アニメ様365日[小黒祐一郎]

第155回 『ミームいろいろ夢の旅』

 『ミームいろいろ夢の旅』は、妖精と思しきキャラクターのミームと一緒に、子ども達が科学について知っていく学習アニメだ。制作は日本アニメーションで、監督は横田和善。民営化をひかえた電電公社の一社提供で、放映中に電電公社がNTTになった。放映されたのは1983年4月3日から1985年9月28日。最初の1年間はミームと共に、大介、さやかの兄妹が活躍。2年目から大介、さやかに代わり、サトルとマリの兄妹を中心にした科学探偵団が物語を進めるようになった。
 と、さも知ったような事を書いてしまったけれど、僕がこの番組を観るようになったのは、おそらくは1984年の夏から。初めて観た時にすでに科学探偵団の話になっており、大介、さやか時代のエピソードは一度も観ていない。しかも、本放映以来、再見する機会がなかったので、細部の記憶はほとんどなくなっている。今回は放映当時に、僕が同人誌に書いた原稿をもとにして『ミーム』について記す事にする。僕が観たのがシリーズ中盤からなので、触れるのは中盤以降のみ。さらに、思い込みと若気の至りで書いた原稿をベースにするので、偏った記述になってしまうはずだが、ご勘弁を。
 『ミーム』は学習アニメとしても、しっかりした内容だった。同人誌の原稿で、僕は学習アニメとして感心したエピソードとして、76話「シルクロードは謎の道?」を採りあげている。これは正倉院にある白瑠璃碗のルーツをシルクロードの彼方に求めるという話。子ども向け番組としては相当に渋い題材だ。今となってはこのエピソードをまるで覚えていないのだけれど、原稿を読むと、前半は白瑠璃碗の謎をテンポよく紹介し、後半はノンフィクション仕立てで発掘調査を見せ、上手にまとめているらしい。僕は「ラストシーンで感動した」とまで書いている。ひょっとしたら、僕が『ミーム』に興味を持ったきっかけが、この話だったのかもしれない。94話「科学捜査・君も刑事だ!」については、細かい科学捜査が積み重ねられていく過程が面白かったとある。「科学捜査」は全3話のシリーズで、これが面白かったのはちょっと覚えている。
 僕は主に、各話の脚本や演出を楽しみにして観ていた。脚本に関しては、僕が観ていた時期は一色伸幸が執筆した話数が多く、彼の脚本がお気に入りだった。同人誌では、以下のように書いている。


 一色氏の脚本で印象に残るというと、やはり“ミームのお勉強”が少ない回が多い。サトルのロボットへの思いやりを草野球を通じて描いた102話「新・探偵ロボット登場!」。ミスターXと名乗る謎の人物によって、無人島の洋館の晩餐会が開かれ、招待客の宝石が次々と消えていくという江戸川乱歩風ミステリーの106話「ミスターXは誰?」。CATVの推理ドラマの収録中に起きた、控え室の密室放火事件。ドラマの中で名探偵を演じたミームが、名推理をする108話「CATV放火事件」等々。何かが違うなあと思う回は、一色氏の脚本である事が多かった。


 一色脚本は、キャラクターを描き込んだドラマ性の強い話がよかった印象がある。同人誌の原稿では上の文章に続き、一色伸幸の脚本で、特に印象に残ったものとして111話「梅雨空を青空にする方法」を採りあげている。エアロビクスのインストラクターである芳恵が、目の病気で入院してしまう。手術をしても失明する可能性が高い。弱気になった芳恵は、手術を受ける前に、青空が見たいと言い出す。しかし、今は梅雨だ。サトル達の友達である早崎というお巡りさんが、芳恵に憧れていた。早崎とサトル達は彼女を励ますために、なんとか青空を見せようとする。オー・ヘンリーの短編のようなプロットだ。僕は原稿で「お涙頂戴になりそうな話だが、そうはしないところが脚本家の腕前」と書いている。偉そうだなあ。早崎とサトル達は、書き割りで青空を作ったのだが、あまりに画が下手だったので、芳恵は偽の空だという事に気づいてしまう。しかし、皆の優しさに勇気づけられた彼女は、手術を受ける気になる。そして、手術が成功したかどうかが分かる日がきた。包帯をとって、目が見えるかどうかを確かめるのがクライマックスなのだが、ここで芳恵が、皆にあるいたずらをしかける。そのいたずらが、彼女の幸せの表現となっており、ドラマを盛り上げた。クライマックスの後に、さらに何かひねったラストシーンがあったらしい。原稿では「この後のラストシーンで、ちょっと話がひねってあるのだが、それがどんなものなのかは機会があったら見て下さいな」と書いている。あれ? どんなラストだったんだっけ。気になるなあ。オチまで書いておけばよかった。ダメじゃないか、昔の俺。「梅雨空を青空にする方法」も“ミームのお勉強”がほとんどない話だったはずだ。
 一色伸幸は『ミーム』の次に『宇宙船サジタリウス』でメインライターを務め、ここでさらに実力を発揮する。『サジタリウス』は脚本の力に支えられた作品だった。その後、彼は実写に活動の場を移し、「私をスキーに連れてって」「僕らはみんな生きている」等を手がけている。彼が実写で活躍しはじめた時、僕は「もっとアニメをやってほしかったなあ」と思った。今でも残念に思っている。
 演出に関しては、若手だった佐藤博暉、鈴木孝義の仕事が光っていた。後にOVAシリーズ『KEY THE METAL IDOL』で原案・脚本・監督を、最近では『WHITE ALBUM』でシリーズ構成を務めている佐藤博暉は、『ミーム』ではインサートカットを多用する等、カットの積み方が凝っていた。佐藤博暉担当回で傑作だと思ったのが、99話「サケ・君の故郷はどこ?」だった。サケの一生という学習マンガ定番の素材を、彼は短いカットの積み重ねで、ドラマチックなものに仕上げていた。
 鈴木孝義の演出で印象的だったのが、116話「探訪!アリの不思議な国」だ。ミームによって、昆虫サイズになったサトルとタケシは、アリの暮らしを体験する事になる。これも学習マンガでよくありそうなプロットだが、終盤でサトル達がアリジゴクの巣に落ちて、そこからいきなりスペクタクルになる。サトル達は必死に逃げようとするが、アリジゴクは巨大な顎で土をかけて、彼らを巣の底に落とそうとする。一方、アリの巣の近くで、妹のマリがサトル達を探していた。彼女は人間サイズのままだ。マリが食べ終わったアイスキャンディのスティックを、ポイと投げ捨てる。サトル達がアリジゴクと戦っているところに、何か巨大なものが落下してくる。それはマリが捨てたアイスキャンディのスティックだった。一度は、スティックのお陰で逃げられるかと思ったが、アリジゴクはなおも襲いかかってくる。そこで……と話は展開。怪獣的なアリジゴクは迫力あったし、人間にとってはちっぽけなスティックが、昆虫サイズになったサトル達からすると巨大に見えるという対比も面白かった。最終的にサトル達はマリに助けられるのだが、助かった時のサトルのセリフも気が効いていた。この回の原画にオープロダクションが参加しており、作画的にも健闘。おそらくは、アリジゴクのシーンは途中までの原画が高坂希太郎、サトル達が助かるところの原画が阿部卓司だろう。
 『ミーム』のメインキャラクターをデザインしたのは関修一と坂巻貞彦。関修一は序盤から出ていたミーム、大介、さやかを担当。科学探偵団のキャラクターは、坂巻貞彦のデザインであったようだ。坂巻貞彦は『新ルパン』に参加しており、そのためか、どこかキャラクターに『ルパン三世』っぽいというか、東京ムービー的な感じがあった。各話の作画で言うと、スタジオTOTOの作画がよかった。印象的だったのが84話「生命をささえる人工臓器」の野球シーン。Aプロ調の歯切れのいいアクションだったと記憶している。随分後になって分かったのだが、その野球シーンの原画を描いたのは『元気爆発ガンバルガー』『宇宙海賊ミトの大冒険』で知られるようになる近藤高光であったようだ。
 ピンポイントな話題ばかりになってしまったが、当時の僕は、特にそういった個々のスタッフの仕事に興味があった。そして、『ミーム』はスタッフの意欲的な仕事が楽しめる作品だった。さっき『宇宙船サジタリウス』のタイトルを出したが、一色伸幸だけでなく、『ミーム』メインスタッフの多くがそのまま移行して『サジタリウス』を手がける。『サジタリウス』はしっかりしたドラマ作りが魅力の秀作であり、その萌芽はすでに『ミーム』にあった。

第156回へつづく

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(09.06.26)