アニメ様365日[小黒祐一郎]

第86回 マッドハウスの2度目の黄金期

 今回は「第80回 『ユニコ』」で少し触れた、マッドハウスの2度目の黄金期について書きたい。マッドハウスは、元々は、虫プロダクションの『あしたのジョー』チームが独立し、設立したスタジオだ。1970年代には、出崎統・杉野昭夫コンビがクリエイティブの中心になり、『エースをねらえ!』『家なき子』『宝島』等の傑作を残した。それが最初の黄金期だ。1980年10月にTV版『あしたのジョー2』が始まるが、その放映中に出崎・杉野コンビが独立して、あんなぷるを設立する。
 出崎・杉野コンビがいなくなった後のマッドハウスが面白い。まず、手がける作品が、劇場作品ばかりになった。東映動画の『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』の各話など、多少はTVシリーズにも参加しているのだが、この時期のマッドハウスの仕事は、9割以上が劇場作品であるはずだ。監督はりんたろう、平田敏夫、真崎守が主力。いずれも虫プロダクション出身のクリエイターだ。また、村野守美は、監督作品は『ユニコ 魔法の島へ』だけだが、設定協力やキャラクターデザインの役職で、他の作品に参加。『妖獣都市』で監督として独り立ちする川尻善昭は、この後、マッドハウスの主力監督となっていく。彼らも虫プロの出身だ。

 この時期のマッドハウスの主なタイトルを並べると、以下のようになる。

1981年 『ユニコ』(監督/平田敏夫)※制作は1979年と思われる
『夏への扉』(監督/真崎守)
1982年 『浮浪雲』(監督/真崎守)
1983年 『幻魔大戦』(監督/りんたろう)
『ユニコ 魔法の島へ』(監督/村野守美)
『はだしのゲン』(監督/真崎守)
1984年 『SF新世紀 レンズマン』(監督/川尻善昭、広川和之)
1985年 『カムイの剣』(監督/りんたろう)
『ボビーに首ったけ』(監督/平田敏夫)
1986年 『火の鳥』(監督/りんたろう)
『時空の旅人』(監督/真崎守)
1987年 『グリム童話 金の鳥』(監督/平田敏夫)※制作は1984年と思われる
『妖獣都市』(監督/川尻善昭)
『Manie-Manie 迷宮物語』(監督/りんたろう、大友克洋、川尻善昭)
『はだしのゲン2』(監督/平田敏夫)

 この1981年から1987年がマッドハウスの2度目の黄金期になる。ここで僕が勝手に「黄金期だ」なんて言い切ってしまっていいかのとも思うが、断言してしまおう。上記の作品は、いずれも映像に新しさがあり、それが魅力となっていた。反戦的な内容を含んだ『はだしのゲン』でさえ、映像的な面白さを狙ったところがあった。この時期の作品はクオリティも高いのだが、それと同時に、作り手が面白がってアニメを作っている感じが素晴らしい。趣味性が強いフィルムなのだ。アニメ狂の集まりという意味で、マッドハウスと社名をつけただけの事はある。ただ、以上のタイトルの中で、2時間を越える大作である『幻魔大戦』『カムイの剣』は、別格だと思っている。この2本も、映像的な面白さは充分にあるのだが、そういった趣味性よりも、むしろ、大作としての迫力、ドシっと腹にくるような重さが、作品の印象を決定づけていた。
 アニメ史的に言うと、虫プロダクションで育ったアーティスティックなアニメ作りが、時を経て、ここに結実したというかたちになる。注目したいのは、スタッフ選びの巧さだ。一番面白いのが、真崎守監督の『夏への扉』や『浮浪雲』、村野守美監督の『ユニコ 魔法の島へ』に、画面設定として川尻善昭を配した事だ。この場合の画面設定とは、1人で映画1本分のレイアウトとラフ原画を描いてしまう仕事であり、川尻善昭はビジュアル・演出の両面で、作品の底上げをしていたようだ。また『浮浪雲』では竜馬暗殺シーンのみを村野守美が、『グリム童話 金の鳥』ではミュージカルシーンのみを南家こうじが担当。『幻魔大戦』でキャラクターデザインを大友克洋に、『ボビーに首ったけ』でキャラクターデザインを吉田秋生に依頼したセンスも凄い。それらの采配の多くが、設定やプロデューサーの役職でクレジットされている丸山正雄によるものであるはずだ。
 勿論、1980年代に、それらの作品について、「虫プロのアーティスティックなアニメの集大成」とか、「スタッフワークが巧みだ」と思っていたわけではない。月日が経った今、振り返ったからこそ、書ける事だ。当時は、ただ「マッドハウスは凄い。一味違うぜ!」と思っていた。

第87回へつづく

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(09.03.16)