色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第93回 昔々……(56) 『Coo』色指定書の作り方 その1

先日、『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』のBlu-ray版をいただきまして、早速自宅で観てみました。

いやはや、Blu-ray、キレイすぎ。……っていうか、見えすぎ(汗)。

色ツヤがとっても鮮やかに再現されてまして、それについてはとっても申し分ないんでありますが、とにかく細部まで鮮明に見えすぎちゃって、実はこっそりごまかしておきたかった部分まで、ハッキリとさらされてしまってたのでありました(滝汗)。

いやぁ、ヤバイですよ、Blu-ray。

『キャシャーンSins』なんかはTV作品ではあったけれど、放映は地上波デジタルでもあったし、最初からBlu-rayで発売されるってことを前提に画面作りに取り組んでいたわけなんですが、この『日本爆裂!!』は、そもそもは劇場でフィルム上映される、ということに合わせての画面作り、だったわけです。大きめなスクリーンに上映される映画ではありますが、フィルム上映っていう形態、状況から、当然多少画像が甘めに映るワケで、そういうことを踏まえていろんな場面で「ここまでやっておけばOKかな」と考えて作ってたのです(←手抜きじゃないよ!)。

それがね、スコーン! とクリア過ぎな画面で見せられちゃったわけで、正直大汗モンでありました。

最近はTV自体もだんだん液晶ハイビジョン 機になってるわけだし、加えてBlu-rayだし、いやはや、最終的にどういう形態になって行くのかまで考えていろいろ心してかからなくちゃならないですな!

さてさて。

たしか前にも書きましたが(←書いたか?(汗))、「色」の仕事の流れはだいたいこんな感じです。

1.作品全体の概要について監督の話を聞き、「だいたいこんな感じ」というところを頭に置く。

2.キャラクターデザイナーから上がってきたキャラクター設定をもとにセルの色見本の試し塗りをする。

3.監督以下メインスタッフで色見本をチェック。作品の基本になるキャラクターの色を決定する。

4.決定した色をもとに彩色用の設定(「色指定書」「色指定表」とか呼び方はいろいろ)を作成する。

5.絵コンテをもとに、監督、美術と全編の内容の打ち合わせ。

6.夕景だったり、夜だったりなど、それぞれのシーンの美術ボードに合わせて色見本を作り(修正し)、シーンごとのキャラクターの色を決定していく。

7.シーンごとの色指定用(特殊彩色)の彩色用設定も作成する。

8.本編のカット(動画、原画)ごとの色指定をする。

9.彩色上がりを検査、撮影出しへ渡す。

10.撮影上がりのラッシュ・チェック。リテイク出し。

11.リテイクカットの処理対応し、さらにラッシュチェック。ほぼ最後まで立ち会う。

12.完成、納品、めでたしめでたし(時には打ち上げの宴)。

だいたいどの作品もこんな流れになってます。これらの合間に個々のカットなどの処理についての打ち合わせや、その決め込みのためのテスト作業+チェックなどが繰り返されていき、だんだんに細かく様々なカットが具体的に画面になっていくわけです。

いよいよ『Coo 遠い海から来たクー』の作業が本格的に動き出してきました。徐々に原画が上がり始め、動画作業、そしていよいよ仕上にカットがまわりはじめました。となれば、そろそろ色指定して彩色にまわしていかねばなりませんが、そのためには作っておかなくてはいけないモノが。そうです、彩色作業のための設定、彩色作業の設計図、「色指定書」の作成です。

「色を作る」「色を決める」という作業も大事なのですが、この「色指定書」の作成も、「色」の仕事上、重要なポイントなのです。

僕らが色指定を入れたカットは、仕上の彩色スタッフの皆さんに塗ってもらうわけなのですが、実際のカットの絵柄すべてにいちいち絵の具の番号を指定していくのはムリ。手間がかかる上に非常に見づらくなってしまいます。なので、設定画があって多くのカットに登場するキャラクターは、「色指定書」という彩色用の設定をあらかじめ作って彩色スタッフに渡しておいて、それをもとにして塗り進めてもらうわけです。これを作るのも、僕ら色彩設計、色指定の仕事です。

この作業、デジタル彩色になった今でも、デジタルデータで作っています。コンピュータで彩色作業するので、色指定データから色をツールで拾って、その色をそのまま画面上で置いていけばそれでOK。色指定データの色味のまんま、動く画ができ上がっていくわけです。

ところがセル彩色だった当時は、それを紙の設定上で絵の具の色ナンバーだけで指示していき、彩色スタッフはその設定を頭に入れて、あるいは首っ引きで、セルに絵の具を置いていく、というわけです。

そんな彩色の設定「色指定書」をどんな風に作っていたか。

まず、キャラクターの設定画のコピーを用意します。東映の場合、たいていどの作品も基本はB4サイズでキャラクター原版を描いてもらっていたので、その100%コピーのB4サイズで色指定書も作っていました。

で、その設定画に絵の具のナンバーを記入していくわけなのですが、設定画によっては、角度的に描かれていない部分があったり、ディティールを説明している寄りサイズの画は別の設定画に分かれていたりと、数枚に分けて描かれていたりすることが多いのです。それらをもとの設定画をそのまま使って色指定書を作っていたら、1体のキャラクターを彩色するのに2枚も3枚も色指定書をめくって調べなければならないことになってしまいます。それは彩色する側にとってはとっても迷惑なことなのです。

彩色作業をする際の状況は、片手に筆、もう片手に絵の具の小瓶、というふうにほぼ常に両手はふさがっているわけで、そんな状況で色指定書のページをめくるのはとっても面倒だったりするわけです。たいていの場合、自分の彩色机の周りに今塗ってるキャラの色指定書を貼りだして、参照しながら塗ったりするんですが、それでも2枚3枚と貼りまくるスペースもビミョウだし、そもそも2枚3枚見なきゃならないこと自体面倒だし、面倒が多いと塗り間違いなどの事故が起きやすくなるわけですね。

なので、色指定書をできる限り1枚に確実に見やすくまとめる、ということを考えていました。

何枚かに分かれている設定画のコピーを、描かれているキャラ、パーツごとに一旦バラバラに切り離していきます。それらから色指定用に必要な情報を満たしているアングル、パーツを取捨選択していくのです。

例えば人物キャラの設定ならば、全身正面、全身背面、場合によっては横面、そして顔の寄りサイズ、さらに目の寄りサイズ、と、だいたいこれくらいのパーツが必要になります。

それらをあらためてB4サイズに収まるようにレイアウトし直していきました。パーツによってはコピー機の機能を使って縮小したり拡大したりもしていきます。こうして、パッと見て、そのキャラクターの色のあらましがわかるような1枚の設定に作り直していくわけです。

当然ケースバイケースで、ムリに1枚にまとめない方が見やすいものもありますので、そういう場合は整理しつつもムリにまとめすぎない、というのも肝心です。

で、切り貼りしてレイアウトし直したものを、もう一度キレイにコピーを取ります。それにようやく絵の具の番号や塗り分けの指示を入れていくのです。

■第94回へ続く

(09.06.18)