アニメ様365日[小黒祐一郎]

第192回 宇宙SFアニメに飽きていた

 第139回「劇場版『ゴルゴ13』」で、この映画をロードショーで観なかった理由として「多分、題材がアダルト過ぎて、19歳の僕は、食指が動かなかったのだろう」と書いた。だが、後になってよく考えてみたら、観る気にならなかったのに別の理由があった。セールスポイントになっているCGに、何かヤバいものを感じていたのだ。公開前後に、あの映画のCGについて、悪い噂を聞いたような気がする。
 1984年にもCGを売りにした劇場アニメがあった。『SF新世紀レンズマン』だ。E・E・スミスの古典的SF小説を映像化したもので、制作プロダクションはマッドハウス。監督は広川和之、川尻善昭の名前がクレジットされている。ではあるが、少なくとも川尻自身にとっては、初監督作品という位置づけの作品ではないようだ。彼は、最初は絵コンテだけのつもりでこの作品に参加。結果的に、絵コンテだけでなく、制作現場を仕切る事になったけれど、編集や音響には立ち会っておらず、とても監督をやったとは言えないと語っている(詳しくは、僕がロングインタビューを担当した「PLUS MADHOUSE 2 川尻善昭」をどうぞ)。作画監督は富沢和雄、北島信幸。公開は1984年7月7日。劇場版『ゴルゴ13』は観に行かなかったのに、『SF新世紀レンズマン』は観に行った。それは、予告編や雑誌に載ったビジュアルの印象がよかったからだろう。メジャー感のある主題歌に惹かれたのかもしれない。
 公開当時の『SF新世紀レンズマン』の印象は、決して悪いものではなかった。今観たらどうか分からないが、CGの出来も悪くなかったし、使い方も上手かった。CGにはまるで期待していなかったのだけれど、ちょっと感心した。原画には森本晃司、福島敦子、梅津泰臣、大塚伸治といったメンバーが参加しており、アクションも見応えがあった。ストーリーは、ほとんど記憶していないが、勧善懲悪のシンプルなものだったはずだ。8年ほど前、WEBアニメスタイルの「animator interview 森本晃司」の取材時に、レンタルビデオで少しだけ観返した。あまりにも追っかけのシーンが長くて、映画としては冗長なのではないかと思ったが、確かそういったところもロードショー時には楽しんだ。
 さて、以下が本題。『SF新世紀レンズマン』は、どちらかといえば楽しめた作品だった。だが、ちょっとだけ引っかかった事があった。自分が「この映画が[宇宙SFもの]である」という事にワクワクできなかったのだ。それに自分で驚いた。
 第184回「『愛・おぼえていますか』とアニメブーム」で書いたように、すでにこの頃、アニメブームは終わっていた。アニメブームの主力であった作品の多くが、宇宙SFものだった。僕達はそれが「愛と感動の物語」である事に惹かれ、同時に「宇宙SFもの」である事にワクワクしていた。少なくともアニメブームの一時期は「宇宙SFもの」である事に、価値があった(価値があったのは、アニメファンの中で、宇宙とロマンが直結していたからだ)。同じ7月に公開された『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は、圧倒的なメカの物量とディテールの描き込みと、センスのよいSF的描写で、なんとか「宇宙SFもの」のワクワク感を維持していた。ひょっとしたら、そういった事にワクワクしたのは、『愛・おぼえていますか』が最後だったかもしれない。
 今になって思えば、『SF新世紀レンズマン』は、自分が「宇宙SFもの」に飽きた事に気づいてしまった作品だった。多分、同年輩のアニメファンの多くが、すでに飽きていたのだろう。しかし、作品を企画する側には「アニメファンは『宇宙SFもの』が好きだろう」という思い込みがあり、この後も、細々とではあるが、宇宙を舞台にした作品が作られ続けた。前回取り上げた『地球物語 —テレパス2500—』もその1本だ。初期のOVAにも「宇宙SFもの」が何本かある。そういったタイトルを目にして「なんで今さらこんなものを!」と思った事もある。

第193回へつづく

PLUS MADHOUSE 2 川尻善昭

構成・編集/スタジオ雄
価格/2310円(税込)
体裁/A5判
頁数/192頁
発行/キネマ旬報社
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(09.08.19)