アニメ様365日[小黒祐一郎]

第162回 エピソードで振り返る『クリィミーマミ』1

 今回から、印象的なエピソードを中心に『魔法の天使 クリィミーマミ』を振り返ってみたい。1話「フェザースターの舟」(脚本/伊藤和典 絵コンテ・演出/小林治 作画監督/河内日出夫)は、優がフェザースターの舟と出逢い、ピノピノから魔法を授かり、初めてクリィミーマミに変身するまで。
 1話前半で、優はローラースケートとローラースティックで街を軽快に走りまわる。彼女の活発なキャラクターと、ローラースティックという洒落たアイテムが新鮮だった。ローラースティックと、俊夫の自転車の追っかけが、なぜかパトカーやヘリまで巻き込んでしまうドタバタは、なにやらアニメ『うる星』チックだった。
 フェザースターの舟は競馬場の上空に現れるのだが、舟は半透明で背景が透けて見える。また、手前にヘリや鳥を飛ばす事で巨大感を表現。舟が近づくと競馬場の柵が地面から抜け宙に浮き、紙くずが舞ったりと異常現象が起きる。フェザースターの舟は、見える人と見えない人がいて、優には舟が見えるが俊夫には見えない。要するに描写がダイナミックであり、SF的なのだ。それは少女向けアニメとしては異色なものだった。1話を観て「ずいぶんと垢抜けた作品が始まった」と思ったが、どうして垢抜けた感じになっているのかはよく分からなかった。デザインのよさや、洒落た小道具、あるいはSFチックな描写のためだろうとは思ったが、それだけではないのだろうなとも感じていた。今観ると演出のトーンや、美術の力も大きい事が分かる。
 ピノピノによれば、どんな人間も生まれる前はフェザースターを知っていたのだという。人間が生まれる時に、フェザースターの使い魔が唇に指を当てて「誰にも教えちゃいけないよ」と言う。人間の唇の上にある窪みは、その時にできたものなのだそうだ。そういう練った設定も面白いと思った。それから1話に限った事ではないのだが、初期エピソードは、太田貴子の演技が強烈だった。声優経験がなかった彼女の芝居は素人っぽいというか、ほとんど素人そのものだった。当時の僕達は、アニメでは声優らしい声優の芝居ばかり聴いてきたので、なおさら強烈に感じた。しばらく経って「これが優の芝居なんだ」「これがマミの声なんだ」と思えるようになったが、慣れるまでは大変だった。
 2話で、優がパルテノンプロの立花慎悟にスカウトされ、クリィミーマミとして芸能活動を始める。その後、しばらく芸能界絡みのエピソードが続く。パルテノンプロ所属のアイドルである綾瀬めぐみは、立花に目をかけられているマミをライバル視し、小心者の木所マネージャーは、スケジュール管理がしづらいマミを相手に胃を痛める。立花は二枚目を気取っているが、ズッコケの多い人物であり、おそらくは『うる星』の面堂終太郎の影響下にあるキャラクターだ(ちなみに『クリィミーマミ』では面堂の妹の了子も、実名でチラリと登場)。彼の事を好きなのだが、なびいてもらえずにヒステリーを起こしたり、スネたりする綾瀬めぐみは、『うる星』の三宅しのぶを思わせるところのあるキャラクターで、演じているのも、しのぶと同じ島津冴子だ。めぐみの立花への平手打ちは、ルーティンギャグであり、本作の名物だった。前回、本作のキャラクターについて「リアルさとマンガ的なデフォルメのバランスが絶妙」と書いたけれど、中でも立花、めぐみ、木所のトリオは味があってよかった。
 8話「渚のミラクルデュエット」(脚本/金子修介 絵コンテ/水谷貴哉 演出/望月智充 作画監督/後藤真砂子)は、レギューキャラが海に行くエピソード。この話は、記憶に残る場面がいくつかあった。季節は夏。優の家はクレープ屋であり、母親のなつめは、店を休んで海にでも行きたいと言う。しかし、優にはマミとしてのスケジュールがぎっしりで、家族旅行なんて行けそうもない。それで、優は夏休みにどこにも出かけないでいい、家の手伝いをしたいと父親の哲夫に言う。それを聞いた哲夫は大喜び。しかし、パルテノンプロでは、立花がビーチでのジョイントコンサートの計画を立てており、コンサートで使うステージカーまで用意して、やる気満々だった。その仕事は2泊3日の泊まりがけになる。両親に海に連れて行ってもらえば、そのコンサートに出演できるが、夏休みはどこにも連れていってもらわなくていいと言ったばかりだ。いったいどうする?
 ここで優が選んだ方法が面白い。小さな子どものように泣いて「やだやだ、海に連れていってくれなきゃ嫌だ」とダダをこねたのだ。優はその場面の直前で「泣いて頼むなんてサイテー」だと言っており、それがみっともない事だと分かっている。優がやったのは、自分の要求を通すために、わざと子どもじみたマネをするという事であり、それをやった彼女はしたたかだ。女の子がそういったしたたかさを発揮するのは痛快とも思えるし、恥ずかしいと思いながら子どものような行いをしてしまうのは可愛い。前回に、優は「大人が考えたモラル」から外れていたと書いたが、このシーンもその例のひとつだ。
 哲夫となつめは、泣いてダダをこねる彼女に呆れ、哲夫は「泣くというのはな、暴力を振るうのと同じだ。お父さんはそういう子に育てた覚えはないよ」と諭す。自分の意見を通すために、泣いたりしてはいけないという事だ。優に甘い2人は、結局、ビーチでクレープを売るために海に行くという言い訳を用意して、優達を海に連れていく。その前に、一度は叱っているのがいい。ちゃんと物語に大人の目線が入っている。
 この話の後半では、マミを困らせようとしためぐみの計略で、皆の前で、マミと優がデュエットをする事になる。それがクライマックスだ。マミは魔法を使って、舞台のスモークにプロモーションビデオのマミを映し出す。彼女は優の姿に戻って、映像のマミとツーショットで歌う事で、そのピンチを切り抜ける。マミと優のデュエットは、視聴者にとって、シリーズ序盤には勿体ないくらいのサービスだった。他には、海に着くまでにパルテノンプロのステージカーと、優の両親の自動車のカーチェイスがある。劇場版『ルパン三世(マモー編)』と『ルパン三世 カリオストロの城』を意識したものと思われるが、画面構成も作画も頑張っており、なかなかの仕上がり。カーチェイスの最後に、カメラを360度回転させる演出がある(詳しく書くと、360度回転しながら逆方向にカメラを切り替えている)。そのアクロバティックなカメラワークが、カーチェイスを気持ちよくまとめていた。また、カーチェイスの途中で、優が、窓の外に見えた海に喜ぶ。その描写をカーチェイスの途中に挟んだ事で、海を見た事による爽快感が増している。このあたりも巧い。
 望月智充が真価を発揮するのは、もっと後になるだが、彼が演出した『クリィミーマミ』は、テクニック的に見るべきところがあるだけでなく、非常にキャッチーだった。「渚のミラクルデュエット」での彼の仕事は演出処理だが、あちこちに彼のよさが出ていた。
 10話「ハローキャサリン」(脚本/小西川博 絵コンテ・演出/安濃高志 作画監督/河内日出夫)は、優とマミが、本筋にほとんど絡まない話。主役を務めたのは、優のお目付役であるネガと、アメリカからやってきたキャサリンという少女だ。彼女は幼い頃に日本で暮らしており、大事な夢の小箱を自分が住んでいた家の庭に埋めていた。その小箱を覗くと、世界の色々な場所を見る事ができると彼女は言う。キャサリンとネガは、苦労して夢の小箱を見つけるが、それを開いても何も見えない。ネガは、かつてそこに見えていたものが、幼かった頃のキャサリンが頭の中で作りだしたものだった事に気づく。マミの魔法に手助けしてもらい、ネガは一度だけ小箱の夢を実現する。キャサリンの目の前で、いかにも妖精らしく、ポジと一緒に小箱の中に出現したのだ。ネガは言いたい事を彼女に伝える。キャサリンは小箱に頼ってしまって、自分で夢を見る事を忘れていた。もっと自由に夢を育てられるようになれば、小箱なんかなくても夢が見られるはずだ。
 キャサリンの小箱は魔法のアイテムではなかったわけだが、魔法の存在は、自分が夢を見る事をさまたげるものかもしれない。そういった事が語られているわけだ。魔法少女もので、あえてそういったテーマに触れているのがいい。初見時にそこまで理屈っぽく考えたわけではないが、印象に残った話ではあった。また、この話の脚本を担当した小西川博、演出の安濃高志は、スタジオぴえろの「魔女っ子シリーズ」第3弾である『魔法のスター マジカルエミ』で、それぞれシリーズ構成と監督を務めている。そして『マジカルエミ』はシリーズ終盤で、この話と同様のテーマを扱っている。

第163回へつづく

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(09.07.07)