アニメ様365日[小黒祐一郎]

第3回 「TVアニメの世界」

 大袈裟な言い方になるけれど、「月刊マンガ少年」の臨時増刊「TVアニメの世界」は、僕が今までの生涯で一番大きな影響を受けた本だ。中学生だった僕は、この本をボロボロになるまで読んだ。発売されたのは1977年末。「マンガ少年」本誌を見ると、10月下旬に発売されたようだ。本誌のアニメ記事が好評で、それを受けて発売された特集号だ。
 内容は『宇宙戦艦ヤマト』『科学忍者隊ガッチャマン』のフィルムストーリー、『サイボーグ009[第1作]』『レインボー戦隊ロピン』の脚本採録、読者が選んだTVアニメベスト10、TVアニメ14年の歴史を振り返る記事といったところがメイン。他にはアニメーター志望の青年を主人公にしたマンガ(原作/石津嵐、絵/すがやみつる)、スタジオ訪問、アフレコスタジオ訪問、声優座談会、TVアニメ小辞典、TV放送アニメ全リスト等。辻真先は巻頭言と「原作とTVアニメの関係によせて」という読み物を執筆。「ヤマトの続編はこう作りたい」というタイトルの西崎義展プロデューサーへのミニインタビュー、吉田竜夫の追悼記事もあり。『サイボーグ009』なんて脚本採録の後に、全26話分のストーリーを紹介。今の目で見ても、相当な情報量が詰め込まれている。
 これは後になって気づいた事だけど、情報量が多いだけでなく、ちゃんと分かっている人が作っている点が素晴らしい。読者が選んだTVアニメベスト10は「マンガ少年」本誌で募集した人気投票の結果を記事としてまとめたもの。ちなみにその人気投票の応募総数は3万2千391通だそうだ。面白いのは受賞した10作品について、作品紹介ではなく、各作品のスタッフコメントを掲載している点だ。コメントをしているスタッフが、1位の『宇宙戦艦ヤマト』なら石黒昇、2位の『サイボーグ009』なら芹川有吾、3位の『海のトリトン』なら羽根章悦といったメンバー。人選がしっかりしているし、それぞれのコメントがたっぷりしているのがいい。10位の『バビル2世』では田宮武がコメントしているのだけど、その内容が一緒に仕事をした荒木伸吾へのラブコールという面白さ。
 さらに巻末には、日本初のアニメ雑誌「季刊ファントーシュ」の復刊準備号全12ページを、雑誌中雑誌のかたちで掲載。この本が発売された頃、「ファントーシュ」は休刊中だったのだ。内容は松本零士がアニメーションへの想いを語るインタビュー記事、大塚康生へのインタビュー、富山敬、広川太一郎のミニエッセイ等。そのパートも含めて「TVアニメの世界」は、実に濃厚な1冊だった。
 念のために言っておくと、この本が発行されたのは「アニメージュ」創刊の前年だ。「マンガ少年」の記事でアニメに興味を持ち始めていた僕に、さらに一押しをしたのが「TVアニメの世界」だった。アニメが豊かな魅力を持ったものだと教えてくれた本だ。

第4回へつづく

(08.11.06)