アニメ様365日[小黒祐一郎]

第306回 『DRAGON BALL』

 『DRAGON BALL』は、いわずとしれた鳥山明原作のアクションアニメだ。超メジャータイトルであり、原作もアニメも、今もファンに支持されている。原作は長大な作品であり、TVアニメ版も長寿番組になった。悟空の冒険の始まりから、ピッコロ(マジュニア)との死闘までを描いた第1シリーズが『DRAGON BALL』、サイヤ人襲来から魔人ブウとの戦いまでを描いた第2シリーズが『DRAGON BALL Z』。『Z』で原作を使い切り、第3シリーズ『DRAGON BALL GT』はアニメオリジナルの内容となった。アニメ『DRAGON BALL』は第1シリーズから『GT』までで、11年半も続いている。なお、現在放映中の『DRAGON BALL KAI』は、『Z』の内容を原作に沿ったかたちで再構成したものだ。
 いきなり自分の話になるが、僕は『DRAGON BALL』で4本の脚本を書いている。デビューなんて華々しいものではないのだけれど、脚本初体験が『DRAGON BALL』だった。それもあって、いまひとつこの作品を客観的に観ることができない。脚本の仕事については、1988年の話題になったところで改めて触れる事にする。
 『DRAGON BALL』のメインスタッフは、前番組の『Dr.スランプ アラレちゃん』のメンバーが中心だった。シリーズディレクターは岡崎稔と若手の西尾大介(クレジットでは、西尾の名前は小さい)。美術デザインは辻忠直で、途中から池田祐二が連名でクレジットされた。また、シリーズ終盤から、小山高生がシリーズ構成として参加している。キャラクターデザインと総作画監督(クレジットでの役職はチーフアニメーター)は前田実。この時期、前田実は『DRAGON BALL』と『タッチ』両方の総作画監督を務めており、さらに両作品の劇場版の作画監督、TVシリーズ『Bugってハニー』のキャラクターデザインも担当している。驚異的な仕事量だ。『DRAGON BALL』第1シリーズが放映されたのは、1986年2月26日から1989年4月19日。全153話だ。
 僕は『DRAGON BALL』は原作もアニメも好きだった。原作を連載で追いながら「この部分はアニメではどうなるんだろう?」と予想していた。アニメ版はベテラン&実力派揃いの声優陣と、東映動画(現・東映アニメーション)の大らかな作りがマッチし、いい味になっていた。特にシリーズ前半は「テレビまんが」的な感じがよかった。アニメーションとして、シリーズを通してクオリティが高かったわけではないけれど、たまに凝った部分があり、それをチェックするのが嬉しかった。
 ストーリーに関しては、原作と同時進行であったため、途中にオリジナル編を挿入して、原作に追いつかないようにして進めていた。わずかに矛盾も生じていたが(後に原作に登場するドクター・ゲロと別に、人造人間8号を作った博士が登場してしまったなど)、全体としては、無理の少ない構成になっていた。原作ストックがたっぷりあったため、『Z』のような、無茶な引きのばしはなかったはずだ。
 コメディアクションから、シリアスなバトルものに移行していったのは、原作もアニメも同様だが、アニメはシリアスになるのがちょっと遅れた印象だった。つまり、原作のバトルが派手なものになりつつあるのに、その時期のエピソードを映像化した話数が、初期のコミカルなテイストのままだった頃があったと記憶している。観返したら、そうは思わないかもしれないが、当時の印象としてはそうだった。
 シリアス路線への移行について、ターニングポイントになったのは、原作でもアニメでも、2度目の天下一武道会(第22回大会)終了の直後。ピッコロ大魔王の手下によって、クリリンが殺されたところだろう。それまでは「キャラクターが殺されても死なない」ようなコミカルな世界だっただけに、メインキャラクターの死をはっきりと描いたのがショッキングだった(その段階では、七つのドラゴンボールの力で、同じキャラクターが何度も死んだり、生き返ったりするようになるとは思わなかった)。
 アニメで、クリリンの死が描かれたのが、101話「武道会終了! そして…!!」(脚本/島田満、作画監督/内山まさゆき、演出/西尾大介)のラストだ。この話で、クリリンの死を非常に重たいものとして扱っていたのが印象的だ。クリリンが命を落とす前に、彼と仲間達の関係の深さを、視聴者に再確認させる描写があった。それが演出に興味がない視聴者でも「あれ? 今の何?」と思うくらい、こってりとしたものだった。また、作り手がキャラクターに入れ込んでいるのが分かるエピソードでもあった。
 ピッコロ大魔王が登場するまでの『DRAGON BALL』にはロマンの香りがあった。あるアニメスタッフからの受け売りになってしまうが、地平線の向こうにはどこまでも世界が広がり、見た事のないような凄い場所、経験した事のない凄い冒険があるに違いない。そんな広い世界をどこまでも突き進もう。そんな冒険物語のロマンだ。そして、タイトルになっているドラゴンボールが、ロマンの象徴だ。アニメ版はそのロマンを強調していたはずだ。アニメ版のロマンは、『Dr.スランプ アラレちゃん』に続き、この作品を担当していた七條敬三プロデューサーの持ち味でもあった。アニメ『DRAGON BALL』のロマンは、ストーリーや演出よりも、むしろ、主題歌や挿入歌の歌詞にこめられていたのかもしれない。
 シリアスなバトルものになってからは、別の面白さがあった。特に、成長した悟空が参加した3回目の天下一武道会(第23回大会)が抜群の面白さだった。悟空が大人になって、少しムードが変わったというのもあったし、その頃は、バトルが派手になっていく事による高揚感があった。ヤムチャやクリリンといった初期からいるキャラクターの見せ場もあったし、次から次に派手な新技が披露されるのも楽しかった。
 若いファンには『Z』の方が人気があるのだろうと思うが、僕は断然、第1シリーズの方が好きだ。中盤までの冒険ものだった頃もいいし、シリアスなバトルものに移行していく感じも好きだ。

第307回へつづく

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(10.02.15)