色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第7回 きっと『宇宙戦艦ヤマト』が始まりだったんですよ

仕事柄、我が家にはVHSのビデオテープがヤマになっていました。TVからのいろんな番組の録画、仕事の資料映像、果ては作品の白箱(完成した映像をスタッフ用にVHSテープにダビングしたもの)まで。みんな必要なものなんですが、場所ばかり取ってジャマで仕方なかったのです。近年DVDレコーダーなるモノが巷に登場し、我が家もしっかりご購入。で、一気にVHSテープ群をDVDに。見事に一掃することができました。

先日、実家に帰った時、自室の棚を見上げること十数分。そこには夥しい数のテープの山。VHSに加え8ミリビデオにβのテープ(笑)。しかもみんな簡単には捨てられない宝の山! う〜む……。まだまだ先は長いですなぁ(苦笑)。

さてさて。

今回は合作話はちょっと休憩。さらに昔のお話を。

先だって発売されたプラモデル「1/350宇宙戦艦ヤマト」を買っちゃってから、また火がついちゃいましてね『宇宙戦艦ヤマト』に(笑)。衝動的に最初のTVシリーズのDVDボックスとか買っちゃって(いや、レーザーディスクでは持ってたんですがね)、ここのところ見まくってます。ちょっとした「祭り」状態です。

普通の子供並みにアニメが好きな小学生だった僕ですが、そう、それは小学校5年生の秋、出会っちゃったんですね、あるアニメに。それが『宇宙戦艦ヤマト』だったのです。

なんかね、すべてにおいて、それまで見てたアニメとは違っててねえ、いやあ、子供ながらハマリました(笑)。思えば、今の僕のかなりの部分、この『宇宙戦艦ヤマト』との出会いが始まりになってる気がします。マンガをいっぱい読むようになったのも、SF小説に興味持ったのも、プラモデル買って作るようになったのも、天体に興味持って天体望遠鏡欲しくなった最初も、みんな『宇宙戦艦ヤマト』にはまったこの頃でした。

というわけで、今回は『宇宙戦艦ヤマト』のことを「色彩設計おぼえがき」っぽく「色」の視点から書いていきたいと思います。

まずは僕の好きなシーンを(笑)。

第1話……なんと言っても沖田艦長のモノトーン系の色変えシーン。ガミラス艦隊の攻撃に、被弾した沖田艦の艦橋で撤退を決断するシーンです。アラートな感じの赤トーンのBGの中で、冷静に決断を下そうとする青グレーな感じの沖田艦長にグッときました。この話で登場のガミラス戦艦と突撃艦ゆきかぜの造形と色は、『宇宙戦艦ヤマト』のデザイン群で僕の好きなものNo.1です。

第2話……古い戦艦大和の残骸をふるい落とし現れるヤマト。日没後の薄暗い地表をバックに登場するヤマトの重そうな色味がいいです。ショックカノン(主砲)を撃った時、船体が受ける光の照り返しの色と作画に子供ながら「おおっ!」と思ったのでした。

第3話……超大型ミサイルの爆煙と炎をバックに飛んでくるヤマト。これ多分セルBookかハーモニー処理なんじゃないかと思うんですが、いやあカッコイイです。こういう『決め!』なカットはやはり力入れて見せたいし、自分の仕事でもこういうカットではやはりひと味足したい、とそう思うベースになってます。

第4話……ワープの原理を説明する作戦室のフットライト調照り返しの色変えがカッコイイです。ワープ中の森雪の全裸カットには今でもドキッとします(笑)。

第5話……波動砲のハイコン色。「強烈な光の中のハイコン、むしろ2色塗りでいいんだよ」と僕は思ってるんですが、そんな思いのルーツかも、です。

第7話・第8話……冥王星の反射衛星砲の光とその照り返し色がいい感じ。ヤマトの主砲のグリーンに対して、ガミラスの光線類はピンク系なのですね。この区別の必要性は、自分が仕事始めてからよく分かりました。冥王星の現住生物の処理、セルのダブらし処理だと思うんですが、青黒い透明感が太陽から遠い星っぽくていいです。

第10話……地球との最後の交信で登場の佐渡医師の愛猫ミーくん。いかにも松本キャラな猫にすごく惹かれた記憶が。この辺が僕の猫好きのルーツなのかなあ。

第11話……実はこの話から、ガミラス人の肌が青くなってます。メインのキャラであるデスラー総統までも、肌の色から髪の色まで大胆に変更しちゃってます! それまでの話数では地球人とおんなじだったのですね。異星人っぽさを出して地球人と区別するため、だと思われるのですが、当時子供ながらに「第1話からそうなってればなあ」とつくづく思っちゃいました。それにしても、シリーズ途中でのこの大きな変更は、結構大変な決断だよなあ、と、思うのです。僕らも自分の仕事で、そこそこの小直しやマイナーチェンジはよくやるけれど、ここまで大胆なフルモデルチェンジみたいのは恐くてできないです(苦笑)。

第16話……野菜調達のため調査に降りた森雪とアナライザーがビーメラ星人に捕まる話。この話では随所で特殊彩色が使われてるんですが、中でも炎上するビーメラ星の都市をバックに1人佇むアナライザーの色変えが印象的。全体が影色っぽい暗い色味で、計器類だけが光って見えてるその姿は哀愁たっぷりで、色味でアナライザーの哀しみが伝わってくるようでした。

第25話……スターシャの髪、色トレス仕上なのですよね。……と思ってたら、今回よくよく見直して、ああ、スターシャは目や顔の輪郭などの肌の主線自体が基本色トレス? あるいは茶色のカーボントレス処理になってたのでした! 大変なんですよ、こういう処理は手間かかって! でもこの処理のおかげで、何とも神秘的な感じのキャラになってるのです。たぶん登場回数の少ないスターシャだけだから、手間のかかる処理もやりきれたのかな? って思います。

第26話……最終回、いつものオープニングがなく、いきなり本編が始まって、「ああ、最終回なんだ!」って痛感した記憶が今も鮮やかに残ってます。オープニングやエンディングに本編こぼすのって、なんかすごく「特別な話数」感がありますよね。『おジャ魔女どれみ』や『ガイキング』のエンディングで僕も作り手として体験しましたが、これ結構いろいろ大変なんですよ、お金(制作費)の問題とか、局や代理店との問題とか(笑)。

自分がアニメーションの仕上げの仕事するようになって、その上でこの『ヤマト』を見ると、やっぱり仕上げリテイクカットが気になります。当時はセル仕上げだったし、たぶんリテイク処理してるだけの時間的余裕がなかったんだろうな、って思います。

宇宙空間とかの暗い背景の上では、どうしてもセル傷や埃、ゴミが目立っちゃうし、色間違いの修正におもて塗りしたカットや色パカは無数に見受けられるし。まぁ、それもたぶん『ヤマト』の「味」にはなってるんだろうなと。

宇宙戦艦ヤマト本体の色の話。実は東映動画で制作した劇場版3本『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』『ヤマトよ永遠に』『宇宙戦艦ヤマト 完結編』の色と、このTVシリーズ第1作の色は違っています。どちらもグレーっぽい色味ではあるんですが、TVシリーズの方のヤマトは重さのある彩度の低い渋いグレー調の色彩。東映動画制作の『宇宙戦艦ヤマト』は全体に青みが入ったグレー系。どういう経緯でそうなったのか? 本当のところは僕は全然知らないんですが、ひとつには使ってた絵の具のメーカーの違いというのがあるような気がします。

『宇宙戦艦ヤマト』のTVシリーズは、太陽色彩という会社の絵の具で作られていました。一方、東映動画は、この頃にはスタックという会社の絵の具でした。この2大絵の具メーカーの色味、実は互換性がないのです。色数が多く、全体に彩度の低いマットな色調の太陽色彩の色に対して、全体に鮮やかな色調で色数の少ないスタック色。TVの『ヤマト』の色味をフンイキ一番近い色で塗っていったら、それが劇場版の青みが入ったヤマトになった。そんなところなんじゃないかな? と僕は思ってるんですが。

今回このDVDボックスに入ってたブックレットに、資料として当時の彩色設定が掲載されていました。で、初めてオリジナルの『ヤマト』の色指定、絵の具の番号を知ったのです。船体の基本がZ-4、船底と煙突の赤い部分の基本がZm-1。絵の具の番号の体系から見て、たぶん『ヤマト』用に新たに作られた色だったんじゃないかと思いました。いやあ、感激! プラモデル用の塗料で言うところの「日本海軍軍艦色」と「艦底色」ですね(笑)。やっぱり『ヤマト』はこっちの色で刷り込まれてるんで、どうにも東映動画の「青みヤマト」は好きじゃなくって。

いわゆる『宇宙戦艦ヤマト』ブームのあと、先にも書きました東映動画制作の劇場版3作、そしてTVシリーズも『2』『3』と作られましたが、僕にとって『宇宙戦艦ヤマト』と言えばやっぱり最初のTVシリーズです。「もし、また、新作が作られるなら僕も参加したい!」とか思ってた時期もありましたが、今ではやっぱりあくまで1人のファンとして大事に想っていたいですね。

■第8回へ続く

(07.02.20)