第203回
2人で1人
藤子不二雄(2)
〜『プロゴルファー猿』

 とある夏新番のコンテが終わりました。次に監督するシリーズの制作が始まったので今回もコンテのみのお手伝い的な参加ですみません。今年はコンテのみやったのが2本放映になります。もう1本の方は原画も描きましたが、基本はいつも“コンテ・演出”で受けたいと思ってるだけに2本とも少々心残りなのは否めません。でも自分の監督作の方に迷惑をかけるわけにもいかず「処理(演出)はご勘弁を」と。
 ま、そんなわけでいろいろ思うところはありますが、とにかくコンテは終わりなので前回途中までだった

藤子不二雄は2人で1人!

の件の続きをじっくり。俺の勝手な意見ですが、やっぱり藤子不二雄先生にはお2人で別々に作品を描いてたとしても最後までずっと「藤子不二雄」と名乗って俺たちファンを騙しとおしてほしかったんです。だって「ドラえもん」があって「怪物くん」もあり「エスパー魔美」があって「プロゴルファー猿」もある。そして「SF短編」もあれば「ブラックユーモア短編」も——その深さが藤子不二雄だったんですから。少なくとも板垣にとってはそうでした。実際自分もモノ作りの端くれとかになってみて分かったんですが、お客様(マンガの場合は読者、アニメの場合は視聴者)にとって大事なのは、誰が描いたかとかどの監督が作ったかなんかよりも

その作品が面白いか面白くないか!?

が第一だって事です。もちろん自分みたいな「その作品を作った人にこそ興味がある」ってオタク視点なファンもいるでしょうが、それは全体の1〜2割、てのが実感です。それが証拠に「原作が〜」とか「キャラデが〜」「監督は〜」って豪華に揃えてもBD&DVDの売り上げ何百本とかって作品が続出してるご時世——結局そこに価値を見出してるファンは我々作り手が思ってるほど大勢いないって事はとっくにバレてるわけ。
 その話はまた別途設けるとして、つまりまだそのオタク路線にそれほど足を踏み入れていなかった小・中学生の頃の自分にとって、藤子不二雄が2人だろうが「どちらの先生が『パーマン』描いた」だ「『ハットリくん』は『ドラえもん』じゃない方の先生が」とかどーでもよかったし、1987年のコンビ解消は、その面白けりゃそれでいい「藤子不二雄ブランド」ファンの俺の目の前に強引にF(藤本)先生とA(我孫子)先生の区分けを突きつける事で否応なく「マンガは作家によって作られている作り物」であると知らしめたわけです。だいぶ前にもこの連載で書いた(と思うんですが)俺が「小説やマンガ、アニメなどの作り話に現実の社会を忘れるほど夢中になってハラハラドキドキして読んだり観たりした事がない!」というのは、実際のところ少々違ってたようで、本当は——

俺、「藤子不二雄」でマンガに夢中になり、「藤子不二雄」でマンガが作り物であると認識し、マンガで描かれてる物語自体に我を忘れて夢中になる事を卒業した!

でした。現に藤子不二雄を皮切りに単行本を買い揃えたマンガ……鳥山明先生の「Dr.スランプ」「DRAGON BALL」、高橋陽一先生「キャプテン翼」、姉が買ってきた室山まゆみ先生「あさりちゃん」、そしてアニメを観てからマンガに入った高森朝雄&ちばてつや先生の「あしたのジョー」(当時KCスペシャルとして刊行された豪華本で買ってた)などは小学生の頃夢中になって読んだという事は否定できません、やっぱり。そして、藤子不二雄解散でマンガに入り込まなくなったってのも本当で、実際それ以来マンガは買ってはいるものの全巻揃える事に執着がまったくなくなり、買ったのに読まずにパラパラめくるだけとか、物語に対しての興味がなくなってるのは明らかです。
 ちなみにこの「物語に興味がない」は監督やってての話ではありません。あくまで日常生活の中で「あ、今日『JUMP』の発売日だ!」とか「げ、今週の『○○○』観損ねた!」とか「あ〜、この続きが気になる〜!」的な興奮に興味がないってだけで、自分が作る作品の原作になると他に余分な物語が頭に入っていない分、冷静にその原作を分解・分析できるし、その時点で監督の立場から主人公になりきってドラマを味わえるという特権があり、ワクワクしてコンテを切る事ができるんです(今現在が正にそう!)。
 ま、つまり藤子不二雄の解散で自分は一般的なマンガの楽しみ方を卒業して作り手目線に完全にスイッチしてしまった、というのも結果的に

よい事だった!

と思ってるんです。作り手目線になれたおかげで今があるのですから。
 で、ようやく『プロゴルファー猿』の話です。だーいぶ以前(第2・3回)に

『プロゴルファー猿』が好き! それも1985〜のTVシリーズではなく1982・2時間スペシャル版の方! ……どなたかビデオ持ってる方、連絡ください!

的な事を訴えたんですが、案の定1982年ではビデオ録画をしてる方もそうそういらっしゃらなかったみたいで、残念がっていたところ、今回ポニーキャニオン様のおかげでようやくDVDで観る事ができたんです!

『プロゴルファー猿』DVD-BOX 1

がそれです。このBOXは凄いの一言! 何しろ1985〜TVシリーズの前にDISK 1として念願の

1982・2時間スペシャル版の完全収録!

が成されているのですから! 今回それを28年振りに観れたんです(大興奮)!!
 改めて『プロゴルファー猿』1982・2時間スペシャル版について解説すると、1980〜1982年まで放映された同じ藤子不二雄(A)原作の『怪物くん』の最終回の3週間後に放映された作品のため

監督/福富博、作画監督/本多敏行、制作協力/あにまる屋

という、もちろん『怪物くん』のスタッフまるまるスライドな感じで1985〜TVシリーズ版とはまったく別スタッフです(シリーズの方はCD/西村純二、作画監督/本橋秀之、制作協力/スタジオディーン……こちらもよい出来!)。そして何より主人公・猿丸の声がシリーズの頓宮恭子さんではなく

野沢雅子さん!

なんです。たぶんこれもまんま『怪物くん』からのスライドなんでしょうが、これがまたシリーズとはまた一味違ったカッコよさで実にいい! さらに2時間スペシャル版はなぜか原作や1985〜TVシリーズと違って猿も弟たちも全員が

標準語

で、あの超有名な「わいは猿や!」のセリフがスペシャル版の方では

俺は、猿さ!

となってます。これを野沢さんが言うと野性的な上にニヒルにさえ感じるから不思議です。その他の役者さんは、剣崎(健)が石丸博也さんで紅蜂が横沢啓子さん、ミスターXが若山弦蔵さんで竜が小林清志さん——なんとナレーションが肝付兼太さん(!)と、かなり豪華! で、

28年と3ヶ月振りに『プロゴルファー猿』スペシャルを観た板垣は——

少年期の瞳に戻って画面に釘付けになりましたとさ!!

 そして去る1月28日、水島精二さん、西見祥二郎さん(テレコムの先輩)と同じ日(アニメ界の大先輩の今は亡き森康二様とも同じ日)に俺は37歳になりました。今年は面白いシリーズが作れそうです。

(11.02.03)