色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第33回 番外編 『金田一少年の事件簿SP』放送記念 ハジメちゃんの色の作り方

ご無沙汰しております(汗)。

『金田一少年の事件簿』等の追い込みの多忙から2週に渡って連載お休みさせていただきまして、さらに先週、なんと大風邪を引き半分死にかけておりました。いやはや……(汗)。

そもそもこの風邪、実は『墓場鬼太郎』のお祓いに行ってもらってきちゃったのですよ。で、ごく一部では『墓場風邪』とか呼ばれております(泣)。また、僕の周りの『金田一』の仕上スタッフにも次々うつっちゃって、で、ごく一部では『金田一風邪』とか呼ばれております(泣)。

ともあれ、今週で3週目に突入したこの風邪ですが、おかげさまでだいぶ終わりが見えて参りました。あ〜、一段落したらゆっくり温泉にでも行ってきたいなあ……と。

で、一段落? 一段落するのって何日? 幸か不幸か、来年4月まで仕事ビッシリの僕であります(号泣)。

さてさて。

約7年ぶりに帰ってきました『金田一少年の事件簿』。新作2タイトルを作りました。「オペラ座館 最後の殺人」と「吸血鬼伝説殺人事件」。今週と来週、2週に渡って放送です。まずは12日に「オペラ座館 最後の殺人」が放送されました。みなさん、見ていただけましたか。

「オペラ座館 最後の殺人」は、脚本:島田満、キャラクターデザイン&作画監督:竹田欣弘、美術監督:秋山健太郎、監督:伊藤尚往。

「吸血鬼伝説殺人事件」は、脚本:島田満、キャラクターデザイン&作画監督:真庭秀明、美術監督:渡辺佳人、監督:宇田鋼之介。

7年ぶりの金田一。

思えばこの『金田一少年の事件簿』、番組開始当初はまだセル+フィルムのアナログ制作でありました。それが第45話「黒死蝶殺人事件」ファイル2からいきなりデジタル制作へと転換。以降、毎エピソードごとに基本の色指定データを少しずつ修正していきながら乗り切ったのです。なので、僕にとって『金田一』は、デジタル彩色・デジタル色彩設計の貴重な修行をさせていただいた作品なのです。そんな『金田一』の新作です。燃えないハズがありません(笑)。

プロデューサーから僕への注文は「メインのキャラクターの印象を以前の『金田一』と大きく変えないこと」でした。長きに渡って放送され、今なお様々な局で再放送が続いている『金田一』。でき上がっているイメージはそのまま受け継がれなければなりません。

かつてのTVシリーズ制作の時には、荒木伸吾&姫野美智のお2人、そして窪秀巳さんがキャラクターデザインを全編通して担当されていましたが、今回はそれぞれの作画監督がキャラクターデザインを担当するということでした。

監督や作画監督がそれぞれ違うのはまあ普通なことですが、連続して放送されるひとつのシリーズで、それぞれキャラデが違うっていうのはなかなかないですね。しかも2週連続で放送されるワケで、その2本の間でも、当然大きく印象が違ってくるのは避けなければなりません。

で、その両方の作品の色彩設計をするにあたっていろいろ考えたのでした。

まず、旧作最後の方で使用した『金田一』の色指定で両方のハジメを彩色してみたところ、予想どおりなんだか別物になってしまいました。まあ、それはそうです。髪のハイライトの入り方、瞳の描き方、顔自体の輪郭のボリューム、作画が旧作と違うわけですから、当然フンイキも変わっちゃいます。なのでいろいろ微調整。それぞれのキャラデの作画に合わせて、バランスの再構築です。

髪のベースの色味に対してのハイライトの明るさ、瞳の作画に合わせての色味の濃さの足し引き。それらをハジメ、美雪、剣持警部の3人それぞれに施していきました。当然、「3人のバランス」を損なってはダメなので要注意です。その結果でき上がったのが、今回の3人です。ですので「オペラ座館〜」と「吸血鬼伝説〜」とでは、微妙にですが、3人ともベースの色指定が違っています。

次に、着ている服の色味。

原作のある作品の場合、基本は原作にある色をベースにしていくことが多いのですが、動かないマンガの画と、空間を動き回るアニメーションでは、やはり大きく違います。すべて同じというワケにはいかないことが多いです。キャラの重なりとか、存在感とか、美術背景とのバランスを考えて、アニメーション版としての色の組み合わせ、見せ方を考えます。

僕の中で美雪は、旧作以来「黄色+ピンクが基本」と決めていますので(笑)、だいたいいつもどおりのバランス、ボリューム感で2作品とも真っ先にできました。剣持は、「オペラ座館〜」では、「かつて2度も殺人事件があった場所へ乗り込む」という緊張感を出したくてビシッとダークスーツを着せました。これは原作本の表紙でもダークスーツでしたね。一方「吸血鬼伝説〜」の方では、わりとプライベートなラフさを出したくて、旧作でも何度も使った野暮ったい薄茶のジャケットにしました。Vネックのセーターもわりと剣持的定番です(笑)。

ハジメはいつも悩みます。一応主人公ですし(笑)、主人公らしい「押し出し」や「キャラ立ち」は必要ですが、ヒーローものの主人公ではないし、一応普通の高校生(苦笑)なので、地味かつワンポイント刺し色、というのが基本。なので今回も、他の登場人物たちの色をある程度固めてから考える、という具合でした。

ゲストキャラは、コスチューム自体原作に近いデザインで上がってましたので、基本、原作を参考にバランスとって色を置いていきました。「オペラ座館〜」のオーナーの響静歌や演出家の影島は思いっきりベタな感じで。湖月レオナのちょっとオレンジの髪の色は監督の伊藤くんの趣味です(笑)。「吸血鬼伝説〜」の方は、キャラの設定自体、原作と性別を変えたキャラもあって、その辺はオリジナル。僕的には猫間純子がお気に入り(笑)。

で、ハジメ。結果、「オペラ座館〜」では最終的に原作本表紙のライトグリーン基調の色に落ち着きました。「吸血鬼伝説〜」の方は、全編薄暗い廃墟ホテルの中ということもあって、謎解きをする客室のスタンド照明に映える色合いってことを念頭において、赤いパーカーに黄色のシャツという組み合わせに。

旧作シリーズでは、毎回数日に渡ってのお話が多かったのでキャラの服の着せ替えも多く、特にハジメなどは服の色味のネタに詰まると、当時自分がよく着てたシャツやジャケットの色をそのまんま使ったり(笑)、そういう点でもなかなか楽しみも多かったのですが、今回は2作品とも、ほぼ一晩のお話なので着せ替えがなくて残念(笑)。

さて、本編の設計の話。

今回は2作品とも定番の「外界と隔てられた建物の中の事件」です。しかもなんと両方とも「雨」の「夜」(笑)。なので、ほぼ全編屋内のカットになりました。

『金田一』の基本は会話劇なので、登場人物が一堂に会して会話を積んでいくシーン本編中の明るさの基準に置いて設計しました。「オペラ座館〜」では暖炉のある部屋、「吸血鬼伝説〜」ではラウンジでの色指定が基準です。ただし、これは仕上げの色指定的に言う「ノーマル」ではなくて、背景空間に合わせて多少明るさと色味をいじってあります。僕の場合、自然光の下の明るい場所での色味が基本の「ノーマル」色で、それが様々な空間に入った時、どう見えてどういう印象を与えるか、という考え方で色味の調整をしていきます。

たとえば、いわゆる「ノーマル」の色のキャラを白熱灯の照明の部屋の背景にポンと置いてしまうと、背景に対して白浮きしてしまい、どうにも馴染みません。ですので、今回もキャラクターの色指定に、そのシーンのその空間に合わせて明るさ、影の強さを調整した上に、その空間の光の色味を足してあります。オペラ座館の劇場の暗がりでは、背景の暗さの青を足して馴染ませてあります。

今回、特に「吸血鬼伝説〜」では、一歩もホテルから外へ出ないという重圧感と吸血鬼伝説の恐そうなフンイキを作るため、「オペラ座館〜」よりも全体に明るさを絞り込んだ色を目指してあります。

謎解きシーンもわりと明るめに設定しました。なんと言っても「謎解き」ですから、そのトリックのネタばらし、解説をするわけです。ですので、いろいろ見えやすいようにと考えます。ただし「吸血鬼伝説〜」では、ストーリーをくんで、こちらはちょい暗め。でも焦点がギュッと絞り込めたいい雰囲気に上がってます。

こんな感じで、ほぼ全編「色変え」の作品に仕上がってます(笑)。気がつけば、「ノーマル」の色指定使ったところって、「オペラ座館〜」も「吸血鬼伝説〜」もラスト数カットでしたね。

こうして設計したシーンの色設計に加えて、カットごとに演出の流れに乗せて、意図的に印象づけるために誇張したり、逆にわざと印象を消すように埋没させたり、というアレンジを施したりしていくのです。まずはフンイキを作り、そして意味を持たせる。特に『金田一』のような作品ではとっても重要で、なおかつ、色彩設計者、色指定者としてもとても楽しい作業なのですね。ちなみに今回、「オペラ座館〜」の色指定は秋元由紀さんにお願いし、「吸血鬼伝説〜」は僕が色指定も担当しました。

さらに加えて、今回は2作品とも太田直くん率いる東映アニメーション特殊効果班にがんばってもらいました。それぞれのキャラクターの瞳のグラデーションや、キャラクターの影に足されているグラデーションのブラシ影は、ほとんどが特殊効果班の手仕事です。普段、なかなかTV作品では凝った特殊効果を足せない東映作品ではありますが、日頃のうっぷんを晴らすかの勢いでがんばってくれました(笑)。

そんな感じで、ちょっと贅沢な感じでがんばった『金田一少年の事件簿SP』です(笑)。

先日、監督の伊藤くん、宇田くんと話して笑ったのですが、剣持警部ってたぶんいまの僕らくらいの実年齢なんだろうね、と。僕と伊藤くん、宇田くんとはほぼ同い年なんですね。で、思ったわけです。「ああ、俺らも『オッサン』なんだななあ」(笑)。そんな『オッサン』な僕らですが、またやりたいもんですね『金田一少年の事件簿』。

■第34回へ続く

(07.11.13)