アニメ様365日[小黒祐一郎]

第158回 『DAICON IV OPENING ANIMATION』

 1983年の作品に関して、僕の友人達の間で、一番盛り上がったタイトルが『DAICON IV OPENING ANIMATION』だった。この年の作品で、僕がビデオを繰り返して観た回数のトップ3にも入っている。『DAICON IV OP』を作ったのは、アマチュアフィルムメーカーであるDAICON FILMだった。
 話は1981年に遡る。大阪で開催された第20回日本SF大会(DAICON III)のオープニングアトラクションためにアニメが作られた。その企画を立てたのは、同イベントの実行委員であった岡田斗司夫、武田康廣。彼らがアニメの制作を依頼したのが、当時、大阪芸術大学の学生であった庵野秀明、赤井孝美、山賀博之だった。『DAICON III OPENING ANIMATION』が完成した後、同作品に参加したメンバーはアマチュアフィルムメーカーのDAICON FILMを結成。関連組織として、SFグッズを製作販売するゼネラルプロダクツがあり、ゼネプロはDAICON FILMのキャラクター商品や、DAICON作品のビデオソフトも販売した。
 DAICON FILMは、特撮パロディの実写作品「愛國戰隊大日本」「快傑のーてんき」「帰ってきたウルトラマン」を発表。それらも傑作、あるいは怪作であり、大いに受けた。「第106回 美樹本晴彦と大阪のメカキチ」でも話題にしたように、庵野秀明、山賀博之は、TVシリーズ『超時空要塞マクロス』に参加。その後、1983年に開催された第23回日本SF大会(DAICON IV)で、DAICON FILMは、再びオープニングアニメを手がける。それが『DAICON IV OP』だった。『DAICON IV OP』では、赤井孝美の同郷であった東京造形大の学生であった前田真宏、同じ大学の先輩である貞本義行もスタッフとなっている。お手伝い的な参加と思われるが、プロのアニメーターである板野一郎、平野俊弘達も作画を担当。『III』と『IV』とでクオリティが飛躍的に向上しているのは、主要スタッフが『マクロス』でプロのアニメ制作に参加したためでもあるのだろう。やがて、DAICON FILMのメンバーが、劇場作品『王立宇宙軍』を制作する事になり、GAINAXが設立される。『新世紀エヴァンゲリオン』や『天元突破グレンラガン』でお馴染みのGAINAXは、DAICON FILMを母体にして成立したプロダクションなのだ。DAICON FILMについての説明、終わり(ちなみに、以上の説明は、『ふしぎの海のナディア』放映開始時に「アニメージュ」のGAINAX特集で書いた原稿を元にした)。
 『DAICON III OP』も『DAICON IV OP』も、既成のアニメ、マンガ、特撮のキャラクターが次々と登場。主人公は可愛い女の子であり、彼女が大活躍する。「メカ、美少女、アクション」の三拍子が揃っており、しかも、笑えた。濃いめのアニメ同人誌を濃縮して、フィルムにしたような作品だった。それが商業作品と同じ、セルアニメであったという事も驚きだった。中には、作り切れていないカットもあったが、全体によく動いており、こんなフィルムをアマチュアが作れるのか! という驚きがあった。『DAICON III OP』も『DAICON IV OP』も、アニメ雑誌でも取り上げられ、ファンの間で話題になった。これに感化され、自主制作を始めたファンも少なくないようだ。
 僕は、イベントに行くほど熱心なSFファンではなかったので、DAICON IIIにも、DAICON IVにも行っていない。ゼネプロのビデオソフトを友人が購入したので、観る事ができた。『DAICON III OP』も感心した。面白いし、よくできていると思った。メカ作画に関しては、あまりの巧さに舌を巻いた。メカ作画は大半を、庵野秀明が担当しているはずだが、当時は彼の名前を知らなかった。『DAICON III OP』のソフトだったか、『DAICON IV OP』のソフトだったかは忘れたが、確か、オマケとして庵野秀明が作ったペーパーアニメが収録されていたはずだ。これも抜群に巧かった。
 『DAICON III OP』も感心したけれど、『DAICON IV OP』はそれと比較にならないくらい凄かった。クオリティも上がり、情報量は数倍。登場するアニメ、マンガ、特撮のキャラクターは数え切れないくらいになった。そのひとつひとつを格好よく描いているのが、またよかった。曲とのマッチングも完璧。カタルシスのあるフィルムだった。作画に関しても見どころは多いが、僕が感銘を受けたのは、やはり終盤の空を舞い飛ぶ剣であり、その後の超絶リアルな爆発だった。剣のカットは、板野一郎系統の作画だったが、元祖を越えるほどの格好よさだった。勿論、庵野秀明の仕事だ。DAICON FILMには、才能ある若きクリエイターが集まっていたが、それと同時に彼らは、アニメや特撮が好きなマニア集団でもあった(後の言葉で言えば、オタク集団)。『DAICON IV OP』はマニアだからこそ作り得た、マニアックな快楽に満ちたフィルムだった。観ているだけで、幸福になれる作品だった。
 今観返すと『DAICON IV OP』は、サービスに徹しているのが素晴らしい。しかも、作り手の作りたいものと、受け手の快楽がイコールになっている。スタッフとファンが、幸せな関係を結べた作品だ。そのマニアックさやサービス精神は、DAICON FILM作品に共通するものであり、後のGAINAX作品にも受け継がれている。

第159回へつづく

(09.07.01)