さて、「鳥・魚・犬」の中でいちばん特別な位置にあるのは「犬」なので、これは後回しにして、まず「魚」と「鳥」を見てみよう。
たとえば押井のスタート地点『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』。
この映画で「魚」というとまず、中盤に出てくる、水たまりの中を魚が身を躍らせてキラリと過ぎていくカットが印象的だ。それからやはり忘れるわけにいかないのが、ドラマの上でもポイントとなるラムの回想シーン。これが水族館を舞台として描かれているのだ。ただし、この場面では魚のイメージ以上に、透過光で水槽を描き、水槽の存在を前面に出した画面作りをしている。
「水族館」といえば、『機動警察パトレイバー2 the Movie』にも登場する。こちらでは、事件の鍵を握る荒川と後藤隊長が密会する場所として水族館が使われている。
「水族館」が映像的におもしろいのは、画面の中では「水槽」がモニターに似ているところ。「水槽」の平面的な表面に、魚が映し出されているように見えるのだ。どうやら押井作品の「魚」は「平面性」と近しい関係にあるようだ。
たとえば、そのままずばりモニターに映し出される魚。『GHOST IN THE SELL[攻殻機動隊]』の冒頭に出てくる部屋は、窓にあたる部分がモニターになっていて、そこでアロワナが泳いでいた。『INNOCENCE』に登場していた、アロワナが映し出されるボールも、この延長線上にあるといえる。
で、平面性と魚の組み合わせでいえば忘れてはいけないのが『天使のたまご』。街の路面や建物の壁面を、影だけになった魚が静かに泳いでいく名シーンがある。
では「鳥」はどうか。
「魚」と同様にまず『ビューティフル・ドリーマー』を見てみると、冒頭にカモメが登場して、そこから廃墟となった友引町の俯瞰が映し出される。鳥という空の主の存在を示した上で、俯瞰(というか鳥瞰)の画面をつくるというのは、一つのオーソドックスな演出手法ではある。
押井はこの鳥瞰をもうちょっと理念的な意味で使いたいようだ。
「鳥は結局アウトレンジするっていうか、物語と距離を取りたいときっていうのがあるんです。観ている人間をストーリーの外側から眺める視線みたいなものが欲しいときがあるんです。特に鳥は演出家とかデザイナーと同じで俯瞰する。そういう視点は自分の中に抜き難くあるみたいですね」
と、こんなふうにもコメントしている。こうした鳥の使い方は『機動警察パトレイバー[劇場版]』にも見ることができる。
一方、『天使のたまご』と『GHOST IN THE SELL[攻殻機動隊]』では、鳥のイメージは時に天使に接近し、逆に『御先祖様万々歳』ではむしろ世俗的で、毎話冒頭でギャグ混じりに紹介されるさまざまな鳥の習性が、各話で描かれる家族のドラマのポイントを指し示すという構成になっている。
これだけバリエーションがあると、各作品のその場面で、鳥がどういう狙いで投入されているか、その意図を考えながら見るとおもしろいかもしれない。