アニメ様365日[小黒祐一郎]

第115回 『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』

 1982年夏に公開された劇場作品『わが青春のアルカディア』の続編として作られたのが、『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』だ。放映されたのは1982年10月13日から1983年3月30日。『宇宙海賊キャプテンハーロック』に続き、ハーロックが主人公になった2本目のTVシリーズだ。この後、20年ほど、松本零士原作のTVアニメは作られていない。
 すでに松本零士アニメブームは下火になっていたし、僕自身も気持ちが退き始めていたが、ハーロックというキャラクターには思い入れがあったので、きちんと毎週観た。劇場版から引き続き、地球はイルミダス軍に支配されている。アルカディア号に物野正、有紀蛍、レミといった新しい仲間が乗り込み、ハーロックとトチローと共に旅を続ける。最終回を除けば大きな破綻も、ガッカリする事もなかったはずだが、「これ!」と思うような魅力もなかった。劇場版と同様に、本作のハーロックは、まだ若者だ。ストイックでもないし、性格も明るい。アウトローというわけでもない。『宇宙海賊キャプテンハーロック』の魅力であったロマン、ヒーロー性も『無限軌道SSX』では弱くなっていた。
 『無限軌道SSX』は全22話。当初の予定よりも、短いシリーズとして終わったと思われる。最終回で、アルカディア号は目指していた理想郷アルカディアに到着。ハーロック達は、そこで光の女神と出会って「聖ワルキューレの火」を授かる。それは人類の英知を越えた、超エネルギーであるようだ。同じ力を手に入れた地球人のゾーンは、全宇宙の支配をたくらんでいた。彼はまず地球に戻って「聖ワルキューレの火」を使ってイルミダス占領軍を蹴散らした。彼を追って地球に戻ったハーロックは、アルカディア号で、ゾーンの艦隊と対決する。
 と、ここまではいいのだが、その後の展開がとんでもない。地球でハーロックとゾーンの戦いが終わった頃、光の女神がイルミダスの本星を攻撃し、滅ぼしてしまう。イルミダス星の最後は、地球のイルミダス軍基地のモニターに映し出されており、ハーロックはその映像を観て、光の女神の声を聴くだけ。まるで関わっていない。主人公と関係ないところで、作品世界の中で、一番大きな敵が倒されてしまったのだ。急に最終回が決まって、短い時間でまとめなくてはいけなかったのかもしれないが、それにしてもあんまりな最終回だ。1話ではメーテルと思しきシルエットが登場しており、彼女も物語に絡むのかと思われたが、結局、メーテルは出ずじまいだった。そんな最終回だったが、当時は「ひどい!」とは思わなかった。「まあ、こんなものかな」と思った。最終回の頃には、それくらい気持ちが冷めていた。
 『無限軌道SSX』は、アニメファンの間でもあまり話題にならなかったが、皮肉にも、作画レベルは高かった。この作品では、小松原一男がチーフアニメーターとしてクレジットされている。この時期の東映動画作品は、総作監的なかたちで、各話のキャラクターをチェックする役職を立てており、『無限軌道SSX』もそうだったのだろう。全話のキャラクターの画が整っていた。作画の凸凹が激しかった『宇宙海賊キャプテンハーロック』の事を思えば、夢のようなシリーズだった。各話作監のメンバーも豪華だった。東映アクションアニメを代表する小松原一男、荒木伸吾という二大作画監督が並んでいるのが嬉しかった。荒木伸吾は5話「幽霊船セルの少女」で、演出の勝間田具治と組んで、東映動画伝統の「美少女刺客の悲劇」のエピソードを担当。昔からのファンを喜ばせた(余談だが、僕や友達のセルコレクターの間で、「セルの少女」というキャラクターの名前が話題になった)。シリーズ後半には、マッドハウス作品で活躍していた富沢和雄が作監を務めた回もあり、その濃い作画を楽しんだ。シリーズ途中から、作画チェックを目的にして観ていたような気がする。
 『無限軌道SSX』は『うる星やつら』の裏番組だった。僕は『うる星』をリアルタイムで観て、『無限軌道SSX』を録画していたはずだ。この2番組が裏表だったのは、象徴的だと思う。松本零士アニメブームが急速に終焉を迎えた理由については、いくつかの説がある。『宇宙戦艦ヤマト』が無理に続編を続け、劇場版『銀河鉄道999』までもが続きを作ってしまい、ファンを失望させたのも、その理由のひとつだ。「第66回 ぼくらの時代」でも書いたが、この頃、アニメ作品もファンも、より楽しい方向、気持ちいい方向に流れていた。ちょっと享楽的になっていた。そういった傾向と、当時の松本アニメは相容れないものだった。分かりやすく言うと、隣のチャンネルで、ビキニ姿の女の子がフワフワと宙に浮かんで「ダーリン、だめだっちゃ」とか言っているのに、マジメな顔して「共に戦おう。自由の旗の元に!」と言われても、ちょっとノレない。振り返って整理してみると、当時の僕は、そして同年輩のアニメファンも、そんな気分だったのだろう。

第116回へつづく

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(09.04.27)