アニメ様365日[小黒祐一郎]

第193回 『とんがり帽子のメモル』

 1984年に始まったTVアニメで、僕が一番夢中になった作品が『とんがり帽子のメモル』だった。僕だけでなく、沢山のアニメファンに支持された作品だ。これは東映動画(現・東映アニメーション)としては珍しいオリジナル作品で、小さな宇宙人であるメモルと、病弱で可憐なマリエルの関係を主軸にしたファンタジーだ。放映は1984年3月3日から1985年3月3日までで、全50話。最初は土曜19時からの枠だったが、途中で日曜朝8時半に移動。現在の『ブリキュア』シリーズまで続く、朝日放送系日曜朝の東映アニメーション枠は、ここから始まっている。
 瑞々しく、繊細な印象の作品だった。ビジュアルも、世界観も、キャラクターも、音楽も新鮮であり、魅力があった。メモル達の見た目は、どう見ても宇宙人ではなく妖精だった。妖精のようなキャラクターが出てくる作品なんて、当時でも手垢がついたジャンルだったが、『とんがり帽子のメモル』には、古くささはまるでなかった。当時、東映動画が作る作品はオーソドックスであり、安心して観られるが、どこか野暮ったいという印象があった。だから、東映動画がこの作品を作った事に驚いた。「えっ? いったい何が起きたの?」といった感じだった。
 ここで、本作の企画経緯について説明しておこう。企画初期に中心になっていたのが、若きアニメーターの名倉靖博と、美術監督の土田勇だった。最初に、スポンサーであるバンダイから「小さな女の子を主人公にしたシリーズを作りたい」という要望があり、それを受けて、東映動画で企画がスタートした。名倉と土田が、大量のイメージボードを描き、それによって作品の下地を作った。やがて、シリーズディレクターとなる葛西治、若手演出家の佐藤順一、貝沢幸男が企画に参加。シリーズ構成の雪室俊一が参加したのは、さらに後だ。企画初期には人間は登場せず、メモル達だけの話として考えられていたようだ。また、メモル達は宇宙人ではなく、やはり妖精だった。1話の作画が始まった段階でも、メモル達は妖精だったが、とある問題が生じて、制作途中に妖精から宇宙人に設定が変わったのだそうだ(だから、作画インしてから、1話の内容は微調整されている。以上は、『とんがり帽子のメモル』DVD BOXに掲載したスタッフインタビューを元にして記述した)。
 『とんがり帽子のメモル』はオリジナルだからこそ作りえた作品だった。クリエイター達の才能と意欲がフィルムに漲っていた。単に脚本家が書いた物語を、絵に置き換えていくような作り方では、作りえない作品だった。美術監督が企画の中心にいたというのは、非常に頷ける話だ。本作は美術の存在が非常に大きい。木々のデザインも、光の描写も、色遣いも、素晴らしかった。単に背景として美しいだけでなく、美術が積極的に作品世界を作っていた。この連載でも『龍の子太郎』劇場版『地球へ…』『パタリロ!』で土田勇の仕事について触れてきたが、印象的な仕事を連発してきた彼が、さらに作品作りに深く踏み込んだ作品だった。
 名倉靖博のデザインも素晴らしかった。絵が柔らかく、味わいがあった。しかも、オリジナリティがあり、当時の他のキャラクターのどれとも似ていなかった。後にイラストレーターとして活躍する彼の、初期の代表作だ。名倉のキャラクターと土田の美術によって生まれた映像は、まるで絵本のようだった。
 各話の仕上がりについては、企画にも参加していた佐藤順一、貝沢幸男の存在も大きい。彼らは、次々と才気溢れる傑作を生み出し、シリーズを盛り立てた。アニメマニア的には、各作画監督の個性的な仕事ぶりも、楽しみなポイントだった。作品内容もそうなのだが、本作においては、スタッフもフレッシュだった。大袈裟な言い方になるが「東映動画に新しい時代が来た」と感じた。しかし、シリーズ後半に、内容的にやや失速。最終回に至っては残念な出来だった。それについては次回以降で触れたい。

第194回へつづく

とんがり帽子のメモル DVD-BOX

カラー/11枚組/片面2層/4:3
価格/60900円(税込)
発売元/東映アニメーション、フロンティアワークス
販売元/フロンティアワークス、ジェネオン エンタテインメント
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(09.08.20)