アニメ様365日[小黒祐一郎]

第402回 『ロボットカーニバル』の各作品(6) 北久保弘之の「明治からくり文明奇譚 〜紅毛人襲来之巻〜」

 『ロボットカーニバル』は作品の並びもいい。ドラマも映像も濃密な「プレゼンス」の次に、ライトな「STARLIGHT ANGEL」が来て、その次にアート的な「CLOUD」。その次が、今回取り上げる「明治からくり文明奇譚 〜紅毛人襲来之巻〜」。これは徹底的な娯楽作だ。観客を緊張させたり、笑わせたり。その緩急のつけ方が見事だ。
 「明治からくり文明奇譚 〜紅毛人襲来之巻〜」は北久保弘之監督の作品。明治初期の日本を、異国からやってきたマッドサイエンティストのジャン・ジャック・ヴォーカーソンIII世が襲う。彼が乗っているのは巨大ロボット“我が愛しのティンカーベル号”。三吉と仲間達は、長屋の人々が祭りのために作った人型巨大からくり御輿“陸蒸気弁慶號”に乗り込んで、ジャン・ジャック・ヴォーカーソンIII世と戦う。
 とにかく楽しい作品だ。テンポもいいし、ネタは山盛り。全編が賑やかで、キャラクターがドタバタと動き回る。ロボットのデザインはユニークだし、画作りも凝っている。丁寧に作っていて、バカバカしいところに力が入っている。画や動きで楽しませる部分が多い作品だ。第396回「アニメ」と「アニメーション」で、「アニメ」的な作品、「アニメーション」的な作品について話をしたが、その文脈で言うと、「明治からくり文明奇譚」は「アニメ」的であり、「まんが映画」的な作品だ。
 見どころは沢山あるが、僕のお気に入りはクライマックスだ。陸蒸気弁慶號で我が愛しのティンカーベル号を背負い投げしようとした時、三吉の背後に浮世絵風のイメージが流れるのだが、その豪華絢爛ぶりと、背負い投げに失敗した後のがっかり感のギャップがいい。
 陸蒸気弁慶號に乗り込む5人組は、熱血漢の三吉(声/富山敬)、紅一点でオテンバのやよい(横山智佐)、長身でボーっとしている伝次郎(塩沢兼人)、巨漢の大丸(西尾徳)、小柄でメガネで物知りのふく助(三輪勝恵)。伝次郎がニヒルな二枚目でないのところだけ外しているが、5人組ヒーローの定番パターンを踏襲。富山敬をはじめ、アニメファンにお馴染みの声優陣が、それぞれが得意とするタイプの役柄でキャスティングされており、その定番感も嬉しい。そういったアニメっぽさが、『ロボットカーニバル』という枠の中で際立っている。なお、5人のキャストの中では、横山智佐のみが新人だ(アフレコに合格した時、高校2年生)。彼女はこの後、同じ北久保監督の『BLACK MAGIC M-66』『老人Z』にもヒロインとして出演する。
 スタッフワークにも注目したい。この作品で北久保監督は、キャラクターデザインを貞本義行に、メカニックデザインを前田真宏に依頼している。作画を福島敦子に任せた大友克洋監督を除けば、キャラクターデザインを自分でやらなかったのは彼だけだ。彼は、後に手がける『老人Z』や『BLOOD THE LAST VAMPIRE』でも、自分自身のキャラクターで勝負はせず、その作品に適した絵描きにデザインを任せている。プロデューサー的な資質を持つ彼らしい作り方だ。
 「明治からくり文明奇譚」についての話は、もう少しだけ続ける。

第403回へつづく

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(10.07.06)