アニメ様365日[小黒祐一郎]

第154回 『キン肉マン』続き

 今日は『キン肉マン』のふたつの話題について書いておきたい。まずは、アニメーターの田野雅祥についてだ。実は、彼の仕事について原稿が書けるのが、ちょっと嬉しい。今まで書く機会がなかったからだ。彼の仕事は、作画マニアの間でも、ほとんど話題になっていなかった。それは『キン肉マン』が、作画マニアにとって、守備範囲外のタイトルだったためだろう。
 昨日も触れたように『キン肉マン』は作画に関して大味だった。野暮ったいところがよかった。その中で、やたらとシャープで、凝った原画を描いているアニメーターがいた。それが新人原画マンの田野雅祥だった。彼が描いているところだけ、別作品だった。『キン肉マン』なのに、こってり影をつけており、中には二段影+BL影を入れたカットもあった。キャラクターもややリアル系で、超人達だけでなく、観客までリアル。彼の作画パートでは『聖戦士ダンバイン』にでも出てきそうな、ビーボォー調の二枚目が、客席に並んでいた。他の原画マンが「テレビまんが」を描いているのに、彼だけが「OVA」を描いている感じだった。シリアスな表情やアクションも格好よかったし、ギャグ的な動きも気持ちよかった。動きだけでなくカットの構成も凝っていた。例えば、付けPANを効果的に使って、モンゴルマンが振り返るカットをダイナミックな映像に仕上げた事があり、そういったところに惚れ惚れとした。『キン肉マン』で、そこまで凝った仕事をしているのも痛快だった。凝りすぎという意味では、明らかに凝りすぎなのだが、そのクオリティが、単なるアニメーターの暴走で終わる事なく、ドラマとリンクしているのもよかった。彼の作画パートで、正義超人が決めゼリフを言うところは、やたらと格好よかった。
 彼が『キン肉マン』に参加したのは89話B「危うし! キン肉マングレートの巻」。この89話Bが、彼の正式な原画デビューだったそうだ。それ以前に、原画マンとして名前を見た事がなかったのも当然だ。その後、彼は94話AB、99話AB、105話AB、111話AB、118話A、123話Bに参加。123話の後、所属していた作画スタジオから離れ、フリーとなり、『キン肉マン』への参加もそこまでとなってしまった。どうして僕がここまで詳しいのかと言うと、彼が『キン肉マン』から外れた頃(1986年)に、同人誌で取材しているのだ。どうやって、本人に連絡をとったのかは覚えていないが、ご自宅まで行って、お話をうかがった。その後、彼は『メガゾーン23 PARTII 秘密く・だ・さ・い』『忍者戦士 飛影』『マシンロボ クロノスの大逆襲』等に参加。アニメーターを引退されたのかと思っていたが、近年になって、またクレジットで名前を見るようになった。

 以下は、まるで別の話題。これも、同意してくれる人はあまりいないだろうが、一度書いておきたかった話だ。アニメ『キン肉マン』について、ずっと気になっている事がある。アニメ『タイガーマスク』との関連性についてだ。『キン肉マン』も『タイガーマスク』も、どちらも東映動画の作品で、異形のキャラクターが登場するプロレス物である。
 スタッフも重複している。『キン肉マン』のプロデューサーである田宮武は、『タイガーマスク』では演出。『キン肉マン』のキャラクター設計である森利夫も、TVシリーズに各話演出として参加し、劇場版第1作、第2作で監督を務めた白土武も、『タイガーマスク』では作画監督だった。「同じプロレスものだから」といった理由で、『タイガーマスク』に参加した経験のあるスタッフを揃えたのかもしれない。『キン肉マン』でたまに、大ジャンプをしたレスラーがリングに着地するアクションを、大胆にカメラを振って撮るカットがあったが、あれも『タイガーマスク』の有名なパターンを踏襲したものだろう。
 それから、原作だと出番が少なかったマリが、アニメ版ではキン肉スグルの恋人になっている(原作のヒロインであったビビンバは、TVシリーズ第1部には登場していない)。マリは幼稚園の先生で、どちらかといえば控え目なタイプの女性だった。ひょっとしたら、『タイガーマスク』のルリ子を意識して、マリをヒロインにしたのではないだろうか。ルリ子は、タイガーマスクこと伊達直人の幼馴染みであり、孤児院「ちびっ子ハウス」で子ども達の面倒をみていた。アニメ『キン肉マン』の前半で、マリが幼稚園の子ども達と一緒に、TV中継を見ながらキン肉マンを応援する場面があった。キン肉マンが敵にやられそうになって、マリが中継を見られなくなるというもので、『タイガーマスク』世代の僕には、その場面がちびっ子ハウスにしか見えなかった(しかも、その場面に出てきた園児のリーダー格の男の子の名前がケンジで、ケンちゃんと呼ばれていた。ちびっ子ハウスだと健太のポジションだ)。これが偶然なのか、誰かの意図なのか、ずっと気になっている。

第155回へつづく

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(09.06.25)