アニメ様365日[小黒祐一郎]

第163回 エピソードで振り返る『クリィミーマミ』2

 前回の「第162回 エピソードで振り返る『クリィミーマミ』1」で、「『渚のミラクルデュエット』での彼(望月智充)の仕事は演出処理だが、あちこちに彼のよさが出ていた」と書いた。更新した後にとある業界の人から、実際には8話は水谷貴哉と望月智充が、それぞれ1パートずつ絵コンテと演出処理をやっていたという情報をいただいた。それから読者のnorakuroさんからも、望月智充ファンクラブのリストに、当該話数のBパートで絵コンテを担当したという記述があると指摘していただいた。そうだったら納得だ。機会があったら、きちんと裏をとりたい。
 昨日取り上げた以外で、第1クールのエピソードで印象に残っているのが、11話「パパは中年ライダー」(脚本/戸田博史 絵コンテ/案納正美 演出/市川五領 作画監督/遠藤麻未)と13話「鏡のむこうのマミ」(脚本/柳川茂 絵コンテ・演出/水谷貴哉 作画監督/遠藤麻未)だ。「パパは中年ライダー」では、夫婦ゲンカをして家出した哲夫が、暴走族に入ってしまう。暴走族と言っても、マミのファンが集まった大人しいチームだったが、彼を家に戻すために優達は奔走。クライマックスでは、謎の女性ライダーとして登場したなつめが、スーパーレディぶりをチラリと見せる。最後に哲夫もなつめも暴走族出身であり、哲夫はチームのおちこぼれ、なつめはリーダーだった事が判明。凝った話ではないのだが、魔法少女もので暴走族をモチーフにしてしまう何でもありな感じと、全体の気楽さがよかった。
 「鏡のむこうのマミ」はちょっとハードな話で、優がミラーハウスで変身した事によって、マミのドッペルゲンガーが出現してしまう。ドッペルゲンガーは見た目はマミにそっくりだが、それ以外は本物と反対の少女だった。彼女はTVでスキャンダラスな発言をし、グラビア撮影でヌードになるのを望む。最後はマミとドッペルゲンガーの正面対決になる。ドッペルゲンガーは、自分は今までマミの影として生きてきた。アイドルとして振る舞うと、皆に自分の存在を認めてもらえる。だから、マミになりすますのが楽しいと言う。それを聞いたマミは、ドッペルゲンガーが本当のマミになっても構わないと言い出す。自分はアイドルになりたくてなったのではないから、それでもいいのだ。ただ、マミになっても、ファンの気持ちは裏切らないでやってほしいと言う。それを聞いたドッペルゲンガーは鏡の中に戻ってしまう。劇中では、彼女が鏡に戻った理由をはっきりさせていないが、ドッペルゲンガーは、偽物である自分やファンを思いやるマミの気持ちに打たれたのだろう。優が簡単に「マミである事」を譲ってしまう展開は意表を突いていたし、それが優のキャラクター表現になっていのるもよかった。
 第2クールは14話「私のMr.ドリーム」、17話「時のねむる森」、18話「ざしきわらしの冒険」と、ファンタジー話が多い。「私のMr.ドリーム」(脚本/島田満 絵コンテ・演出/望月智充 作画監督/後藤真砂子)は、『クリィミーマミ』ファンに人気の高いエピソードのひとつだが、僕はいまひとつ馴染めなかった。それは内容が童話的で、あまりに可愛らしい話だったためだろう。そのエピードでは、優とドリームコメットに住んでいるMr.ドリームという紳士との出逢いが描かれている。Mr.ドリームは色々な星の子どもにプレゼントをして回っている。Mr.ドリームとの出逢いは素敵なものだったが、Mr.ドリームは、翌朝になったら、優は彼の事を忘れてしまうと言う。それを悲しむ優。その感傷的なやりとりは「時をかける少女」のクライマックスと重なった。同じように感じたファンもいたのではないだろうか。大林宣彦監督の映画「時をかける少女」が公開されたのが1983年7月16日。「私のMr.ドリーム」が放映されたのが9月30日。大林版「時かけ」の感動がまだ残っている頃の事だった。
 19話「マミの一番長い日」(脚本/伊藤和典・島田満 絵コンテ・演出/立場良 作画監督/高橋信也)はアイデアが面白かった。東京の球場で、大々的なマミの新曲キャンペーンコンサートが開催される日。木所マネージャーとマミは、スケジュールを間違えて、新島に行ってしまっていた。2人は、島を出るセスナに乗せてもらったが、セスナの目的地は大阪だ。大阪から新幹線に乗って東京に向かったものの、故障のために新幹線は不通に。たまたま他のアイドルが使っていたパルテノンプロのステージカーが静岡にあり、それに乗り換える。今度は乱暴なトラック運転手に絡まれ、それが嫌で裏道に入ったが、道を間違えてステージカーで吊り橋を渡る事に……。と、ここまでがAパート。Bパートでも、様々な交通手段を使って、マミはコンサート会場に向かう(木所は途中で脱落。その代わりに俊夫が手助けする)。1アイデアで1エピソードを貫いているのもよかったし、スピード感ある展開もよかった。それから、魔法少女ものに限らず、こんなプロットのアニメを観た事がなかった。
 25話「波瀾! 歌謡祭の夜」(脚本/伊藤和典 絵コンテ/青木悠三 演出/安濃高志 作画監督/河内日出夫)、26話「バイバイ・ミラクル」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/望月智充 作画監督/後藤真砂子)がシリーズ前半のクライマックスだ。時期は年末。NPB歌謡祭を前にして、優は、俊夫が自分よりもマミが好きな事に悩んでいた。そして、歌謡祭の直前にマミに変身するところを、俊夫に見られてしまう。ピノピノにもらった魔法は、他人に知られると二度と使えなくなってしまうのだ。魔法を失ったマミだったが、「時のねむる森」に登場した美也をはじめとする仲間達に助けてもらい、なんとか歌謡祭の舞台を務める。
 歌謡祭の後、優に戻る事ができなくなったマミは、家に帰る事もできず、1人で街を彷徨う。作劇や演出で特別な事をしているわけではないけれど、しんみりとした感じが心地よかった。そんな彼女を俊夫が見つけ、2人は言葉を交わす。変身を見たのを後悔する俊夫に対して、マミは「これからは私、ずっと俊夫が大好きなマミでいられるのよ。俊夫は、その方がいいんじゃないかしら」と言う。2人のところに、報せを受けたピノピノが、フェザースターの舟でやってくる。ピノピノにもマミを元に戻す事はできなかったが、彼はその代わりに一度だけ俊夫の願いをきいてくれるという。変身を目撃した事で、優が持っていた魔法の力が、俊夫に吸収されていたのだ。俊夫が願ったのは、マミを優の姿に戻してもらう事だった。フェザースターの舟から降りた優が、俊夫に「本当に、あんなお願いでよかったの? もう私、もうマミになれないんだよ」と問うと、彼は「そんな事ないよ。あと何年かしたら……」と答える。優が成長したら、マミのような女性になるだろう。彼は、自分の恋人はお前でいいんだよ、と言っているわけだ。ここでひとまず大団円。「魔法少女もの」と「芸能界もの」がリンクし、「恋愛もの」としても綺麗に着地した。僕は、素直に物語を楽しんでいた。
 細かい話をすると「バイバイ・ミラクル」で、電話BOXにいたマミが、不良っぽいお兄さん達に「よお、彼女。1人?」と声をかけられる場面がある。そこで、マミは笑顔でゆっくりと彼らを振り向いて、いきなり凄い顔になって「べー」とあかんべーをする。前後がシリアスで、しっとりとした雰囲気だったために、このあかんべーがやたらと効いていた。これも望月智充らしいキャッチーな描写だった。

第164回へつづく

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(09.07.08)