色彩設計おぼえがき[辻田邦夫]

第84回 DVD&Blu-Ray発売記念!『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき(その5と1/2)

先週から今週にかけては、もうね、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が僕の生活の中心でありまして、試合の放送時間に合わせてその日の僕のすべてが決まる、そんな日々でありました。で、初号試写すっ飛ばしたり、打ち合わせの時間ずらしてもらったりと、どうもすみませんでした>関係各位

そんな皆さんのご協力のおかげで(笑)、見事、日本が優勝できました!(←「サムライJAPAN」って言い方、ダサくて嫌いです(笑))

でもね、あの決勝戦、ホント、どっちが勝ってもどっちが負けても、もうそんなのいいジャン! ってくらい、いい試合でありました。まさに世紀の一戦! 9回裏に追いつかれちゃった時、実はちょっと嬉しかったんですよ。ひとつには「ああ、これが野球の醍醐味なんだよな」と。それと「ああ、もう少しこの闘いが観られるんだ!」と。

たぶんね、一生忘れられない、そんないいものを見せてもらった気がしてます。

あ、それと……

「大きいテレビ、買っててよかったぁ!地デジ、バンザイ!」

さてさて。

『キャシャーンSins』色彩設計おぼえがき、今週は本編第19話〜第21話まで(←まだまだ終わりませんでした(笑))。

■第19話「心に棲む花を信じて」

脚本:吉田玲子 絵コンテ・演出:中山奈緒美 作画監督:奥田佳子 色指定:小日置知子

#18で心の中の葛藤にひとつの答えを出したリューズ。「キャシャーンを殺す」という与えられた使命がなくなってしまった今、気持ちの支えを失ったリューズは、現実に戻って、今度は自分自身の「滅び」とその恐怖に直面していきます。永遠に生きるキャシャーン、滅びが進んでいくリューズ。そんな気持ちに追い打ちをかけていく女戦士ヘレネの言葉。

僕の中では、#19からはいよいよラストスパートの始まり、そんな気持ちで臨んでいました。

演出の中山さんからは「リューズの気持ちに添って色をつけていきたい」との話でしたので、シーンごとの色替えの他に、闘いの最中とか、気持ちの優劣に沿うようにキャラの影にムラサキを入れてみたり、洞窟内で自分の心を抑えて淡々と話すシーンでは、できるだけ抑揚を抑えた単色系モノトーン調の色を作ったりしています。

未明の雨の闘いから、ヘレネの最期を境にして一気に朝が明けていき、同時にリューズの気持ちからも迷いが消えてゆく。そんな一連のシーンを美しく作りきれたら勝ち、そう考えていたので、もう100点満点自画自賛であります(笑)。

ちなみにヘレネが死んでゆくカットは、色指定の小日置さんの素晴らしい、いい仕事。ラフなイメージだけ伝えて、小日置さんにお任せで色味を作ってもらったスペシャルなカットでありました。

■第20話「誰がために花は咲く」

脚本:高橋ナツコ 絵コンテ・演出:eunyoung CHOI 作画監督:eunyoung CHOI 色指定:秋元由紀

とうとうたどり着いたルナの治療院。ドゥーンとの再会。そしてルナ。ところが実際のルナは「癒し」のイメージとはほど遠い冷酷な存在であったのでした。それでもそんなルナに仕えるドゥーン。

演出そして原画・作監のウニョンさん。

実は僕は彼女のことを全然知らなかったのですね。それまでの仕事も観てなかったし。ところが、ゆきえさんと3人でやった美術ボード打ち合わせ、やってる最中に彼女の大ファンになってしまいました(笑)。あんなに打ち合わせの中身にドキドキしたのは久しぶり。さらに色指定打ち合わせでは、同席した色指定の秋元さんを置いてけぼりにして、ウニョンさんと僕と2人で盛り上がってしまい、その産物があの#20のとんがった色彩であります(笑)。

昼間はさほど変わりないいつものキャシャーン的色彩に、夜は非現実? と思わせるような不思議な表情を持たせた色彩に、と、考えました。

シナリオを読んだ段階で「この#20では『すっごく現実なんだけど、それを通り越して現実感が飛んじゃった感じ』にできないかな?」と僕なりに思ってたんですが、それがまさしくウニョンさんのセンスでピタッ! と「来ちゃった!」感じに僕の中ではまってしまいました。

流れ的には、まずウニョンさんとゆきえさんと僕とで美術ボードの打ち合わせ。そこで伝えられたイメージから、ゆきえさんが美術ボードを描き、そのボードに乗せて僕がシーンごとの色味を作っていきます。あらかたできたところでウニョンさんとサンプルを前に詰めていきます。そこでOKをもらった色彩設計を基に、今度は色指定さんを交えてカットごとの細かい打ち合わせを積んでいきます。

美術ボードに僕が色見本を組み上げたシーン設計にウニョンさんの突っ込みが入り、それに応じて僕がさらに新しいアイデアを出していく、というやりとり。基本的にはどの話でもそういう段取りなんですが、なんかね、ウニョンさんとのやりとりは瞬発的かつメチャクチャ濃ゆい感じで、そのやりとり自体が、いやあ、楽しかった!

この#20にウニョンさんを配したのは監督の采配? 制作PDの藤尾さんの采配? いずれにしてもハマリでしたね。そんなウニョンさんと、また一緒に仕事したいです!(笑)

■第21話「失望の楽園」

脚本:吉田玲子 絵コンテ:宮下新平 演出:木村延景 作画監督:清丸悟、齊藤格、たかにゃー、土河紀夏、桜井正明、北尾勝 色指定:駒田法子

ルナに不信感を抱いたキャシャーンたち。そこへ合流したオージから聞いた「かつてルナは不死のロボットに『寿命(死)』という「癒し」を与えていた」ということ。一方、今は「癒し」と称して「不死(永遠の命)」をばらまいているルナ。不死を与えられて享楽的にただ生きているロボットたちの街。ルナのために死んだドゥーン。滅びを抱えながらもルナの「癒し」を拒否するリューズ。いろいろなものがキャシャーンにのしかかり、葛藤から無抵抗にディオの軍団に壊されていくキャシャーン……。

この#21はシリーズ2度目の制作グロス回でありました。スタジオ・ファンタジアさんが作画〜仕上げを担当。

#20との対比、ということもあって、この回では割と淡々とシーンの背景合わせにシーンを設計するにとどめてあります。実はこのあとの#22でたくさんいろんな事するつもりだった、ってこともあります。

不死を得て享楽的に暮らす街のシーン、演出の木村氏からの説明は「極彩色なんですよ!」とのこと。ところが、この『キャシャーンSins』、ず〜っと色を殺して彩度低めの画面を作ってきたもので、「極彩色」っていうその塩梅がイマイチうまく出てこなくて、「じゃ、どれくらい色をつけていいのか?(汗)」と。それは美術さんも同じだった模様(苦笑)。

ラッシュチェックの時、画面にすんげぇハデな石ころが画面に登場しまして、それ見て思わずドキッ! としちゃいました(笑)。いま思えば、も〜っとハデに弾けててもよかったのかなあ? と(苦笑)。

夜の湖畔、石投げしてラブシーンなシーンの色は、実は#19の「雨の花畑」の色指定を使ってます。たまたまこのシーンの美術ボードに色見本乗せてみたところピッタリだったので、採用です。こんな感じで使い回し(←イヤな言い方(苦笑))したのはほとんどなくって、他の話で1〜2回あったくらいです。

ラストの踏みつぶされていくキャシャーンのカット。木村氏がエンピツでザクザクザクザクっと描いた斜線の素材を彩色上がりの上に合成して、キャシャーンの荒れた感じを作ってます。なんにでも使える表現方法ではないですけど、キャシャーンの作風にはとっても合ってる気がして、結構好きであります。

……そんな感じで19話20話21話でありました。

そして、22話、なのですが……

「22、23、24のお尻3本は僕が自分でやる!」と山内監督の爆弾宣言! これだけ制作スケジュールが切羽詰まってきてるのに、ラスト3本は絵コンテ+演出まで全部山内監督自ら、という、ある意味無謀で危険きわまりない、そんなハラハラドキドキが密かに進行中だったのでありました……。

■第85回へ続く

(09.03.26)