第338回 『装鬼兵 Ｍ．Ｄ．ガイスト』
『装鬼兵 Ｍ．Ｄ．ガイスト』は、リリース当時にレンタルで観た。前評判が高かったわけでもないし、誰が作っているのかもよく知らなかったが、案外とよかった。「なかなかいいじゃないか。後でもう一度観よう」と思ったのだが、もう一度再生する前にビデオを返却してしまった。その後、再見する機会はなかった。「後でもう一度観よう」と思った事だけ覚えていて、何をいいと思ったのかはすっかり忘れてしまい、四半世紀が経った。
当時発行されたムック「装鬼兵 Ｍ．Ｄ．ガイスト記録全集」を参考にして、本作の内容についてのまとめておく。『装鬼兵 Ｍ．Ｄ．ガイスト』は、ジャンルとしてはＳＦメカアクションだ。舞台となるのは正規軍とネグスローム軍の長期に渡る戦闘により、荒廃してしまった惑星ジュラ。その街に現れた謎めいた男ガイスト。彼は、強力な戦闘力を持つ兵士＝Ｍ・Ｄ・Ｓ（Most Dangerous Soldier）の１人だった。ジュラ星正規軍の陸上戦艦ノアガルドスの艦長クルツは、ジュラ星における最大最強の報復攻撃システムであるデスフォースの発動を止めるための任務についていた。ガイストも腕を買われてその作戦に参加する。本作には、ファイテックスと呼ばれるバトルスーツが登場。ガイスト達はファイテックスを着用し、デスフォースの準備が進む戦略中枢センター・デスパレスに突入する。
原案・メカ設定は大畑晃一、監督は池田はやと、脚本は三条陸、キャラクター（デザイン）は二宮常雄、作画監督は大貫健一、演出は根岸弘。製作はヒロメディア、プロダクションウェイブ。「ガイスト記録全集」によれば、絵コンテとしてクレジットされている岸田弘晃は、大畑晃一と根岸弘の共同ペンネームなのだそうだ。大畑晃一のカラーが色濃く出た作品と言えよう。尺は45分ほどで、リリースされたのは1986年５月21日。
トリビア的な話題としては、本作は、近年では『ゲゲゲの鬼太郎［第５作］』や「仮面ライダーＷ」等で活躍している三条陸の脚本デビュー作である。また、主人公のガイストを演じているのは、若本規夫（当時の表記は紀昭）であり、悪役や個性的な脇役で知られる彼にとって、数少ない主役作品だ（と言っても、ダーティな主人公なので、芝居そのものはお馴染みの感じだが）。「ガイスト記録全集」は、この原稿を書くためにネットで古書を購入したのだが、これに掲載された池田はやと監督のプロフィールには、代表作として『GU-GUガンモ』が挙げられている。第258回「『タッチ』続き」で、池田はやとと池田裕之が同一人物である事について、裏が取れていないと書いたが、どうやら間違いないようだ。
この作品は国内ではあまり評判にならなかったはずだが、海外ではヒット。それを受けるかたちだったのだろう。1996年３月１日に、冒頭と最後に新作を加えるなどして手を入れ、アフレコをやり直した「完璧版」と、続編『M.D. GEIST II DEATH FORCE』がリリースされている（なお、「完璧版」ではキャストが変更になっている）。海外で評判がいいとは聞いていたが、まさか続編を作るほどの人気だとは思っていなかったため、少しばかり驚いた。
作品内容についての話に戻ろう。四半世紀ぶりに『装鬼兵 Ｍ．Ｄ．ガイスト』を観て、「後でもう一度観よう」と思った理由が分かった。全体のハードな雰囲気も悪くないし、アクション中心の作りになっているのも気持ちがいい。作品の狙いがはっきりしているところが気に入ったのだ。主人公のガイストは何を考えているのか分からない男であり、最後の最後で「え……」というオチがつく。次の大きな戦いを予感させる終わり方だが、45分ほどの作品としては、まとまりがいい。ただし、ストーリー構成は粗めであり、説明も少ない。一度観ただけではよく分からないところがあった。それも「もう一度観よう」と思った理由のひとつだ。
アクション作画が充実しているのも、惹かれた理由だった。観直したら、記憶の数倍くらいの作画祭りだった。ひとつひとつのバトルがたっぷりしているので、じっくりと作画を楽しむ事ができる。メカ作監補は、佐野浩敏。原画は以下のメンバーだ。
寺東克己、山崎理、八島善孝、山下将仁、岸野尚之、鶴山修※、工藤柾輝、神志那弘志、芥川義明、高見明男、合田浩章、河野悦隆、大貫健一、大張正己、上妻晋作、田村英樹、二宮常雄 ※鶴＝雨かんむり＋鶴
メカアクションは、大半が金田系のデフォルメ作画だ。しかも、相当に濃い。他の作品ならアニメーターの暴走ともなりかねないタイプの作画だが、アクション中心の構成であるため、作品を破綻させてはいない。むしろ、作品の方向性とマッチしている。そういったバランスが作画マニアとしては嬉しい。
内容も画作りもギトギトしている作品だ。その意味でも、実に1980年代のＯＶＡらしい。
第339回へつづく
（10.04.01）