アニメ様365日[小黒祐一郎]

第340回 『王立宇宙軍』パイロットフィルム

 DAICON FILMは『DAICON IV OPENING ANIMATION』「愛國戰隊大日本」「帰ってきたウルトラマン」などで注目を集めていたアマチュアフィルムメーカーだ。DAICON FILMのメンバーが中心となり、長編劇場アニメを制作する事になった。それが『王立宇宙軍 オネアミスの翼』だった。プロジェクトの初期段階にパイロットフィルムが作られた。書籍「GAINAX INTERVIEWS」(堀田純司・GAINAX著)によれば、パイロットフィルムの制作が始まったのが、1985年1月。完成したのが、同年春だそうだ。
 「東京造形大学の天才少年達が、凄いアニメを作っている」という噂を聞いて、しばらくしてから、『王立宇宙軍』のパイロットフィルムを観る機会があった。仕事で観たわけではない。業界の誰かにこっそりとビデオを観せてもらったのだ。その感想を簡潔に言葉にするなら「これは凄いぞ」だった。感心したし、興奮した。
 パイロットフィルムは5分ほどの長さだ。タイトルに「オネアミスの翼」の文字はなく、シンプルに『王立宇宙軍』。最初は赤ん坊の写真、少年の写真、学校での記念写真。それらは主人公の過去なのだろう。次は異世界にある「王国」の描写。路面電車や街中を輸送される戦車、宇宙軍の面々。宇宙軍の若者達は、宇宙飛行士になるための訓練を続ける。その中の1人が主人公だ。宇宙に向かう計画が始まり、宇宙船の建造が始まる。主人公に話しかけるヒロイン、宇宙軍と他の軍人との大喧嘩、刺客に命を狙われる主人公、大あくびをする上官、街頭でチラシを配るヒロイン。そして、いよいよい始まる宇宙船の打ち上げ、敵国の激しい攻撃、眼下に広がる青い星等々。大変な情報量だった。まるで本編の内容を圧縮したかのようなフィルムだった。
 パイロットフィルムの何に感心したのかといえば、ビジュアルの豪華さとクオリティの高さ。それと、ズシンと見応えのある作品が生まれるであろう事への期待させる内容だった。映像に関しては、全体がまるで宮崎駿の作品のようにきっちりと構築されていた。画がみっちりと詰まっている感じがよかった。密度感が新しかった。勿論、当時の僕に「密度感」なんてボキャブラリーがあるわけがなく、その凄さを言葉にはできなかった。
 ロケットの描写や戦闘シーンも素晴らしいのだが、もっと感銘を受けたカットがふたつある。ひとつは室内のカットだ。机に向かって製図をしていた男が、振り向いて床を蹴る。彼の椅子は、車輪がついた事務椅子であり、彼は椅子ごとスーッと室内を移動。移動しながら半回転して、テーブルの上にあった電話の受話器をとる。以上の芝居を1カットで表現している。カメラワークとしては、つけPANだ。これが実写よりも臨場感があるくらいにリアルだった。リアルでありつつ、アニメならではの、動きの心地よさもあった。あまりの見事さに息を飲んだ。このカットには、どんな魔法が使われているんだ! と不思議に思うくらいだった。ほぼ同じ内容のカットが、後に完成する本編にもあるのだが、本編のカットは、タイミングがナチュラルになっており、パイロット版ほどには心地よくはなかったはずだ。
 もうひとつは、ビニールがかけられた計器から、手でビニールをむしりとるカットだ。計器はビデオデッキくらいの大きさで、テーブルに載せられている。ビニールは薄く、むしりとられる前から、中の計器が透けて見えている。作画と特殊効果によって、ビニールの質感を表現していた。今の目で見れば、その表現は、とても上手くいっているとは感じられない。近年のデジタル技術なら、簡単にもっとリアルに表現できるだろう。ではあるが、それは新しかった。アニメでそういった質感を表現しようとしている事自体が驚きだった。
 テロップによる説明もあり、戦わない軍隊である宇宙軍が、宇宙に旅立とうとする話である事は理解できた。宇宙を目指す物語であるが、地に足の着いた人間くさいものにしようとしているのも分かった。パイロットフィルムでは、後のシロツグに相当する主人公は、完成した本編よりも幼い感じで、やや二枚目。リイクニにあたるヒロインは、完成した本編よりも美少女寄りのキャラクターだ。彼女が涙を散らして、何かを叫ぶカットがあり、それは宮崎作品のヒロインを連想させた。僕は『王立宇宙軍』が、感動的で新しい映画になるのだろうと思った。宮崎作品が進化したものになると期待したのかもしれない。とにかくワクワクした。
 パイロットフィルムは、後に『王立宇宙軍』LD BOXに収録された。1997年の『王立宇宙軍』リニューアル版の公開時には、本編と一緒に上映されている。僕が知っている限りではDVDには入っていなかったが、現在リリースされているBlu-rayには、映像特典として収録されている。改めて観てみたが、やはりよくできている。とても商業作品の経験がほとんどない若者達が中心になった作品とは思えない。少ないカット数に、映画のイメージを凝縮させている事もあり、『王立宇宙軍』本編よりも、マニアックなフィルムになっている印象だ。

第341回へつづく

王立宇宙軍 オネアミスの翼[BD]

カラー/125分/(本編120分+映像特典5分)/ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ドルビーサラウンド)・ドルビーデジタル(ドルビーサラウンド)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)
価格/8190円
発売・販売元/バンダイビジュアル
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GAINAX INTERVIEWS

講談社/B6/2835円
ISBN: 9784063646436
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(10.04.05)