web animation magazine WEBアニメスタイル

 
アニメの作画を語ろう
animator interview
橋本晋治(3)


小黒 ええ!?(笑)。大平さんの方は、やりたい事はやったみたいなニュアンスで、まあちょっと心残りはあったかもしれないけど。
橋本 かなりあったと思いますよ。
小黒 大平さんがお帰りになったのはプライベートな理由等もあったと思うんですが、橋本さんはなぜ?
橋本 僕は、なんだか気が抜けたから。とりあえず、帰ろうって。
小黒 気が抜けた理由は、今言われたように、大平さんが帰ったからですか。
橋本 ええ。やっぱりずっと一緒にやってきた人が、帰っちゃったから。
小黒 田舎に帰られていたので、橋本さんの作品リストで1995年が空いているんですね。
橋本 そうですね。1年ぐらい、アニメーションから離れましたかね。
小黒 その間、まったくアニメはやってない?
橋本 ええ、実家の仕事をやっていました。
小黒 実家のお仕事は、画は関係ないんですか。
橋本 関係ないです。左官屋さんです。
小黒 東京に戻ってきたきっかけは、なんだったんですか。
橋本 東京に戻ってきたのは、『SPRIGGAN』です。その前の『天地(TENCHIMUYO in LOVE)』や『(地獄堂)霊界通信』『X』は京都でやったんですよ。
小黒 そうなんですか。
橋本 『X』が終わって、『SPRIGGAN』と『PERFECT BLUE』(の仕事)をもらって、京都で平行して進めて『PERFECT BLUE』は終わらせたのかな。『PERFECT BLUE』が先に終わって、『SPRIGGAN』のあがりが全然出なくなったんですよ。
小黒 原画があがらなくなったんですか。
橋本 ええ。2ヶ月に1カットとか、そんな状態になっちゃって。それで(田中)栄子さんが「ちょっと来なさい」って。『SPRIGGAN』の途中で4℃に呼ばれて。4℃のCGIの安藤(裕章)さんという人の部屋に居候させてもらって。4℃で『SPRIGGAN』をやったんです。
小黒 その後、東京の方に。
橋本 『SPRIGGAN』が終わったら、帰るつもりでいたんですけど。『SPRIGGAN』が終わる頃かな。田辺さんが『(ホーホケキョ)となりの山田くん』に誘ってきてくれて、『山田くん』をやるなら、やっぱりジブリに入らなきゃと思って。そのまま東京に居続けてしまってます。
小黒 特に東京に戻った理由はなかったんですね。しばらく時間をおいてから『PERFECT BLUE』等をやられて、久々に燃えたとか、そういう事は。
橋本 『天地』から『SPRIGGAN』までの頃、そういう事がありましたね。久しぶりだったから、凄く楽しかったですね。
小黒 『PERFECT BLUE』で担当されたのは、村野殺害シーンですね。手応えはいかがでしたか。
橋本 初めて劇場作品でいいシーンもらったと思いましたね。力を入れてやりました。
小黒 『天地』は、修学旅行中に魎呼がお寺で戦うところですよね。あのシーンは丸々やられているんですか。
橋本 そうですね。
小黒 魎呼がお寺に走っていくところから?
橋本 走っていくところは違いますね。後ろから、こうやるところ(背中に手刀をあてるポーズをとる)から。
小黒 途中に挿入される、設定的な説明シーンのカットは描いていないんですね。
橋本 そうですね。
小黒 敵が跳んで、回転して着地とか、ダイナミックでよかったですよ。あれも自分でアクションやってみたりしているんですか。
橋本 あんなアクションはできないです……。
小黒 それはそうですよね(笑)。でも、寺の屋根に着地した時にストンと立たないで、揺らぐじゃないですか。あれなんかもかなりリアルだし。
橋本 そうでしたっけ(笑)。アクションは自分ではできないので、体操のビデオとかを見て描きました。
小黒 地方で原画を描く時って、どうやっているんですか。作打ちの時だけ東京に来るんですか。
橋本 作打ちで上京したのは『SPRIGGAN』だけじゃないかな。他は、電話で打ち合わせをして。
小黒 コンテを送ってもらって、あがりは宅急便ですか。
橋本 宅急便です。
小黒 それでなんとかなるんですか。
橋本 ええ、大丈夫みたい……。
小黒 地方でやるメリットはありましたか。
橋本 メリット……どうだろう。勿論、人にもよりますけど、僕は周りが気にならないのが、よかったかもしれないですね。刺激がないと言えばそうなんだけど、余計な影響を受けないし。他の人のを見てしまうと、やっぱり意識したりという事があるから。1人でやってると真っ直ぐ進んで行ける感じがしました。
小黒 『SPRIGGAN』で担当したのは、どこからどこまでなんですか。最後は、主人公がカメラに向かって青龍刀を投げるところまでですよね(編注:『SPRIGGAN』では前半の見せ場、トルコでの追っかけのアクションを担当)。
橋本 そうですね。
小黒 最初はどこですか?
橋本 (主人公が乗っていた)車がひっくり返って、商店街みたいなところに入ったところからかな。中間にちょっと違う人が作画した部分が入ってるんですけど。
小黒 あ、やっぱり。違う人っていうのは、お手伝いで入ったんですか。それとも最初っからそういう振り分けだったんですか。
橋本 最初に担当するはずだったのは、後の部分だけだったんですよ。それがとりあえず終わったので前の部分をやる事に。
小黒 なるほど。最初の担当分が終わった後に、別のパートをとったんですね。
橋本 ええ、そうです。珍しく。
小黒 『SPRIGGAN』の制作期間は相当長かったんですね。
橋本 長かったですね。僕で2年ぐらいやってましたからね。
小黒 あがりが出てこなくなったのは、先にやった部分なんですか、後からやった部分でなんですか。
橋本 先にやった方です。4℃に入ってから、ちょっとペースがよくなって、とりあえず終わらせられました。
小黒 『SPRIGGAN』も当然、自分で演技とかできないじゃないですか。場所的にも屋根の上とかで、リアルにイメージするのは大変ですよね。こういう時は、どういう風に描いてるんですか。
橋本 うーん、実写の映画とかを観て、雰囲気をつかんだり。
小黒 アクションものとかですか。
橋本 ジャッキー・チェンのものとか「ダイ・ハード」とかから、イメージだけをもらって。ただ、『SPRIGGAN』で、「ダイ・ハード」とまるまる同じになっているカットもありますけどね。
小黒 そうなんですか。そういう風に映画等を参考にする場合は、コマ送りをするんですか。
橋本 コマ送りしてますよ。
小黒 止めて1コマ1コマ、描き写していくわけじゃないんですよね。
橋本 描きますよ。
小黒 1コマずつ描くんですか。
橋本 1コマずつじゃないですけど。
小黒 ポイントの画を描くわけですね。
橋本 ええ。
小黒 いわゆるロトスコープではないんですね。
橋本 ロトスコープとは言えないですかね。そこまで正確ではないし、ある程度は味もつけるし。
小黒 東京に戻られてからの仕事に『課長王子』のオープニングがありますね。これも今までの仕事と傾向が違って。え、これも橋本さんなの、と思うような。
橋本 え、そうですか。
小黒 ええ。お洒落なフィルムだと思うんですけど。
橋本 とにかくスケジュールがなかったんです。それで本編と関係なく好きにやってくれたらいいという事で、やったんですが、意味不明なものになってしまいました。
小黒 あれはコンサート風景なんですよね。ライブ映像?
橋本 ライブ映像のような。
小黒 イメージフィルムのような。
橋本 ええ。そんな感じですか。
小黒 具体的には、どんなものにインスパイアされて、ああいう映像をお作りになったんですか。
橋本 一番の軸になったは、TVでやってた「Fashion tsushin」かもしれないですね。
小黒 ええ、そうなんですか。もっと底が深そうな気がするんですけど(笑)。
橋本 いや、全然。あれはかるーく(笑)。
小黒 ああいうカッコイイ系の仕事を、やりたいという気持ちもあったんですか。
橋本 基本的には、カッコいいのがやりたいんですけどね。
小黒 なるほど。
橋本 例えば『あしたのジョー』みたいな。
小黒 『あしたのジョー』とはずいぶん違うと思うんですけど(笑)。
橋本 ふふふ(笑)。目標は杉野さんなんです……。でも、難しくって……。
小黒 最近の印象的な仕事としては『山田くん』もありますね。いかがでしたか、『山田くん』の手応えは。
橋本 画的には、物足りない部分もあったんですけど、内容的には一番やりがいのある仕事ですかね。
小黒 おやりになったのは、酔っぱらったお父さんがバナナを食べる話と、お父さんが寝坊して走っていく話ですよね。
橋本 ええ、そうです。カッコよければいいとか、そんなんじゃないですからね。
小黒 芝居そのものを描くわけですね。
橋本 ええ。
小黒 しかもカットが長い!(笑)
橋本 長い(笑)。画があれじゃなかったら、えらい大変でしょうね。
小黒 ああ、そうか。あのキャラだから、芝居だけを延々と描いていられる。
橋本 だから芝居に集中して、できましたね。
小黒 バナナを食べる前に、皮を剥かないで、口に入れて。また剥くじゃないですか。ああいうのって、コンテにあるんですか。
橋本 ええ、勿論。内容的には、コンテ通りですよ。
小黒 酔っぱらったお父さんが、喋りながら、体がゆっくり揺れているのは、なぜですか。
橋本 コンテにはそう描いていなかったかもしれないけど、打ち合わせの時に、高畑さんが台詞を読みながら、そんな芝居をしてくれたんです。そのイメージで。……やっていて楽しかったですねえ。
小黒 その後だと、ご自身の中だと大きいお仕事って何になるんですか?
橋本 『山田くん』以降ですか。何があったんでしたっけ。
小黒 『青6(青の6号)』とか、『METROPOLIS』とか。
橋本 それと『くじらとり』。他は『ANIMATRIX』までないんですよね。
小黒 『METROPOLIS』で原画を描かれたのは、クライマックスのロックが振り向いてティマを撃つところですね。あの前後をおやりなんですか。
橋本 いや、違います。まとまってやったわけじゃないんです。最後の方に入ったので、空いてるところをやったんです。いや、一応まとめて取ったんだけど、全然終わらないから持っていかれた(カットを回収された)んだったのかな。『METROPOLIS』の事は、よく覚えてないですね。
小黒 ロックの原画は、当時仕事で見たんですけど、わりとカッコイイ系の原画でしたよね。
橋本 あれ、どうなんでしょうね。結構直されちゃったんでしょうかね。
小黒 修正は乗ってますけど、原画の感じが活かされていると思いますよ。
橋本 そうですか。じゃあ、原画がよくなかったんですね。フィルムになった時に、あまりよくなかったんで。
小黒 いえいえ。雪の階段のシーンは描いてます?
橋本 ヒゲオヤジを描きましたね。
小黒 ロックがティマに銃を向けて、その後にヒゲオヤジが撃たれるあたりとか描いてないですか。
橋本 そんな面白そうなところじゃないです。ヒゲオヤジがただ歩いてるだけとか。
小黒 最近のお仕事だと『Sci―Fi HARRY』がありますね。
橋本 あはは(笑)。
小黒 橋本さん的には、やっている事を公表してもいいんですよね。
橋本 ええ、問題ないですよ。
小黒 何カットぐらいお描きになってるんですか。
橋本 えーと、1つ半。とりあえず1カットやって、最後に残ったカットを彼(原田慎ノ介)と半分ずつ。
小黒 あれって、OPの演出、コンテ、作画監督をある方が原田さんという名前でやって、原画メンバーを原田組という名前でクレジットしているんですよね。
橋本 そうです。原画スタッフのほとんどが名前出せない人ばっかりだから。
小黒 他の仕事で拘束されている人ばかりだった、という事ですね。
橋本 そうなんですよ。それで原田組という名前にしたんだと思います。
小黒 どのカットを描いたか、覚えてます?
橋本 ええ。(主人公が)頭を抱えているところです。後ろに星が飛んでるカットです。
小黒 で、いよいよ『ANIMATRIX』の「KID’S STORY」ですけど。これはそもそもいつぐらいから参加なさってるんですか。
橋本 話がきたのは、2年半ぐらい前。実際に動き始めたのは、一昨年(2001年)の秋ぐらいだったかな。
小黒 原画はいつぐらいまでやってたんですか。
橋本 去年(2002年)の秋ぐらいまで。1年ぐらいですかね。

●「animator interview 橋本晋治(4)」へ続く

(04.01.22)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.