アニメ様365日[小黒祐一郎]

第438回 『艶姿魔法の三人娘』と『魔女っ子クラブ4人組』

 スタジオぴえろ(現・ぴえろ)の魔法少女シリーズのOVAは、ここまでで取り上げた『魔法の天使クリィミーマミ 永遠のワンスモア』『同 Long Good-bye』『魔法のスター マジカルエミ 蝉時雨』以外にも、ミュージックビデオや再編集ビデオが何本かリリースされている。今回はその中から、歴代魔法少女が一堂に会した作品を紹介しよう。

 1本目が、1986年3月28日にリリースされた『艶姿魔法の三人娘』だ。ちなみに劇中に表示されるタイトルロゴでは『三人娘の部分に「マミ・ペルシャ・エミ」とルビが振られている。30分弱の作品で、新作+TVシリーズ再編集の構成。新作は5分ほどだ。『魔法の天使 クリィミーマミ』の優、『魔法の妖精 ペルシャ』のペルシャ、『魔法のスター マジカルエミ』の舞が、温泉宿に行って、TVシリーズの名場面ビデオを観ながらガールズトークを展開するというもの。編集ビデオを見せるよりも、むしろ、トークを聞かせる構成だ。監督は安濃高志、作画監督は岸義之。
 新作パートでは、浴衣姿の優、ペルシャ、舞がすき焼きを食べる。どういうわけか、肉を食べるとそれぞれが、マミ、大人ペルシャ、エミに変身。その後は宴会芸的に3人が変身を披露したり、温泉に入って早口言葉を言ったり。やっている事には、ゲーム的な意味がありそうなのだが、正直言って何をやっているのかよく分からない。
 トーク部分では、3人が自分のボーイフレンドに電話をし、他の2人を紹介する。声だけの出演だが、『クリィミーマミ』の俊夫、『ペルシャ』の力、『マジカルエミ』の将が登場する。シリーズで俊夫、力、将は、水島裕が演じており、本作でも彼が3役をこなし、しかも見事に演じ分けている。それが『艶姿魔法の三人娘』の最大の見どころかもしれない。途中から、3人が酒を飲み始めてしまい、トークがグダグダになっていく。最後に、飲んでいたのは、お酒ではなくてジュースだった事が判明するのだけれど、後半は酔っ払い芝居が続く。
 こうやって文章で紹介すると、まるで面白いビデオのようだ。いや、今改めて観ると、結構楽しめてしまうのだけれど、リリース当時はトホホ〜な感じであった。少なくとも僕にとってはそうだ。

 もう1本が、1987年7月28日にリリースされた『魔女っ子クラブ4人組』だ。今度は『艶姿魔法の三人娘』の3人に加えて、シリーズ第4作『魔法のアイドル パステルユーミ』のユーミも登場。今回は完全新作で、なんとSFアクションものだ(実際には30分ほどの本編の後に、TVシリーズの総集編がついている)。脚本は富田祐弘と渡辺麻実、演出・絵コンテは冨永恒雄、作画監督は高木弘樹。キャラクターデザインとしてクレジットされているのは、高田明美、高岡希一、岸義之、洞沢由美子、高木弘樹だ。
 劇中劇のかたちをとっており、優、ペルシャ、舞、ユーミの4人がTVドラマ「ALIEN X from A空間」に出演。そのドラマのドラマのディレクターは『クリィミーマミ』の星井守であり、『マジカルエミ』の小金井がプロデューサーを務めているようだ。「ALIEN X from A空間」の内容はこうだ。若い女性ばかりを狙うエイリアンXが出現。地球は大ピンチだ。優、ペルシャ、舞、ユーミは、魔法の力でエイリアンXを倒すよう要請されるが、彼女達は魔法の力を失っていた。謎の存在によって、宇宙に導かれた4人は、改めて魔法の力を与えられて変身。パワードスーツに身を包んで、エイリアンXと戦うのだった。パロディ調のコメディかと思いきや、物語はシリアスに展開。クライマックスでは、一度は倒れた魔法少女達が、心をひとつにして必殺技を放つ。
 地球の平和を守り抜いた4人の前に登場したのは、なんと、スタジオぴえろのロゴマークだった。あのピエロの顔のマークだ。なんだそりゃあ。凄まじいばかりの腰砕け感だった。ロゴマークは4人に語りかける。4人をねぎらっているのか、からかっているのかよくわからない。どうやら、彼が4人に魔法の力を戻したらしい。彼は自分の事を「神様」と呼んでもらっても、「悪魔」と呼んでもらっても構わないと語る。劇中劇が終わった後で、もうひとつオチがつくのだけれど、それもちょっと冴えないものだった。ちなみに、ロゴマークの声を演じたのは、スタジオぴえろの魔法少女シリーズでお馴染みの亀山助清だった(最初に彼の声が聞こえた時に、それぞれの魔法少女が「木所さん?」「メソメソ?」「進さん?」と言ってしまうようなギャグはない。声に対する言及はあるのだけれど)。

 TVシリーズ本編とのギャップは『艶姿魔法の三人娘』よりも大きかった。魔法少女達に戦闘をさせた事や、無理矢理にシリアスなドラマを演じさせた事に対して「これは違うなあ」と思った。この作品を喜んだファンもいただろうし、一部のニーズに応えていたのも分かる。だから、作品の存在そのものを否定はしないけれど、自分の中で、スタジオぴえろの魔法少女シリーズに対する気持ちが冷めていったのは間違いない。
 スタジオぴえろのロゴマークが、神様かもしれないし、悪魔かもしれないというのは、こんな無茶な作品を作ってしまったスタジオぴえろは、キャラクターを自分の都合で動かす神様のようなものであり、悪魔のようなものだという意味なのだろう。

第439回へつづく

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(10.08.26)