アニメ音楽丸かじり(27)
劇場『ハルヒ』のサントラが早くも登場!

和田 穣

 1月23日に公開された『劇場版 Fate/stay night Unlimited Blade Works』『Magical Girl Lirycal NANOHA The Movie 1st』に続いて、いよいよ6日から『涼宮ハルヒの消失』の公開が始まった。シネマサンシャイン池袋の初回上映では500人が列を作ったそうで、なかなか好調な滑り出しと言えそうだ。『なのは』『ハルヒ』それぞれ複数回の鑑賞でフィルムの断片をプレゼントするプレゼント企画をやっており、熱心なファンが何度も足を運ぶことを期待しているのだろう。
 個人的にはこれらの3作品はいずれも好きなので、劇場作品が観られるというのは喜ぶべきことなのだが、マスではなくニッチを狙った劇場作品のあり方というものについては、色々と考えさせられるところがある。実写においても似たような現象があって、近年では人気ドラマの映画化が目立つのはご存じのとおりだ。
 もし今後、こういったファンムービーが興行で大きなウェイトを占めるとしたら、ふらっと劇場に立ち寄るようなライト層は「観たい作品がない!」ということになるのではないか。それは長期的に見ると映画界全体のプレゼンスを損なうのではないか、そういった懸念がぬぐい去れずにいる。

 さてその『涼宮ハルヒの消失』のサウンドトラックが早くも1月27日にリリースされた。神前暁にとってこれが初のサントラCDというのが実に意外である。これまで『ハルヒ』をはじめ『らき☆すた』『かんなぎ』『化物語』などの人気作品を手がけてきた彼だが、なぜかいずれもサントラは発売されずじまい(『化物語』のサントラが一向に出る気配がないのは実に残念だ)。
 CDは2枚組の構成となっており、1枚目はオリジナル楽曲、2枚目は予告編でもフィーチャーしていたサティの「ジムノペディ」「グノシエンヌ」などを収録している。あのハイテンションな『ハルヒ』と、癒し系音楽としてよく用いられるサティの曲とはミスマッチではないかと思っていたが、こと『消失』に関してはヒロイン的な位置づけの長門有希を中心に、リリカルな場面や切ないシーンも多い。そのあたりを見越しての採用ではないかと感じた。
 劇伴の演奏を担当したのはエミネンス交響楽団。彼らについては、昨年12月にこの連載で楽団代表の由良さんにインタビューしているので、そちらを参考にしてほしい。ちなみに彼は昨年4月に行われた「涼宮ハルヒの弦奏」にもヴァイオリニストとして参加している。
 今回特筆すべきは神前暁の他に複数名の作曲家が起用されていること。それぞれ4曲、7曲を担当した高田龍一と帆足圭吾は、いずれも神前と同じく有限会社モナカに所属する作曲家だ。それから編曲は多田彰文、松尾早人、浜口史郎というイマジン(ご存じ田中公平が所属する事務所)の作家が主に担当する。松尾、浜口は「涼宮ハルヒの弦奏」においても編曲を手がけており、エミネンスの起用も併せて、今回の劇場サントラは「弦奏」の延長線上にあるものと位置づけることができる。

『涼宮ハルヒの消失』OST(音楽・神前暁ほか)

LACA-9178〜9179/3,300円/ランティス
発売中
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 ちなみにその「涼宮ハルヒの弦奏」のDVD版リリースが決定した。発売予定は2月26日で収録時間は110分。メイキング映像が収録されるほか、コンサート会場のみで販売されたプログラムの縮刷版も封入されるそうだ。

「涼宮ハルヒの弦奏」(DVD)

KABA-1610/6,090円/角川書店
2月26日発売予定
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 次に紹介するのは、最近買ったサントラの中でも大いに気に入って何度も聴いている1枚。1月6日に発売された『FAIRY TAIL』のサントラVOL.1である。ご存じ『RAVE』の真島ヒロ原作で、昨年10月からテレビ東京系列にてアニメが放映されている作品だ。
 音楽を担当する高梨康治は、格闘技PRIDEのテーマ曲で知られる作曲家。アニメでも『NARUTO』『地獄少女』『瀬戸の花嫁』『フレッシュプリキュア!』など多くの作品を手がけている。また『怪』『モノノ怪』では和楽器にロックやヒップホップの要素を融合させ、独特の音楽を作り上げた人物だ。
 『FAIRY TAIL』の音楽は「ケルト音楽+ヘヴィメタル」という異色のスタイル。ヴァイオリン(フィドル)、バグパイプなどがユニゾンでメロディを奏でるアップテンポの舞曲が中心だ。ケルト特有の早いパッセージに、ヘヴィメタルの分厚い音響とスピード感が加わり、高揚感とカタルシスは抜群。PRIDEのテーマ曲や『NARUTO』『プリキュア』のバトルシーンのような高梨康治お得意の熱血サウンドに加えて、『モノノ怪』で見せた民俗音楽のエッセンスが見事に融合しているのだ。
 サントラの楽曲構成には、アニメ本編のストーリーラインに準拠したタイプと、楽曲そのものの流れを優先するタイプの2種類があると思うが、本作は典型的な後者のパターン。CDの序盤と終盤にアップテンポで盛り上がる曲を配し、音楽単体で楽しめるような作りになっている。OP・EDが収録されていないのも、このような意図に沿ってのことだろう。
 「VOL.1」と銘打ちながら、これまで本編の中で印象的に使われてきた「メインテーマ」「エルザのテーマ」「最後の魔法」など重要な楽曲を惜しみなく収録しており、果たして第2弾が作れるのか心配になるほど。個人的には早くも2010年のサントラベスト3には入りそうな予感のあるアルバム。作品のファンは勿論、ロック好きの方にもおすすめできる入魂の1枚だ。

『FAIRY TAIL』OST1(音楽・高梨康治)

PCCG-1016/3,150円/ポニーキャニオン
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 続いてはコロムビアから2月10日に発売予定の「とびだす!3D東映アニメまつり」OSTをご紹介。タイトルにもなっている昨年10月公開の「とびだす!3D東映アニメまつり」の音楽を皮切りに、過去の「東映まんがまつり」時代のトラックも豊富に収録したCD2枚組の内容だ。
 各ディスクは2部構成を謳っており、DISC-1の第1部はその「とびだす!3D」から新作3Dアニメの『きかんしゃやえもん』のBGMがメイン。そして第2部は「コロムビア原盤で聴く「東映まんがまつり」うたの歩み Part1」と題した注目のパートだ。
 『ちびっこレミと名犬カピ』から「レミのうた」、『どうぶつ宝島』主題歌の「ちっちゃい船だって」、『ながぐつ三銃士』主題歌、そして2月26日にDVDが発売される『魔犬ライナー0011変身せよ!』から主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」など、1970年代前半の作品からレアな歌ものをずらりと揃えている。大山のぶ代が歌った「雲がおしえてくれる道」(『アリババと40匹の盗賊』より)や、水木一郎が歌った「きかんしゃやえもん」(1974年版の『きかんしゃやえもんD51の大冒険』より)なども貴重なトラックだ。
 DISC-2に収録されている第3部は、1970年代後半から制作が始まった「世界名作童話」シリーズの主題歌などが中心。もちろんこれらの中にも現在では入手困難のものが含まれており、当時の作品のファンか東映マニアならば押さえておきたいところだ。
 最後の第4部は「『東映まんがまつり』拾遺集:昭和40年代レアトラックス」と題されたマニアックなトラック集。『長靴をはいた猫』から「カラバ様万歳!」「はなれられない友だちさ」「幸せはどこに」、そして『空飛ぶゆうれい船』から「ボワジュースのうた」が、『海底3万マイル』から「大騒ぎのタンゴ」など、印象的な挿入歌をいくつか収録している。
 さすがに1996年の10枚組「アニメ主題歌メモリアル」(現在入手困難)の網羅性にこそ及ばないが、『まんがまつり』時代の歌ものについてある程度まとめて入手ができる上に、値段も3150円と手頃なのが嬉しい。

「とびだす!3D東映アニメまつり」OST

COCX-35989〜35990/3,150円/コロムビアミュージックエンタテインメント
2月10日発売予定
[Amazon]

(価格はすべて税込)

(10.02.09)