アニメ様365日[小黒祐一郎]

第277回 『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』

 1985年にOVAが激増したと言っても、その気になれば、全部観られるくらいのタイトル数だった。友達の1人は、リリースされたOVAを全部観るのを目標にして、新作を追いかけていた。全タイトルを購入するわけにいはかないから、都内のレンタル店を回っていたのだろう。僕の記憶が正しければ、1985年のOVAで、その友達が見つけるのに苦労したタイトルのひとつが、『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』だった(もう1本が『Twinkle NORA Rock me!』だったはずだ)。
 『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』は、藤原カムイの「CHOCOLATE PANIC」を元にした作品だ。原作は、3人のコシミノを付けた黒人のキャラクターが主人公の、シュールなギャグマンガだ。僕も『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』は、当時、一度もレンタル店で見かけなかった。アニメ雑誌では、多少は取り上げられていたはずだが、記事の印象が薄い。友達が「見つからない」とぼやいていなければ、タイトル自体忘れていたかもしれない。
 月日は流れた。僕が『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』に金田伊功が参加していると聞いたのは、21世紀に入ってからだった。ええっ、そうなの!? あのビデオに金田さんが? それを知って、俄然、『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』を観てみたいと思うようになった。しばらくして、ネットなら見つかるのではないかと気がついた。検索してみると、あっという間にオークションで中古ビデオが見つかった。僕にとっては半ば幻だったビデオが、ほんの数分で発見。凄いぞ、インターネット。プレミアもついておらず、700円という安価で購入できた。
 ようやく観る事ができた『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』は、なかなか奇っ怪なビデオだった。物語らしい物語はない。ミュージッククリップ風であり、ショートアニメ集的でもあるけれど、ミュージッククリップでも、ショートアニメでもない(ビデオソフトのパッケージには、逆に「良くある鑑賞ビデオみたいでもあるし、ポップ・ミュージック・ビデオでもあり、ショート・ショート・ギャグまである」(抜粋)と書かれている)。ただ、1980年代半ばには、こういったジャンル分けの難しいビデオがよくあった気もする。映像的にも混沌としていた。当時は珍しかったCGを使っているところもあるし、アートアニメ的なパートもある。全体にアマチュアっぽいところもあり、今ならそれを含めて、あの時代らしい仕上がりだなとも思えるが、リリース当時の僕が観たら「わけがわからない」と言って怒っていたかもしれない。
 この作品はスタッフクレジットが意外性だらけで、それが面白かった。お目当ての金田伊功は、絵コンテ(共同)とアニメーションという役職でクレジットされていた。絵コンテも描いていたのだ。映像を観てみると、カット数は多くないが、確かに彼の担当パートはあった。
 アニメーションの役職で、最初にクレジットされているのが、「まんが日本昔ばなし」や「みんなの歌」でもお馴染みの堀口忠彦。他にも「まんが日本昔ばなし」に参加しているクリエイターの名前がある。それから、同じアニメーションの役職で、ガイナックスがクレジットされている。ガイナックスの設立は1984年12月だから、1985年のこの作品に参加していてもおかしくはないのだけれど、具体的には誰がやっているんだろうか?(ガイナックスのプロデューサーだった井上博明は、別の役職でクレジットされている)。ひょっとしたら、ガイナックスの社名がクレジットされた最初の作品が『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』かもしれない。
 それから、企画・構成、プロデューサー&ディレクターの役職で、広瀬和好の名前が出ている(企画・構成は、原作の藤原カムイと連名)。広瀬和好といえば、日本初のアニメ誌である「季刊ファントーシュ」を編集し、僕が多大な影響を受けた「マンガ少年」のアニメ特集を担当した人物だ。プロデューサーは他にも数人が立っているが、ディレクターの肩書きは彼のみ。同姓同名の別人でなければ、「ファントーシュ」の広瀬和好が、原作者の藤原カムイと企画を立て、監督をしたという事になる。僕もアニメ雑誌の編集が本業で、それと別にアニメのプランニングなどをやっているから人の事は言えないのだけど、彼が、作品の企画や監督をやっているとは思わなかった。僕にとって『THE CHOCOLATE PANIC PICTURE SHOW』最大の収穫は、エンディングクレジットに彼の名前を見つけた事だった。

第278回へつづく

(09.12.25)