アニメ様365日[小黒祐一郎]

第329回 『メガゾーン23 PART II』のベッドシーン

 僕は『メガゾーン23 PART II』を劇場では観ていない。ビデオがリリースされてから、レンタルで観た。劇場公開版とビデオ版が違っている事を知ったのは、レンタルで観た後だったと思う。劇場公開版にあった省吾と由唯のベッドシーンが、ビデオ版ではカットされてしまったのだ。ビデオ版でカットされたのは、ビデ倫などの問題ではなく、ビデオメーカーの判断によるカットだったと聞いてる。
 最初は、カットされたシーンを、それほど観たいとは思わなかった。だけど、そのシーンが梅津泰臣自身が作画を担当しており、大変な力作である事を知ってから、観たいと思うようになった。具体的に言うと、アニメビジョンで梅津の特集をやった時に、彼にベッドシーンの生原画を見せてもらって、猛烈に観たいと思った。見せてもらった原画は、省吾が背後から由唯を愛撫しているカットだった。当然、画は美麗であり、緻密。動きの密度も高い。そして、由唯の乳房の柔らかさが見事に表現されていた。つまり、見事なエロさだった。
 僕は、日本ビクターのプロデューサーに、アニメビジョンの特集でカットされたシーンを収録できないかと聞いてみた。記憶が曖昧だが、確か聞いたはずだ。しかし、答えはNG。原画を撮影して、収録するのは構わないかと聞いたところ、「原画ならOK」と許可してもらえた。それで、僕は原画を借りて、撮影会社に持ち込んで、撮影してもらった。その映像をアニメビジョンの梅津泰臣特集に収録したわけだ。原撮映像でも見応えはあり、多少は気が晴れた。
 その頃、本当かどうかは知らないが、『メガゾーン23 PART II』の海外版ビデオでは、ベッドシーンが収録されているという噂を聞いた。それで、どうして外国だとノーカットなんだよ、と憤ったりした。なんとかそれを観ようとして、あちこちに頼んでみたが、結局観る事はできなかった。1980年代には観たくても観られないアニメ映像など、ほとんどなかったのだが、その数少ない例が『メガゾーン23 PART II』のベッドシーンだった。
 それから四半世紀近くが過ぎた。先週の土曜の事だ。「アニメ様365日」の原稿を書くために、ラックからDVD BOXを引っぱり出して『メガゾーン23 PART II』を観た。頭から終わりまで通して観るのは久しぶりだ。懐かしいなあ、と思って観ていると、あれ? 観た事のない場面が……。あれれ? ベッドシーンが……。ベッドシーンがある!? 慌てて解説書を読んでみたところ、インタビュー中で「今までカットされていたHな部分が復活しますよ」とサラリと触れている。なんて事だ。DVD化の際にベッドシーンが復活していたのだ。このDVD BOXがリリースされたのが2000年だから、10年間も僕は気がつかずにいた。ガーン!
 自分のうかつさに呆れてしまったが、それはさておき、とにかくベッドシーンだ。巧いし、リアルだし、なによりも由唯が色っぽい。カットされていた部分は、ほんのわずかなのだけど、これがあるとないとでは随分違う。これはビデオ版にあった同場面前半も含めての感想だが、アニメで「匂い立つ」感じが表現できているのが凄い。そこらのエロアニメが裸足で逃げ出すような猛烈なエロス。しかも、単にエロく描こうとしているのではなく、描き手が、理想的なひとつのものを描き切ろうとしている感じがある。そして、描ききっている。いやあ、素晴らしい。
 多分、当時のビデオメーカーの担当は、このあまりのエロスを目にして「けしからん!」と思ったのだろう。まあ、気持ちは分からないではないけれど、これをカットしてしまったのは、あまりにももったいない。ストーリー的にも必要な場面だ。

第330回へつづく

メガゾーン23 PART 2

カラー/88分/スタンダード
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発売・販売元/アトラス
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(10.03.18)