色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第95回 番外編 夏が来た!

関東甲信越は今週初めに梅雨明け宣言。連日30数度という真夏日を連発の東京地方です。

いやあ〜、来ましたね! 夏!

夏と言えばアニメ映画の季節ですよ!(←言い切りッ!)

というわけで、あまたの急ぎ仕事を後に回しまくって時間を作り(すみません>関係各位)、この夏話題の2作品を観てまいりましたよ! 『ヱヴァンゲリオン新劇場版:破』と『サマーウォーズ』。どちらもクリエーター心、アニメ屋心を揺さぶられる作品でありました。

さてさて。

まずは『ヱヴァンゲリオン新劇場版:破』。

とにかく「圧巻!」でありました。その上で感想、ひと言で言うと「なるほど、そう来たか」であります。

新たに展開している『ヱヴァンゲリオン新劇場版』シリーズは、とにもかくにも旧作TVシリーズ&劇場版という過去ヒット、というかブーム起こした作品があって、いろんな意味でみんな「熟知してる」作品なワケです。劇場公開の宣伝も兼ねて、この夏深夜地上波で旧作TVシリーズの再放送をやってますしね。

で、ついつい僕も観ちゃってたんですが、観てて思うのは、やっぱり「古い」ということと「限界」ということ。

当時斬新であった様々な映像表現は、当時基準では斬新だったんだけど、僕らが見すぎちゃったってのもあって、あらためてみると、ある意味この手の映像のスタンダードになっちゃってるんですね、今の時代の。だからやっぱり「古い」。

そして旧作はまだセル&フィルムなアナログ制作の画面でありました。確かにところどころにはデジタルな感じは見受けられるものの圧倒的にアナログ・テクノロジーで作り上げてた「デジタル感」。それはやっぱりいっぱいいっぱいで、だから「限界」。

で、じゃ、いま、あらためて何を作って見せるのか? という時に、映像やエフェクトをブラッシュアップしても、ただ同じようになぞって同じことをやっても、意味はない。新劇場版の1本目『序』は文字どおり「導入部」であったから、ある意味「同じ」であることが必要だったわけだけど、今回のこの2本目こそが、『ヱヴァンゲリヲン』となった本作品シリーズの本領発揮となるんだろうなあ、とは思って待ってました。

いい意味でも、また損な意味でも、旧作TVと旧劇場版は非常にやっかいなハードルですよね。確実に越えなきゃならないし、ただ越えてもおもしろくないし。でも、その越え方に制約はないからこの際ルール変えちゃってもいいわけ。

で、ルールを変えちゃった。お話の再構築〜新しい展開〜新しいお話、そして新しいキャラの配置。

そうしちゃえば、勝ち、ですよ。で、圧勝。いやはや。観終わって、さすがにクラクラきました(笑)。素晴らしいです。

観にきてる人たちは、そのほとんどがみな「分かってる」つもりで観にきてて、で、「どれどれ、観てやろう」ってところから観てる。でもお話が進んでいくうちに「あれ? あれあれ?」ってな感じで、気持ちよく「裏切られて」いく(笑)。

「ぜ〜んぜん違うぢゃん! お話が!」僕の後ろで観てた女の子たちが、帰り際に興奮してました。

とにかく物量、圧倒的な画面密度、間を置かないたたみかける演出のキレ。あっという間の2時間でした。そして早く「次」が観たい(笑)。

CGの使い方と撮影がさらに絶妙になってますね。それを支える色設計、大変だったろうなあ。こういう作品、やりがいあるだろうけど僕にはムリだろうなあ(笑)。もうね、大絶賛であります。

そして『サマーウォーズ』であります。

公開前、特別に試写会に行くことができまして、一足早く観させてもらっちゃいました。

で、感想。

がははははは(笑)。やられちゃいました! またしても(笑)。

昭和38年生まれの僕らの世代で夏のアニメって言えば、8月の第1週に公開と決まってて、『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』とか『銀河鉄道999』とか、ね、そんな大宇宙が舞台の大スケールなSFアニメたちでありました。そんな中学〜高校時代。

そんな僕らとほぼ同じ世代の細田くんが持ってきたのは、夏休み、田舎の旧家、大家族とおばあちゃん、でありました。

Webの仮想空間世界と、いまやその仮想世界と密接にリンクしてる実世界。ある日仮想世界で起きた大事件が実世界に大きな障害を巻き起こしていきます。そしてその混乱を収拾すべく、長野県上田の片田舎の旧家から仮想世界との「闘い」が繰り広げられる、という物語。

公開前なので、どこまで書いちゃっていいのかわかんないですが、もうね、なんと言っても、おばあちゃん、です! 凛として決然としていて、自分の家族のみならず大きく「家族」そして「人」を守ろうとするその姿が、僕らの気持ちの深いところを揺さぶります。そしてそのおばあちゃんと頂点としてつながってる「家族」のありよう。

先の『ヱヴァンゲリヲン』とは対照的な「家族」の描き方でありますね。でも、根ざしてる部分はおんなじだったりしてる気がします。

ただ、悪い人間がいない(出ない)というのは、僕にとってはこの上なくステキです。

夏休み、田舎の旧家、大家族とおばあちゃん。実は僕、本編観る前の時点で、すでにこのみっつでやられてました。

東京生まれ東京育ちの僕には、実は田舎で過ごす夏休みっていう体験がありませんでした。なのであこがれだったんですよね。そんな僕でも、なにか心の深いところにジンワリと染み渡っていく柔らかさがありますね。

そして、おばあちゃん。ああ〜、僕はね、弱いんですよ、おばあちゃんに。っていうか、おばあちゃんて、きっと誰にとっても最強最高の存在なんじゃないかなあ? たぶんね、おじいちゃんよりもおばあちゃんなんですよ。少なくとも、男子にとってのおばあちゃんっていうのは、それはもう特別最上級の存在なんですよね。それを思い出しました。

『時かけ』で僕らが学生時代に置いてきちゃった甘酸っぱい気持ちを突っつき、今度は、子供時代から今に至る田舎と自分、家族と自分の距離感の大切な部分を突いてきた、そんな気がしてます。いずれにしても、この『サマーウォーズ』、僕らくらいの世代を含む「大人」には極めてストライクッ! な作品、っていうか、「また、やりやがったな(ニヤリ)」っていう作品です(笑)。

実は今回、マスコミ向け試写会で観させていただいたのですが、僕の両隣、本編中泣きまくりでありました。かく言う僕も、シッカリやられちゃいました。

ああ〜、なんか悔しいです(笑)。そんな素晴らしい、夏の1本、でありました。

細田くんと言えば「影なし作画」と「空気遠近法的透明感な画面密度」。一見、物量密度的には『ヱヴァンゲリヲン』と似てるんだけど、ただ密度のとらえ方は、真逆な感じであったりします。

とにかく、好対照な2作品でありますよ、この『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』と『サマーウォーズ』。もうね、掛け値なしにこの夏おすすめの2作品でありました。

……あ〜、それにしても悔しいぞ!(苦笑)

■第96回へ続く

(09.07.17)