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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第85回 「奇跡は起きます。起こしてみせます!」

 『トップをねらえ!』が完結してからの数年間、僕はその元ネタ探しに熱中した。前回も触れたように『トップ!』は過去の様々なマンガ、アニメ、特撮映画等の作品をコラージュするかたちで作られている。『トップ!』は、大筋から細部に至るまで、とにかく格好いい作品だった。マニアックなスタッフが全力で作った、超マニアックなフィルムだ。どんなところから、どんな風に引用をしているのかが気になったのだ。
 雑誌記事のため、制作中にGAINAXに取材していたので、引用元は、ある程度は大体分かっていた。東宝特撮、ウルトラシリーズ、『エースをねらえ!』、『宇宙戦艦ヤマト』、岡本喜八、石川賢の「ゲッターロボ」等々。僕は、東宝特撮についてはゴジラシリーズは大半観ていたが、ゴジラ以外の怪獣ものはあまり観ていなかったし、非怪獣ものの「宇宙大戦争」や「世界大戦争」は観た事がなかった。ビデオソフト化されている東宝特撮はレンタルビデオで大半をチェックした。岡本喜八の監督作品も、ビデオ化されているものは全部観た。だが、岡本作品については、それではとても足りないので、名画座に何度か通った。劇場で気がつくと、真後ろの席で、たまたま庵野監督が同じ映画を観ていたなんて笑い話もある。この調査の過程で、未見の色々な作品と出逢う事ができた。それはそれで僕のマニア人生を豊かなものにしてくれた。
 引用は、シチュエーション、台詞、デザイン、カット割り、BGM等、様々なかたちで行われている。具体的な例を挙げよう。有名なところでは、最終話クライマックスで、ガンバスターの胸部から大型縮退炉を取り出す展開が、石川賢のマンガ版「ゲッターロボ」において、ゲッターロボがゲッターエネルギータンクを取り出すのをモチーフにしたもの。細かいところでは、第五話の緊急対策会議に登場した艦政本部長は、岡本喜八監督の「激動の昭和史 沖縄決戦」で丹波哲郎氏が演じた参謀長の長勇少将がモデル。「あ〜だめだ! だめだ! だめだ!」と机を叩く芝居がそっくりだ。同じく第五話の監視衛星と宇宙軍情報部のやりとりで「敵が七分に黒が三分だ!」という台詞があるが、これも「沖縄決戦」から。そんな濃い引用が山ほどある。
 引用元探しで唯一、調査していないものがあった。大映ドラマの「スクール☆ウォーズ 泣き虫先生の7年戦争」だ。そこから何かを持ってきているらしい事は、当時から知っていたのだが、その頃はまだ「スクール☆ウォーズ」はビデオソフト化されておらず、再放送で観る機会もなかった。いつかは全話チェックしなくてはと思っていたが、ビデオ化された後は、なかなか時間が作れず、それを果たす事ができなかった。しかし、最近、行きつけのレンタルショップで「スクール☆ウォーズ」のDVDを発見してしまった。しばらく我慢していたが、先日、意を決してチェックをする事にした。17年ぶりの調査再開だ。問題のエピソードは、13話「力の限り生きた!」らしかったが、念のため1話から順に観た。
 「スクール☆ウォーズ」は学園スポーツドラマ。落ちこぼれ揃いの川浜高校に赴任した元ラグビー選手の教師が、ラグビー部を立て直していく内容だ。教師の名前は滝沢賢治。ラグビー部には、イソップというニックネームの少年がいた。イソップは脳腫瘍に冒され、命を落とした。それは川浜高校ラグビー部のライバルである相模一高の試合前夜だった。滝沢は、病院の屋上で昇る朝日に涙する。そこに校長が現れて言う。「遂に、奇跡は起きなかったね」。それに応えて「奇跡は起きます。きっと起こしてみせます。相模一高に勝ちます!」と滝沢。「滝沢君……」「イソップのために、イソップのために必ず勝ちます!」。
 読者諸君もご存知のとおり、『トップ!』最終話でノリコが「奇跡は起きます。起こしてみせます!」と言っている。この作品を代表する名台詞だ。また、これを下敷きにした台詞が、後に『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』でも使われており、GAINAX作品ではないが、樋口真嗣監督の「日本沈没」でも引用されている。まだ裏を取っていないので断言はできないが、最初に『トップ!』で「スクール☆ウォーズ」の台詞が引用され、その後の関連作品でも使われたという事なのだろう。満足満足。今回観たのは「スクール☆ウォーズ」の15話までだが、いずれ16話以降もチェックする事にしよう。
 勿論、「スクール☆ウォーズ」の「奇跡は起きます」も名台詞なのだが、『トップ!』の方が格好いいように思える。僕の場合は『トップ!』を先に観ているので、それだけ印象が強いせいかもしれないが、それを差し引いても『トップ!』は決して負けていないはずだ。他にも、引用元よりも格好よくなっている例が『トップ!』には多い。『トップ!』の引用は、作品のセレクトのセンスもいいが、その使い方が上手い。単に既存のパーツの寄せ集めではない。様々な作品をコラージュして、結果的にオリジナル以上のものにしている。それが『トップをねらえ!』なのだ。

■第86回に続く

●公式サイト
http://www.top2.jp/movie.html

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(06.11.30)

 
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