……お仕事もなし……こんな日にデートの誘いはごめんだわ……電話いらない」
遊「ふみゃ……雨……こんな日にデートを誘う憂鬱な男は、わたしの男じゃない……でれば……愛」
 (以下、愛と遊、電話の音のカットバックで……鳴り続ける電話)
愛「うるちゃい。でてよ……遊」
遊「ううううう……せっかくの休みを」
 (鳴り続ける電話)
愛「いいかげんにしなさいよ」
遊「しまいにゃ……ニトロか電気あんま」
 (鳴り続ける電話)
愛「あんたの電話でしょ」
遊「おのれの電話じゃろが」
愛「しつこい……睡眠不足でお肌があれたらあんたのせいよ」
遊「おのれの不摂生を人のせいにすな! こちらは休養すべき脳細胞がりんりんのおかげでかんかん減っちゃうわ」
 (鳴り続ける電話)
愛「あんたの電話だったら、ぼうやに生命保険かけておいてね。わたしが、安らかに殺してあげる」
遊「おのれの電話だったら、おじさんに掛け捨て保険ねだるんだな。僕が、のたうちくるしみころしてあげちゃう」
 (電話、止まる)
カトウ「おや、電話がびびったのか、鳴り止みましたでございます」
愛「ふふふぼうや……ちびったわね」
遊「おじさん……しぼんだ」
愛「おじさん? あんたのぼうやでしょうが……」
遊「おのれの……中年だろうが」
 (電話、鳴る)
愛「あんたのだったら……承知しないから」
遊「おのれだったら……もはや戦争だ!」
 (二人がかわるがわる電話に語る)
愛「ハロー! THIS IS I SPEAKING」
遊「ハロー! THIS IS YOU 聞いているわ」
男の声「わほう、でたわよでたわよ。公衆電話に電話すると、やっぱり人が出るんだ。しかも声だけ聞けば、かわゆい女の子じゃない」
愛「しつれいですが、あなた様はどなた様ですか」
電話「通りすがりの悪戯電話でーす」
遊「なるほど……。あなたの電話、保険に入っている?」
男「もちろんです」
遊「あなた自身の病院保険は」
男「常識でしょう」
愛「よかった。これから超音波銃の超音波であなたさまの電話はこわれ……」
遊「あなたの鼓膜はきっと破れる」
男「はあ?」
 (超音波銃の音)
男「ぎゃー!」
カトウ「当然、2人のフロアの公衆電話ボックスもふっとびます。お2人が電話を壊したのは、これで135台目でございます」
愛「ちょっと……この公衆電話、保険かかっていた?」
遊「公衆電話をこっそり私用でつかってるんだもん。保険がかけられると思う?」
愛「(猫)みゃーお」
遊「(犬)わん」
 (2人はため息)
愛「だいたい、あなたに男から電話がかかってくるわけないのよね」
遊「そういうおのれも……」
愛「こわれた電話どうする?」
遊「わたしたちの私生活に電話は不要かもね」
愛「こんな日は、2人そろってお茶を飲む」
遊「窓から雨の歩道を見つめながらね」
愛「雨の日はちょっぴりメランコリー。1人お茶をたしなむ……わたし愛の静かな一日」
遊「わたしは雨の日の傘を持っていない。だから、雨の日は1人。私、遊は豊潤なミルクティのかおりを楽しむ」
愛「雨の日……だれも電話をかけてこない安らぎの時」
遊「電話のない日は心やすらぐ」
愛「休みの日には電話がかかってこないはずだ。相手がいない」
遊「いようといまいと、電話はこわした」
愛「電話は保険にはいっていない」
遊「恋人のいない保険……それも入っていない」
愛「はいっているのはお茶だけだ」
遊「雨の日のティータイム……か」
愛「飲んだら寝よう……」
遊「寝よう……」
2人「……(溜息)」

 こんな遊びの台詞は、アニメの台詞ではほとんど書けない。しかし、愛と遊の性格は、かなり聞き手に伝わってくる。
 この台詞は、読んだだけでは、面白さがでない。
 小山茉美さんと林原めぐみさんとのあいだのテンポと互いの絶妙な間で、2人の珍妙な関係が目に浮かんでくる気がするのである。
 才能があり演技力のある声優さんにアニメ画像抜きの台詞を書くと、やみつきになる。
 アフレコで喋る秒数の決められた台詞を技術でその時間で無理にはめこんだ声より、血が通っているというか生きて感じられるのである。
 特に、僕の書く台詞は、他の脚本家の方々の書く台詞より、その傾向が強いようだ。
 「LIPS the Agent」の話題が長くなるが、もう少し、その例を語ってみようと思う。
 絵ができた後に音を入れるアフレコが圧倒的に多いアニメに対して、少しは問題提起になるかもしれない。
 言うまでもないが、動く絵ができ上がったアニメに声優さんたちの声を入れるのがアフレコであり、声優さんたちの声を録音してから、その声に合わせて絵を動かすのをプレスコと言う。

   つづく


●昨日の私(近況報告というより誰でもできる脚本家)

 最終話と最終話の1話前の脚本ができたのは、ほとんど同時だった。
 アニメ放映までのスケジュールとしては、遅れに遅れ、タイトどころか、完成するのがとても無理なように思われた。
 僕は最終話以後の、番外編のCDドラマを書く予定だった。
 だが、この作品、絵コンテで脚本がしばしば変わる事があったから、最終話を見るまで番外編のCDドラマなど書けそうにない。
 ところが、CDドラマの録音収録も、最終話と同時期にしたいという。
 最終話の完成品を見てからCDドラマの脚本を書くのでは間に合わない。
 ともかく、最終話の絵コンテを見て、書く事にした。
 だが、その絵コンテの完成が遅れた。
 絵コンテ側から言わせれば、脚本が遅れたからと言いたいかもしれない。
 絵コンテの半分ができたのが、アフレコの一週間前だった。
 しかも、その絵コンテは、最終話の脚本とはまるで違っていた。
 この作品の最初の設定も伏線も吹っ飛ばして、ともかくエンドマークに辿り着こうと急いでいるように僕には思えた。
 最終話の脚本の、シーンもなければ台詞もない。
 脚本を読んで書いた絵コンテとは、とても思えなかった。
 これでは、僕の書いた結末で終わるわけはない。
 アフレコまで後1週間で半パートしかできていない絵コンテでは、クレームをつける時間もない。
 僕は、「もうひとつの最終回」という意味で、本来の最終回のCDドラマを書く事にした。
 とはいえ、解決のついていない設定や伏線や登場人物の気持ちを、音だけのCDドラマで表現するには、どうしても説明調になってしまう。
 この作品の解説のようになってしまうのだ。
 つまり、面白くないのである。
 一方、アニメの絵コンテは、アフレコの3日前にできあがった。
 録音台本ではなく、絵コンテである。
 案の定、僕の書いた最終回の脚本とは、展開がまるで違っていた。
 登場人物の心情もまるで描かれていない。
 敵のロボットとのアクションが続き、なんと、地球を滅ぼそうという強大な敵を、味方のメインパイロットの女の子が、なんだか得体のしれない超能力により、素手でぶん殴って終わりである。
 女の子がぶん殴って勝てるような相手なら、この作品、最終回まで11話もかけて大騒ぎする必要があるのだろうか?
 その絵コンテの完成がアフレコの3日前では、直しようもない。
 僕はあわててCDドラマの方で、解決のついていない設定と伏線の補完、キャラクターの心情を書き加えた。
 少しは、面白くなったかもしれないが、設定を補完し切れたとは言えない。
 だいたい、アニメとCDの両方がないとわけが分からない作品があっていいのか?
 監督がこの作品の重要人物だからと言って付け加えたキャラクターも、ほとんど活躍せず終わってしまった。
 いずれにしろ、でき上がったアニメは、僕の書いた最終回とはまるで違っていた。
 僕は、こんな脚本を書いた覚えはない。
 脚本のタイトルから僕の名前を消してくれと言ったが、著作権の問題もあり、日本脚本家連盟の仲介が入り、ペンネームにするという妥協案をとる事になった。
 監督は、このあたりで脚本を勝手に変えてはいけないということに気がついたようである。
 誤解のないように書いておくが、ここで言う脚本とは、脚本家が書きっぱなしにした脚本の事ではない。
 監督、プロデューサー、場合によってはその他の関係者、脚本家も含めて、打ち合わせや本読みをして完成した決定脚本のことである。
 当然、監督やプロデューサーの了解を得た脚本と見なされる。
 僕は、この作品の絵コンテによる変更は、そんな脚本を軽視した監督による指示だと思っていた。
 ところがである。
 最終話に関して、僕が名前を消してくれと言いだしたら、続いて監督も自分の名前を消してくれと言いだしたのである。
 つまり、最終話の絵コンテは、監督も満足しているものではないということらしい。
 確かに、絵コンテ完成がアフレコの3日前では、監督も手の打ちようがなかったろう。
 じゃあ、いったい、最終回を作ったのは誰なのだろうか?
 余計な事だが、先日、この作品を全巻通してDVDで見た。
 面白かった。
 設定、伏線、キャラクター、ついでに温泉……B級ロボットアニメの要素を詰め込むだけ詰め込んで、結局「そんなの関係ない」と、メインパイロットの女の子の鉄拳で吹っ飛ばしてしまう。
 意図して作った「おばかアニメ」としては、いい線いっていると思う。
 僕は、「おばか映画」が大好きである。
 そのつもりで書いた脚本もある。
 ただ、この作品については、そのつもりはなかった。
 心境複雑である。
 どうしてこうなったのかと考えつつ次回へ……

   つづく
 


■第129回へ続く

(07.12.12)

 
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