アニメ様365日[小黒祐一郎]

第89回 『東海道 四谷怪談』

 今回取り上げる『東海道 四谷怪談』は、講談とアニメを合体させたアニメ講談。演芸番組「花王名人劇場」枠内でオンエアされた、変わり種の作品だ。放映は1980年8月16日。同枠では、その前の4月12日に、漫才師が登場する実写パートと『じゃりン子チエ』のキャラクターが登場するアニメパートで構成された『アニメDEマンザイ じゃりン子チエ』が放映されている。これは劇場版『じゃりン子チエ』公開に合わせて作られた番組だった。アニメの新作パートもあり、実写の西川のりおと、アニメキャラのテツが一緒に登場する場面が見どころだったと記憶している。
 『東海道四谷怪談』のDVD解説書に、「花王名人劇場」を手がけた澤田隆治プロデューサーのコメントが掲載されている。これを読むと、そもそもテツの声に西川のりおを推したのは、澤田プロデューサーであり、その関係で『アニメDEマンザイ じゃりン子チエ』が作られたという事が分かる。東京ムービー新社と縁ができた澤田プロデューサーは、次に講談とアニメを絡めた企画『東海道 四谷怪談』を発案した。
 この作品は一龍斎貞水の講談に、アニメの映像をつけたものだ。最初から最後までアニメで構成されているわけではなく、語っている一龍斎貞水の映像も使われている。演出は鈴木一、作画監督は丹内司、作画はテレコム・アニメーションフィルム。鈴木一は、大塚康生のペンネームであり、これは彼の数少ない演出作品だ。アニメーションらしい派手な見せ場はあまりないのだが、丁寧に作られている。大塚康生がかなり手を入れているのだろう。芝居が抜群にいい。大塚流の芝居、当時のテレコムの作画のよさを楽しめる1本だ。日常芝居ではないが、お岩と宅悦の死体がはりつけられた戸板がひっくり変えるアクションも、作画の見せ場だった。これは初見時にも感心したのだろうと思う。毒を盛られるお岩の、儚げな感じも印象的だ。
 この作品に関しては、ちょっとした思い出がある。オンエア前に、試写会があったのだ。当時、東京ムービー新社作品のセル画を販売するアニメハウスというショップが麹町にあり、僕はよくそこに通っていた。アニメハウスに、試写会の告知が張り出されており、それを見て試写会に行ったのだ。こぢんまりとした催しで、希望者は誰でも観られるようなかたちだったと思う。以下は、完全記憶モードになる。なるべく間違った事は書かないように気をつけるが、もしも間違っていたら申し訳ない。確か、試写会はTV局関連の施設で行われた。ずっと日本テレビ関連の試写室で観たと思っていたのだが、よく考えたら、フジテレビ系の番組である「花王名人劇場」の試写を、日本テレビの試写室でやるわけがない。その試写には一龍斎貞水が出演した。会場に行くまで、アニメの映像を上映しながら、生で講談をやるのだろうと思っていたのだが、そうではなかった。まず、アニメと関係なく、一龍斎貞水が講談を一席やり、その後で、アニメ講談『東海道 四谷怪談』が上映された。上映されたのは、完成品と同じ、講談とアニメが編集されたものだったと記憶している。
 先にやった講談の題目は覚えていないが、「四谷怪談」以外の怪談ものだった。これが面白くて、なおかつ怖かった。それだけでお腹一杯になってしまったくらいだ。その後で上映されたアニメ講談『東海道 四谷怪談』も楽しめたけれど、怖さに関しては、生の講談には到底及ばなかった。話のセレクトのせいかもしれないが、別の理由もあるはずだ。語りだけで表現される講談は、観客が想像しながら話を追う。つまり、話に入り込んで聞くわけで、そのために怖さが増すのだろう。また、同じアニメでも、もっと観客に想像させる作り方があるはずだ。物の形を立体的に捉え、きっちりと動かしていく大塚康生のアニメートは、あるいは彼らの地に足がついた映像作りは、観客に多くを想像させる作り方とは、逆方向のものだったのかもしれない。アニメとしてのクオリティの高さと、怖さはまるで別のものだったのだ。

第90回へつづく

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(09.03.19)