アニメ様365日[小黒祐一郎]

第380回 『ミスター味っ子』続き

 僕はアニメージュのアニワルで、僕は『ミスター味っ子』の記事をよく担当していた。ビクターからリリースされたビデオソフトの解説ペーパーの編集もやらせてもらった。放映終了後には、アニメージュ文庫の「ミスター味っ子 うまいぞーBOOK」を作った。「うまいぞーBOOK」は、僕にとって、生まれて初めての編著となった。好きな作品だったし、仕事で関わっただけに思い入れが深い。
 以下は「うまいぞーBOOK」のカバー折り返しに掲載したテキストだ。


 料理は爆発だ! カツ丼が光り、茶漬けから桜の木が生え、大阪城が崩れ、奇怪なヘンタイ料理人が飛び跳ねる。前代未聞のパワフルアクション・グルメアニメ「ミスター味っ子」。フィルムストーリーによる名場面紹介と、キャラクター写真集、監督の今川泰宏さんのインタビューもまじえて、この作品のおいしいところを残らず収録したアニメ・グルメブック。これぞアニメファンの通ごのみ。きみもこの一冊で「味っ子」の「通!」


 自分が書いた原稿について、こんなことを言うのも変だけれど、「前代未聞のパワフルアクション・グルメアニメ」というのは、かなり考えてひねり出したフレーズだったに違いない。あまりに変わった作品であったので、その魅力を言葉にするのが難しいのだ。放映中のインタビューで、今川泰宏監督は「熱血少年成長グルメアニメ」のつもりで作り始めて、それと同時に冗談で「SFバイオレンスグルメーション」と言っていたのだけれど、結局、後者の路線になってしまったと話している。
 「アクション料理アニメ」の一言で、この作品を語りきることはできないのだが、料理ものをアクションアニメ的なノリで映像化したのが、『ミスター味っ子』のポイントであるのは間違いない。ドラマのテンションの高さも、キャラクターの立て方も、演出のメリハリのつけ方も、アクションアニメ的だった。押しの強いキャラクターが多いのも特徴で、『北斗の拳』や『魁!!男塾』に登場してもおかしくない連中もいた。今川監督がこの前に手がけていた『プロゴルファー猿』に通じるところのある作品という言い方もできる。
 『ミスター味っ子』はTVマンガ的でもあった。主人公である陽一の、乱暴に感じるくらいの元気のよさ。そして、ライバル料理人達の奇天烈な設定。キャラクター同士のコミカルなやりとりには、TVアニメが「テレビまんが」と呼ばれた頃の大らかさがあった。主人公も元気がよかったが、作品自体も元気がよかった。陽一達の日之出食堂は下町にある。その下町の人間描写も含めて、当時としても懐かしさを感じる作品だった。そして懐かしいけれど、古くさくはなかった。やっている事は大らかであり、ベタだったり、あるいはベタベタだったりしたのだが、どこかに現代的な感覚が入っていた。
 それから、サービス精神。これも大きい。今川監督は関西出身だ。本人がそう語ったのか、誰かがそう評したのかは覚えていないが、『ミスター味っ子』は関西人らしいサービス精神が現れた作品だと言われていた。多彩なネタの盛りつけ方も、一押し二押し、さらに三押しと徹底的に盛り上げていく演出も、サービス精神の現れだったのだろう。
 サービス精神と表裏一体ではあるが、ケレン味も『ミスター味っ子』を語るうえで外してはいけない言葉だ。つまり、演出的なハッタリが効いていた。TVアニメの歴史において、後にも先にも『ミスター味っ子』くらい演出的なハッタリが強かった作品はなかったはずだ。
 アクションアニメ的なノリ、TVマンガ的な大らかさ、サービス精神、ケレン味。これらの要素の上に、前回も少し触れたトリップシーンがあった。トリップシーンというのは、料理を食べた後のリアクションが描かれた場面だ。クライマックスの料理勝負で、料理を食べた味皇や審査員が、あまりの美味しさに変身したり、口から火を吐いたり、宇宙を浮遊したりする。大変に愉快なシーンであり、本作の名物だった。
 僕も、知らない人に『ミスター味っ子』について説明するときに、「あんまり料理が旨いから、お爺さんが口から火を吐いたり、海の上を走ったりするアニメなんですよ」と言ってしまう。それも間違ってはいないのだけれど、この作品について正しく伝えているとも言いがたい。トリップシーンは、本作の基本的なトーンであるアクションアニメ的なノリ、テンションの高さ、ケレン味などと結びついたものだった。それらがあるから、トリップシーンが単なるお笑いではなく、ドラマの中で意味のあるものとなっていた。

第381回へつづく

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(10.06.04)