アニメ様365日[小黒祐一郎]

第281回 『魔法の天使 クリィミーマミ Long Good-bye』

 『魔法の天使 クリィミーマミ』のOVA第2作『Long Good-bye』がリリースされたのは1985年5月10日。第1作『永遠のワンスモア』と同様に、TVシリーズのエビローグ的な内容の作品だった。後述する理由で、このエピソードの後で優がマミに変身する事はないはずだ。成長した優がもうすぐマミによく似た少女になるであろう事も暗示されており、また、優と俊夫は釣り合いがとれた恋人同士になっている。その意味でも、もう優がマミになる必要はなくなっていた。この後、ミュージッククリップや『魔女っ子クラブ4人組 A空間からのエイリアンX』といった番外編はあるが、『クリィミーマミ』の物語はここで完結している。
 脚本/伊藤和典、キャラクターデザイン/高田明美、美術監督/小林七郎、作画監督/後藤真砂子、演出/望月智充、総監督/小林治と、メインスタッフはいつものメンバーだ(今回は河内日出夫の参加がなく、レイアウト監修の役職で芝山努と須田裕美子が参加。また、美術監督と別に、美術の役職で木村真二がクレジットされている)。尺は55分弱。
 冒頭シーンは、優の小学校の卒業式。優が中学生になる前の春休みに、優、俊夫、みどり、愛は、綾瀬めぐみ主演の特撮映画「二つの世界の物語」の撮影のお手伝いをする事になった。その撮影が始まる直前に、優の身体に変化が起きる。昼間はマミに変身し、夜は優に戻るようになってしまったのだ。彼女を見つけた立花に説得され、マミとしてめぐみと一緒に新作映画に出演する事になってしまう。
 TVシリーズから『クリィミーマミ』には特撮作品を小ネタとして扱う事が多かったが、今回は遂に特撮現場をメインにしたエピソードだ。撮影シーンも多く、また、ミニチュアの制作、コスチューム合わせ等、メイキングも細かく追っている。アニメーションと合成するカット(ビーム剣の光、爆発などがアニメーションという想定)が完成するまでの過程を見せる箇所まである。「二つの世界の物語」は劇中劇の扱いにもなっており、描かれたのは断片的な場面のみだったが、一応、筋が追えるようにはなっていた。
 優と俊夫が、マミの正体を隠しながら「二つの世界の物語」の撮影を終えるまでがメインストーリーであり、サブストーリーとして、めぐみに想いを寄せる事になった木所のドラマが描かれた。木所は愛すべきキャラクターで、彼の存在が掘り下げられたのはちょっと嬉しかったし、どう考えても失恋に終わりそうな彼に対して感情移入して観た。他にも、友達がブラジャーをつけている事を知った優が、自分も買ってほしいと母親のなつめに頼むなど、印象的な場面がいくつかある。
 肝心の優と俊夫のドラマについては終盤までずっと薄味なのだが、ラストにドカンと濃い展開が待っていた。優にとっての魔法とは何なのかが描かれたのだ。
 マミに変身するようになってしまった優を助けるため、ある夜、ポジとネガが彼女のところにやってくる。優が変身したのは、彼女の身体に残っていたマミの記憶と、地球に接近したハレー彗星が引き合って起こった事故だった。ポジとネガは、マミの記憶を消す事で優が二度と変身しないようにする事もできれば、再びマミに変身できる魔法を授ける事もできるようだ。しかし、今すぐにどちらかを選ばなくてはいけない。まだ「二つの世界の物語」の撮影中だったが、優は魔法を授かるのを断ってしまう(つまり、昼間になってもマミに変身しないため、明日以降の撮影ができなくなってしまう)。断った理由について、彼女は「あたしね、自分の魔法を見つけたような気がするんだ」と語る。フェザースターの魔法も素敵だが、優が見つけた魔法は、それと違って皆と共有できるものであるらしい。そして、優は、その魔法は俊夫がくれたものだと言う。
 優が見つけた魔法については、ラストシーンでも、優のモノローグで語られている。彼女自身にとってまだ結論が出ていないようであり、劇中で断言はしていないが、要約すると以下のような内容だ。世界には沢山の魔法がある。素敵な事、素敵な夢、素敵な友達。それが全て、彼女にとってはフェザースターの魔法と同じような魔法なのだ。優が俊夫にもらった魔法とは、恋する気持ちなのだろう。みどりと愛の出会いも、結婚式を挙げたばかりの立花とめぐみの関係も、届かなかったとはいえ木所の想いも、素敵な魔法。書いていて猛烈に照れくさくなってきたけれど、そういう事だ。OVAである『Long Good-bye』を視聴したファンの多くが、大人の男性であったはずだが、それはさておき、魔法と恋を主なモチーフとしてスタートした少女向けアニメとしては、ベストの結論だったと思う。
 同じスタジオぴえろ(現・ぴえろ)の「魔女少女シリーズ」である『魔法のスター マジカルエミ』では、最終的に簡単に夢をかなえてくれる魔法なんて必要ないと気づき、主人公の舞は、自分の意志で魔法を返してしまった。そして、『クリィミーマミ』では、優が自分で魔法を見つけ、育んでいく事の素晴らしさを知り、フェザースターの魔法を拒否してしまう。ぴえろの「魔女少女シリーズ」を代表する2作品は、いずれも同じ結論にたどりついたのだった。

第282回へつづく

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(10.01.07)