アニメ様365日[小黒祐一郎]

第384回 『ミスター味っ子』を振り返る・その4

 「味皇杯料理人グランプリ」の決勝に残ったのは、味吉陽一、堺一馬、小西和也、下仲基之の4人だった。一馬と小西は、かつて陽一と対戦した強敵。下仲基之(声/堀内賢雄)は、味皇料理会フランス料理部の主任であり、気障な二枚目。「調理場の貴公子」という異名がある。彼が劇中で料理勝負に参加するのは、これが初めてだ。下仲と小西は、かつては同じ味皇料理会の主任同士であったが、激情家で野放図な小西と、優雅で気品のある下仲はそりが合わないようであり、このグランプリでも対立している。
 決勝1回戦に決着ついたのが、23話「激突!超豪華 シーフードカレー」(脚本/遠藤明範、絵コンテ・演出/山口祐司、作画監督/只野和子)だ。下仲が観客にバラを投げれば、小西が決めゼリフの「当たり前!」を連呼する。審査員も豪華。江川女史、岡田、甲山の3人だ。江川女史は高笑いをしながら料理の感想を述べ、甲山はあまりの旨さに「ドドンガドーン!」と頭を爆発させ、岡田はオカダコゲロゲロに変身する。トリップシーンでは、お白州が舞台となり、遠山の金さんに扮した味皇が、もろ肌を脱いで味勝負の判定をくだす。
 23話は、ここまでやってきた派手なキャラクター描写の総集編になっていた。あまりにもネタが多いので、1本のフィルムとしての緩急は弱いのだが、非常に盛り沢山な内容になっている。僕は『ミスター味っ子』のエッセンスが集約されたエピソードとして、23話をアニワルでフィルムストーリーにした。『ミスター味っ子』で面白い話が続き、是非とも大きく取り上げたいと思っていたところで、この話が放映されたのだと記憶している。
 僕がこの話につけたキャッチフレーズは「味っ子版怪獣総進撃」。フィルムストーリーといっても、「ドドンガドーン!」をはじめとする、キャラクターのパフォーマンスのみを掲載しており、ストーリーは追っていない。全2ページの記事だ。久しぶりに読み返したら、小西の「当たり前!」連呼だけで、1ページの2/3も使っていた。
 この話の料理勝負で勝ち残るのは陽一と一馬だが、むしろ、敗退した小西と下仲の方が美味しかった。前半で、料理勝負が始まる前に2人が剣で戦うイメージシーンがあるのだが、そのあたりからこの話の主役は小西と下仲だった。
 この話の下仲は、花形満、プリンス・ハイネル、シャア・アズナブル系列の、プライドの高い美形キャラとして描かれている。下仲は判定が始まる前に、自分が作った料理の不完全さに気づく。それは食べ終わった後の皿が、美しくないというものだった。完全主義者の彼は、それを許す事ができず、自ら勝負を棄権。そのまま人々の前から姿を消してしまう。その後で、審査結果に不満を感じた小西は、審査員に喰ってかかる。2人のコントラストがいい。
 サングラスをかけて、真っ赤なスポーツカーで立ち去る下仲。「味皇さま……。自分の愚かさを悔い改めるため、出直してきます。私は必ず、必ず戻ってきます」とモノローグ。それを見送った小西も雰囲気を出して、味将軍からもらった封筒をビリビリと破き、「俺の完敗だよ……」とモノローグ。彼は、グランプリに関して、味将軍と裏取引をしていたのだ。このあたりをかっこいいと思ったし、猛烈に「アニメっぼい」と思った。この「アニメっぽい」の「アニメ」とは、狭義の「アニメ」を指す。例えば『宇宙戦艦ヤマト』とか『惑星ロボ ダンガードA』あたりの「アニメ」だ。自意識の強いキャラクターが、派手で華やかなドラマを繰り広げていた頃の「アニメ」だ。『ミスター味っ子』全話の中で、一番アニメっぽい場面だったはずだし、この頃のTV作品で、こんなにアニメっぽいかっこよさは珍しかった。
 前述のフィルムストーリーを構成する時に、この小西と下仲のくだりも入れたいと思った。だが、両方を入れると記事としての狙いが散漫になってしまう。悩みに悩んで「当たり前!」や「ドドンガドーン!」といったパフォーマンスのみで構成した。構成で猛烈に悩んだのを覚えている。今、同じ記事を構成したらもっと上手にできるのになあ、と当時の記事を見て思った。
 以下は余談。24話後半で、下仲と小西が激しく言い争う場面がある。下仲から勝負に負けると宣言された小西が「何を言うか! 自ら身を引いた者が、何を言うか!」と吼える。当時から、このセリフを、ブライト・ノアのセリフのパロディではないかと思っているのだが、どうだろうか。小西もブライトも、演じているのは鈴置洋孝だ。しかし、作り手がパロディを意識していたのかどうかは、いまだに確認した事がない。パロディだとしたら、話の流れにきれい収まっているし、キャラクター表現にも合っている。見事なパロディだと思う。

第385回へつづく

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(10.06.10)