アニメ様365日[小黒祐一郎]

第321回 『宇宙船サジタリウス』

 1986年に始まったTVアニメで、僕が一番楽しんで観ていたのが『宇宙船サジタリウス』かもしれない。この作品は、イタリアのコミックを原作としているが、使用しているのはキャラクターと設定の一部のみ。ほとんどがアニメスタッフのオリジナルだったようだ。
 主人公は、零細輸送会社である宇宙便利舎に務めるトッピー、ラナ。若き学者で、トッピー達と共に旅をするジラフ。そして、異星人のシビップ。トッピーは、1話で子どもが産まれたばかりの30代、ラナは太った奥さんと沢山の子どもを養っている40代、年上のアン教授に憧れているるジラフは、ちょっと頼りない20代。それぞれ欠点もあれば、失敗もする。お金もなければ、特殊能力もない。弱音も吐くし、建前よりも本音を優先する。そして、ほんのたまに、かっいいところを見せる。作品のコンセプトのため、キャラクターの外見は、半分動物のようなものあったが、それを除けば、彼らはびっくりするくらい等身大の人間だった。
 そんな彼が、様々な星に行って冒険をする。地に足の着いたスペースオペラ。どこにでもいる当たり前の人間として主人公達を描き、ヒューマンなドラマを展開する。それが『宇宙船サジタリウス』の面白さだった。主題歌「スターダストボーイズ」の歌詞が全てを語っている。ここで、主題歌の歌詞を全文引用したいくらいだが、そういうわけにもいかない。つまり、主人公達は(そして、観ている僕達も)スーパーヒーローではない。だけど、ヒーローではないからこそのいいところがあるんだぜ。そういった事を描く作品だった。
 制作プロダクションは、日本アニメーション。プロダクション側のプロデューサーが松土隆二、監督が横田和善、キャラクターデザインが坂巻貞彦(後に関修一、高野登も)と、『ミームいろいろ夢の旅』のチームが手がけた作品だ。脚本、演出も『ミーム』のメンバーが参加している。僕は『ミーム』スタッフの新作として、この作品を観ていた。放映されたのは、1986年1月10日〜1987年10月3日。全77話。テレビ朝日系で、毎週金曜の19時半から。つまり、『ドラえもん』の後の枠での放映だった。視聴率的には健闘したらしい。アニメファンにとっては、どうだったろうか。僕の周りでは、楽しみにしている人が多かった。
 最初の「ムーの謎編」のみが全13話のロングシリーズで、その後は、全3話〜全7話の短いシリーズが続き、最終的に18本のシリーズが作られた。1シリーズをひとりの脚本家が書くかたちであり、脚本家のカラーが反映される作品、もっと言えば、脚本家の力量が問われる作品だった。当時の印象では、一色伸幸が脚本を執筆した「ムーの謎編」が抜きんでて面白かった。藤本信行脚本の第2シリーズ「スィード編」も、シリーズゲストのバルバラ姫の存在もあり、ファンに人気があった。失業したトッピー達が新会社を設立する第3シリーズ「ザザー星編」も楽しめた。これも一色伸幸脚本だ。その後も、多少の凸凹はあったが、最後まで楽しめる作品だったと記憶している(以上のシリーズ名は、公式のものではなく、僕が編集をお手伝いした旧DVD BOX解説書から)。勿論、脚本だけでなく、演出、役者の芝居も充実。血が通った作品になっていた。
 当時の自分を振り返ると、TVシリーズでストーリー的に見応えのある作品が少なかった時期だったため、より『宇宙船サジタリウス』を楽しめたというのもあった。「アニメージュ」で1987年の春にこの作品の大特集があった。僕は写真選びとネームの一部を書いただけだが、巻頭特集に参加したのはそれが初めてだった。その意味でも思い出深い作品だ。

第322回へつづく

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(10.03.08)